帝国軍による何度目かの遠征。
湿地帯を進むこと数日。行軍が続いていた。
12月も半ばを過ぎて、天候は頗る悪い。
そんな中、帝国兵セリス・シェールは湿地の真ん中で独り、途方に暮れていた。
「皆、どこにいるの?」
セリスは大きな声で叫んだが、空しく、自らの声だけが響いた。
サーッという雨音が聞こえるだけ。
周囲は雨と霧に包まれ、気温は数時間前より大分下がっている。
息は白く、手がかじかむ。
呼びかけに対して返事はなく、誰にも届いていないようだった。
「どうしよう。」
完全に皆から逸れてしまったんだ。
途方にくれ、ただ、何か手がかりが掴めればと、当てもなく彷徨う。
が、雨がますます強くなるだけで、解決の糸口が掴めることは無かった。
(はぁ。)セリスはため息をついた。
グルルルル
突然うなり声がして、慌てて周りを見渡した。
モンスターだ!
5体もいる。
はぐれた事により冷静さを欠いて、状況の判断を怠ってしまった。
いつの間にか、危険な魔獣の潜む地域に入り込んでしまったようだ。
(この魔獣は…今の私では勝つことは、難しい。)
セリスは思った。
本来なら退却すべき相手だが、最悪なことに囲まれてしまっている。
数匹は倒さなければ、逃げだすきっかけすら得ることも出来ないだろう。
じわじわとにじり寄る魔獣。
セリスにはその様子を睨み付けることが、精一杯だった。
「ブリザド!」
セリスは魔獣に向けて、渾身の力を込めて魔法を使った。
それが今のセリスに出来る最大限の攻撃だった。
魔法を受けた魔獣は一瞬仰け反った。
が、次の瞬間には頭をぶるりとさせ、復帰してしまう。
(私の魔法では1匹すら倒せない。)
絶望感が胸を過ぎった。
仲間とはぐれ、状況の判断を誤った代償は大きかった。
MPはもうすぐ底を尽く。
打撃に強い生物だ。剣では歯が立たないだろう。
エーテルはとうに無く、残るのはポーションが1つきり。
敵はまだ5体もいる。
絶対絶命。
八方塞がりな状況に、セリスは焦ることしか出来なかった。
そこへ、
「ブリザラ!」
背後から、魔法を唱える声がして、同時に魔獣を大氷塊が覆った。
聞いたことのある声だと感じた。
どぅん、とあれほどセリスが苦戦した魔獣が、いとも簡単に倒れた。
セリスは直ぐに後ろを振り返った。
魔法を放った人物が立っている。
ケフカだ。
ケフカは倒した魔獣をすり抜けて、こちらに走り寄り、二人は背中合わせになった。
「ここを乗り切るぞ。」
ケフカは短く言った。
「あ、あの…。」
セリスは今の状況を理解しきれず、ケフカにおずおずと話しかけた。
しかし、
「敵から眼を離して良いと誰から教わった?」
ケフカは冷たく言い放たれてしまう。
その言葉にセリスははっと我に返り、正面の魔獣を見据えた。
「お前はアイツをやりなさい。」
ケフカはセリスの正面の1体を指差し、命じた。
「はい。」セリスは身が引き締まる思いで答えた。
「回復はしない。一気に蹴りをつける。いいな。」
「分かりました。」
「心してかかれ。」
その一言でセリスは目の前の敵に集中した。
敵を倒すことが出来、セリスははあはあと、息を切らしていた。
セリスにとってこの魔獣はやはり強敵で、戦闘不能に陥る寸前だった。
セリスが疲れて膝に手を付き俯いていると、不意に背中から温かい光を感じた。
ケフカがケアルをかけたのだ。
少し楽になる。
「ありがとうございます。」セリスは礼を口にした。
ケフカは言った。
「当然のことに過ぎない。MPが無いならポーションは残しておけ。」
ケフカの物言いに、セリスははい、という他無かった。
戻るのは無理だな。
方位磁針を確認して、ケフカはつぶやいた。
周囲は未だ濃霧に覆われ、徐々に夜が近づく。
「夜も明ければ、晴れるだろうが。」ケフカは雨にうんざりした様子で言った。
「迷惑を掛けて、すみませんでした。」
まさか、軍の中枢の役職にあるケフカの手を煩わせることになろうとは。
セリスは自分が情けなくなって、謝った。
セリスの言葉を聞くと、ケフカは振り向いて、ふんと少し鼻を鳴らした。
「次は命がないと思え。」
「はい。」
「易々と死なせる訳にはいかないからな。」
「え?」
「お前は魔導の力がうまく作用している、ルーンナイトだ。死んだら大きな損失なんだ。」
ケフカはそう言って、前方を指差す。
「あっちに、洞窟がある。いくぞ。」
ケフカはとっとと歩き出したので、セリスは急いで後を追った。
二週間前。
ケフカはある娘といくらかの兵を従え、焦土と化した町を歩いていた。
娘の名はティナという。
齢は十を少し過ぎた頃で、見た目はただの子供であったが、「普通」ではなかった。
娘の父親は幻獣、母親は人間。
幻獣と人間のハーフだった。
何故、その娘とここにいるのか。
この町は帝国軍との戦の前線に位置する。
戦況はまだ結しておらず、小競り合いが続く。
娘が使う魔法。
その力がどれ程、敵に通用するのか。それを試すためだった。
まずは帝国の小隊と合流すべく、状況を把握している小隊長を目的に歩く。
歩を進めるに連れて、徐々に周囲は騒がしくなる。
傷を負った者とそれを気遣う者。
帝国兵たちの会話が耳に入る。
重症を負っている一般兵がいる。
「おい、大丈夫か?」「ポーションを使え。」
「あともう少しだ。頑張れ。」
彼らの会話を、娘はちらちらと見ていた。
「あ、ケフカ様。」
小隊長がこちらに気づき、声をかけてきた。
「酷い有様だな。」ケフカは辺りを見回した。
煙が立ちこめ、家々は崩れている。
帝国の兵はもちろん、巻き添えになった一般人がちらほら倒れている。
「ゲリラです。あいつら大人しくしていれば良いものを。」
小隊長は舌打ちをした。
「怪我人が多数出ているようだな。ここは我々の隊に任せ、救護にまわって良い。」
ケフカは言った。
小隊はかなりの深手を負っている。
それならば自分が連れてきた隊と役割を入れ替えた方が良いと考えた。
「いや、そういうわけには。」
小隊長は少し拒んだ。
しかし、
「戦況は変わった。臨機応変に動いた方が良い。」
ケフカがそう言うと、小隊長はあとは頼みましたと声を発し、その場を去った。
ケフカは小隊長が退いた帝国軍の最前線にて、出撃の準備を始めた。
傷つき倒れている帝国兵たちに紛れて、跪いて泣いている女がいた。
傍らには一軒の全壊し無残な姿となった、家。
おそらく女の物だろう。
身内の者も死んだのかもしれない。
ケフカを初め帝国の者は女に視線を送るが、
女は彼らに気付くことなく、嗚咽を漏らし続けていた。
ケフカらが女の傍らを通り過ぎようとした時に、不意に娘…ティナが立ち止まった。
何事かとケフカは思い、つられて歩みを止める。
ティナが口を開いた。
「あの人は、大切なものが壊されて悲しいので、泣いているのですね。」
ティナは憐みの表情を浮かべていた。
ケフカは思わずティナを凝視した。
それまで許可なく口を利いたことが無かったからだ。
「かわいそうです。」
ティナは同情を口にした。
「……余計なことを気にするな。」
ケフカは娘の言動を諌めた。
ケフカは冷静にティナの言動を諌めたが、内心驚いていた。
幻獣と人間のハーフである娘。
それが自分とは無関係の人間に対して「同情」を顕にしたこと。
自らは実験体や兵器のような物として扱われてきたにも関わらず、
人間らしい感情を持っていたことに。
ケフカの隊はおおよその予定の地域に到着した。
ものの数分で思ったとおり、数人の敵兵が現れる。
無論、通常子供一人で相手出来る数ではない。
「あそこは、お前に任せる。時間が掛かっても良い。倒してみよ。」
ケフカは命じた。
娘を見守りつつ、危険が及べば助けるつもりでいた。
ケフカの命令を受け、ティナがおずおずと進み出る。
そして魔法の詠唱を始め、その小さな口が「ファイア」と唱えた。
その瞬間、一人の敵兵の体が爆炎に包まれた。
「ぎゃー」
と叫び声が響き渡る。
その力に幻獣と人の差を見た気がした。
あっという間に、一人が倒れ、一人、また一人とティナは着実に倒していく。
わずか数分で、敵は恐れをなして退いた。
隊に合流するために戻ってきたティナには、大した怪我もなかった。
しかし、その表情は憂鬱その物だった。
「どうした。」ケフカは声をかけた。
ティナは首を少し振った。
人の焼ける臭いがする。
その焼け焦げた死骸は、たった今ティナが作ったものである。
無理も無い。子供なのだ。ケフカは思った。
「戻るぞ。」
ケフカはそれだけ言った。
ティナは帝国で実験体であり兵器のような物として扱われ、教育されてきたが、
周囲の人間を見ているうちに、「感情」を知ったのだろう。
今の戦いにおいても、おそらく、本来の力の半分も出てはいない。
人を殺めることが「嫌」だったのだ。
しかし、それでもその力は一般の兵など問題にならなかった。
親と引き離されなければ、幸せに暮らせたのかもしれない。
それを奪ったのは、ケフカ自らを含む他ならぬ帝国だった。
我々は、あまりにも酷な事をしているのではないか。
そう思わずにはいられなかった。
前線から戻り、数日が経った。
ここはベクタ。
皇帝の間。
ケフカと皇帝が対峙している。
ケフカは皇帝に尋ねた。
「皇帝。あの娘をいかがするおつもりですか。」
皇帝は白く伸びた眉の間から、じろりと目を覗かせて口を開く。
「今更なことを言うな。ケフカよ。」
「はい。」ケフカは答えた。
「お前は先の地へ、何をしに行ったのだ?」
皇帝の語気は強かった。
「…。」
無論、あの地にはティナの力を試すために赴いたのだ。
それは即ちどういうことか。
ティナを帝国の兵器として使うためである。
分かっていたことだ。
ケフカは、自分が娘の身を案じていた事に気がついた。
ケフカは負い目にも似た感情を抱き、皇帝の目を直視出来ない。
皇帝は全てを見透かしたような顔をしている。
いや、そう見えただけかもしれない。
皇帝は続けた。
「魔導の人間への転用は可能になった。娘は素材としての役割を終えたのだ。」
皇帝の発する威圧感と緊張が重く、ケフカは知らず知らずの内に手の平を握った。
「そう。素材として用済みだ。ならば、この娘も始末するか?サマサの連中の様に。」
皇帝は薄く笑って言った。
ケフカの体がギクリと反応した。
悪夢のような光景がフラッシュバックする。
数年前、サマサの魔導士たちは帝国の魔導の研究のために、ベクタに連れてこられていた。
一通りの実験が終わり、成果は得られた。
ケフカたちは彼らの拘束を解いた。
その時だった、彼らは一斉に暴れだした。
帝国の研究所内で蜂起したのだ。
サマサの誇り高き魔導士たちは帝国に力を貸すことを良しとしなかった。
人知れず研究成果の破壊とシドの殺害、幻獣の解放を企てていた。
彼らは常人には無い力を持っていたが、数で上回る我々に適うはずは無かった。
魔導研究所の長であるシドは、あっという間に屈強な兵たちに守られ、難を逃れた。
重要な機材や幻獣の檻も一瞬にして守られ、サマサの魔導士たちはそれらに近づくことすら出来ずに、
次々と息絶えた。
全てが終わり所内には鉄の様な匂いが立ち込める。
赤い、赤い光景。
我々は守るべきものを守った。
それなのに、剣を抜く音、怒号、悲鳴、憎しみに満ちた目がいつまでもケフカを捕えて離さないでいた。
「だが。あの娘は連中と違って殺すには惜しい。」
皇帝の声が、現実へと引き戻す。
目の前に座する男。
「殺すのが何故惜しいか。明らかに兵器としての価値があるからだ。そうだろう。それが分からぬお前ではあるまい。」
皇帝は少し笑った。
ケフカはその様子に眉を顰め、皇帝を見上げたが、皇帝はその動作を見逃さなかった。
ふん、と鼻を鳴らして皇帝は言う。
「どうやらお前は迷っている。」
「…どういう事ですか。」ケフカは意図が掴めず口を開いた。
「娘は最近「感情」を持ち始めているようだ。我々がそのようなものを教えるはずは無いのにな。」
皇帝に言葉に、ひやりと心臓が冷えるのを感じ、ケフカはそれを隠そうとした。
「救いたい。か。傲慢なものよ。娘が人と変わらぬと知って情が涌いたのだ。」
「…。」ケフカは言葉に窮した。
「まあ良い。お前の甘い考えが、娘に感情をもたらした。」
皇帝は続けた。
「全くお前もシドも余計な事は考えんでも良いのだ。」
皇帝はそう言った。
シドのことは、シドが娘のようにかわいがっているセリスを指しているに違いなかった。
「兵器に感情などいらぬ。貴重な戦力に余計な事は吹き込みたくはない。一切な。」
皇帝は再び語気を強める。
「重要な戦力に綻びを生じさせた責任を取れ。本日より娘の指導者の任を解く。今後娘に近づくでない。」
突然の命令にケフカは御意、と答える外無かった。
今の自分に命令を全うすることが出来るのか。
答えは否であると感じていた。
去り際に皇帝はケフカに言い放った。
「迷いはいつか身を滅ぼす。それを肝に銘じるが良い。」
皇帝の間から出たケフカは、しばし呆然としていた。
廊下が果てしなく、長く感じる。
ティナはどうなるのだろう。
その行く末を思った。
考えても、もはや近づくことは許されなくなってしまった。
任を解かれ、関与することはもう出来ない。
それが中途半端にティナに同情した結果だった。
娘の未来が血塗られているのは間違いの無い事。
見捨てたも同じだと思う。
救えなかった。
しかし、一方でケフカは安堵している自分に気が付いている。
娘の悲惨な行く末を見なくても済む。
ケフカは己の無力さだけでなく、非道な自分に焦燥を覚えた。
皇帝の言うとおりだ。
迷い、感情。
そのような物は初めて人を殺めた時から捨てたはずだった。
帝国軍に属している以上、それらは必要が無い。邪魔なのだ。
頭では分かっている。
12月のある日。命令が下った。
娘の指導者を外されたケフカは、遠征に加わる事になった。
隊に加わったケフカは、そこでセリスが遭難したと知る。
ケフカは他の者が止めるのを聞かず、外へ飛び出した。
帝国軍遠征
ケフカとセリスは見つけた洞窟で一夜を過ごし、夜が明ける前に帝国軍陣地へと向かって出発した。
長く降り続いていた雨は止んでいたが、12月の早朝、気温は低い。
セリスは昨日の行軍と遭難で疲弊している様子だった。
多少の怪我も負っている。
二人は数時間を費やして、陣地にたどり着いた。
陣地に到着後まもなく、ケフカはセリスを連れて救護班の元へ向かう。
セリスの足元が少し覚束ない。
「大丈夫か?」
道中ケフカはセリスに尋ねた。
セリスは、問題ありませんと答えた。
が、顔色が悪い。
まもなく救護班の人間が二人に気付いて駆け寄り、セリスは治療のために預けられた。
ケフカはテントの中に連れられていくセリスを見送り、一息ついた。
隊の者が止めるのを聞かずに、合流して早々にセリスの捜索に出たため、任務が残っている。
ケフカは自分の居場所に戻ろうと思う。
その途中、隊の者とすれ違いケフカは捕まった。
「ケフカ様、ようやくお戻りになったのですね。セリス・シェールの件は我々にお任せ下さいと申し上げたのに…。」
神経質そうなその男は、ケフカに洩らした。
「過ぎたことだろう。セリス・シェールは昔から知っているし、シド博士と懇意にしているから、
私も探すべきだと思ったのだ。」
ケフカは伝えた。
「それは我々も存じていましたが…。」
男は物申したいのか、ブツブツと言う。
「無事見つかったのだから、それで良いではないか。」
ケフカは言う。
「とにかく、今後こういった事は謹んでいただきたいです。」
「分かったから。」
ケフカはしつこい物言いに、少しうんざりしながら答える。
ようやく男が去り、ケフカはふぅとため息をついた。
男が去ってから、途端に種々の業務が降りかかりケフカは忙殺された。
しかし、それが今のケフカには心地良い。
何も考えずに済むと思った。
数時間後、仕事がひと段落した。
ケフカは席を立ち、外に出る。
外は湿った冷たい風が吹いていた。
周囲は湿地帯で見るべきものは少ない。
その中でケフカはふとした瞬間に、魔導の娘ティナを思い出してしまう。
そして、自分のした行動に幾分戸惑いを覚えていることに気が付いた。
ティナに下手な同情をしたことにより、結果的に見放してしまった。
娘を見放したという罪悪感が、年の頃の似たセリスを助けさせたのだろうか。
そんなことを考えた。
セリスの捜索はケフカがせずとも良かったのに、動かずにはいられなかった。
自らの行いが、理に適っていなくて、余りにも小手先だと思った。
そんなことをしても、何かが好転するはずはない。
ただ、出来た空白を埋めたかったのかもしれない。
ケフカは思った。
翌朝、セリスがケフカの元を訪れた。
「昨日は助けていただいて、ありがとうございました。」
セリスは律儀に頭を下げた。
「礼はいい。怪我はもう良いのか。」ケフカは言った。
昨日は真っ青だった顔色も良いようだ。
「はい。」セリスは答える。
「作戦は把握出来ているのか。」
ケフカはやや厳しい口調で聞いた。
今夜の作戦も把握出来ていないようであれば、ここを訪れている暇はない。
叱るつもりでいた。
しかしセリスは「問題ありません。」とはっきりと言った。
ケフカは、そうか。と、少し拍子抜けする。
「…あの…。」
セリスはおずおずと口を開いた。
「なんだ。」
「聞いても良いですか?」
セリスはケフカの顔を覗き込む。
ケフカは頷いた。
セリスの問いは思いがけない物だった。
「あの魔法はどのようにして、習得したのですか?」
こういった質問をする輩は、魔法を権力を得るための道具としてしか見ていないのが常だ。
しかし、あくまでセリスは、魔導戦士として素直に知りたいようで、その様にケフカは幾分面を食らう。
「…元の幻獣に由来するようだ。」
ケフカは話した。
「お前もブリザドが使えるなら、習熟度が上がれば、いずれ覚えるだろう。」
下位の魔法しか使えないような幻獣は使用されていない。
順調に行けば、高位の魔法も使えるようになるだろう。
「元の幻獣、何の幻獣を?」
ケフカの答えにセリスは目を輝かせ、矢継ぎ早に質問を浴びせる。
セリスの様子に、ケフカは眩しさを覚えた。
「さあな。」
ケフカは言った。
「十年以上前の話だ。もはや残っていまい。」
セリスの様子とは裏腹に、ケフカにとって幻獣について話すことは憚られた。
「そうですか。」
セリスは少し残念そうな顔をする。
「ああ、もう良いか。行かねばならない。」
ケフカはそう言って、セリスに背中を向けた。
別に急を要する用があった訳ではない。
幻獣…魔導注入。
それはケフカにとって極めて重要な出来事だった。
それ故、ケフカはその話題を他人に話したいとは思わない。
だからその場を去った。
午後。魔導研究所シド博士の研究室。
セリスとシドが談笑している。
「セリス。遠征で、迷子になったそうじゃないか。」
茶を飲みながらシドは笑った。
セリスは幼い頃に孤児院からここ魔導研究所に引き取られた。
以来、シドがセリスの面倒を見、二人は家族のような関係を築いている。
「はぐれたのよ。霧がすごく濃くて見えなかったから。」
セリスはからかわれるのが嫌で、弁解した。
「そうか、そうか。」
セリスのむくれた様子を微笑ましく思い、シドは笑っていた。
「笑わないでよ。もう。」
セリスはそう言って、残りのお茶を飲み干した。
「どうやって、帰ってこれたんだ。」
笑みを浮かべながら、シドが聞いた。
「ケフカが…ケフカが来てくれて助けてくれたの。」
セリスは笑顔で答える。
「ケフカが?」
シドは驚いた様子だった。
「モンスターに囲まれてしまって、もう駄目だと思った時に助けに来てくれたの。」
セリスはケフカの様子を思い出していた。
「私の魔法より何倍も強くて驚いたわ。私は攻撃魔法も回復魔法も使えるけど、どちらもそれほど得意というわけでは無いから。」
セリスは言った。
シドはそうか、とだけ言った。
「ブリザラ…。私にもあんな力があれば良かったのに。ケフカは元の幻獣に由来すると言ってたわ。」
「幻獣?」
シドの声が幾分低かった気がしたが、セリスは続けた。
セリスは、第一線で活躍するケフカと行動を共にしたことで、気分が高揚していた。
そして、自らが使う魔法の仕組みが少し分かった気がして、嬉しいとも感じていた。
「魔導の注入はやり直すことは出来ないのかしら。そうすればもしかしたら…。」
セリスは呟いた。
セリスは自分の力がモンスターにまだまだ通用しないと実感し、力が欲しいと感じていた。
ガタン。
セリスが呟くと、大きな物音がした。
セリスは驚いて、シドに目を向ける。
シドが不意に立ち上がったのだ。
「軽々しく、言うでない。」
シドの表情には怒りが滲んでいた。
「え。」
セリスは何がシドの機嫌を損ねたのか分からず、困惑する。
「安易に、力を求めてはならん。」
シドはセリスに言い含めるように言った。
「…。」
セリスは、ふくれっ面をした。
軍人が力を求めて何が悪いのだろう。
強ければ、国を守れる。
自分の身を守れるし、迷惑もかけなくて済むのに。
そう思った。
むくれた様子のセリスに向けて、シドは雰囲気を変えるかのように明るい声で言った。
「セリスは、まずは、どうすれば迷子にならないかを考えないとな。」
「迷子じゃないわ…!」
セリスは、言い返した。
セリスが研究室から去って、シドは一人考え込んでいた。
セリスと話していた時、セリスはケフカに師事したいのだろうと感じていた。
(しかし・・・そういう訳にはいかん。)
シドはケフカと話をするべきだと考え、何ヶ月かぶりに軍の施設に足を踏み入れた。
帝国軍施設。
「博士?」
少し驚いた顔をして、ケフカが出迎えた。
「こちらまでいらっしゃるなんて珍しいですね。」
ケフカは言った。
通常、軍の者がシドの元を尋ねることはあっても、シド自らが赴くことは殆ど無い。
「ああ、礼を言いたいと思ってな。この間セリスを助けてくれたそうだな。」
シドは言った。
その要件に、ケフカは少し意外そうな表情をする。
そして「たまたまです。」と答えた。
「そうか。とにかく、ありがとう。セリスが騒いで煩かったよ。」
シドはその時のセリスの様子を思い出しながら話し始めた。
「モンスターに囲まれて絶対絶命の時に助けにきてくれた。すごい魔法だったと。」
あの時、セリスは嬉しそうな顔をしていた。
「そういえば、また腕を上げたのか。」
シドは尋ねた。
セリスが見たことも無い強力な魔法を、ケフカが使っていたと言っていた。
シドとケフカの付き合いは長い。
しかし、ケフカが魔法を習得した直後は、シドがその状況を見守っていたが、
現在はそういうことはなかった。
「直接会ったのが久しぶりだったので、ブリザラを初めて見たんでしょう。
今朝来て礼を言われましたよ。もっとも魔法や幻獣に興味があるようだったので、
それを聞きに来たのかもしれないですが。」
ケフカは答えた。
シドは少し顔を曇らせた。
「…そうか。そうなのだ。今のところ、セリスに幻獣や実験に関することは教えたくなくてな。
今度聞かれても、上手くはぐらかしてもらいたいんだよ。」
シドは言った。
「そうでしたか。余計な事を言ってしまいましたね。」
ケフカは少し申し訳なさそうな顔をした。
「まあ、気にしなくて良い。セリスはまだ半人前だ。君から魔法を習いたいと言っても、
退けて欲しい。魔法の他に修めるべきことが山積みだろうからな。」
シドは言った。
「そうですね。分かりました。」
ケフカは答える。
「ああ、あと。」
シドはケフカの顔を見る。
「なんです?」
「いや、何でもない。」
言いかけて、シドは口をつぐんだ。
ケフカは少し不審そうな表情をしたが、その後二人は少し話して別れた。
シドは眉間に皺を寄せながら、研究室への道のりを歩いていた。
先ほど、ケフカに言いかけたことは、彼の身に魔導の副作用が起きていないかということだった。
魔導注入が成功した例として、多くの者にケフカは知られているが、それは事実とは異なる。
シドは科学者として確信していた。
(多くの結果が示すとおり、いつか必ず破綻が訪れるだろう。)
ケフカと同時期に実験を受けた者は、皆何らかの致命的な障害を患い、床に伏していたことをシドは把握している。
例外はありえない。
それは極秘の事実であった。
(あの魔導注入実験は成功していなかった。本当に偶然、彼は生き長らえているだけだ。)
だからシドは、ケフカを、セリスに近づけたくないと思っていた。
先の帝国軍遠征から数か月後。
セリスはある戦に参加し、その戦は数時間前に終了したところだった。
セリスは他の兵たちと一緒に、痛んだ剣の手入れをしていた。
「セリス、今日はきつかったな。あれ程魔法が回避されることなど、今まであっただろうか。」
横で、同期の兵がつぶやいた。
皆、疲弊した顔をしている。
「いえ…、なかったです。」
セリスは、少し思案を巡らせて答えた。
今回の戦の相手は格下ともいえる国だったが、帝国軍が用いる魔法の効果が低く、苦戦を強いられた。
格下であったので、ケフカが率いる強力な魔法戦士の隊は参加していなかったが、
それでも想定外の苦戦であった。
(敵の脅威が増している?)
セリスは感じた。
しかし、そのことに不気味さを覚えながらも、沈黙するしかないように思われた。
戦況は次第に激しくなっていったが、帝国による制圧も近いだろう。
少なくとも、セリスはそう思っていた。
しかし、今回の戦での苦戦を受け、その状況は崩れつつあると思い知らされている。
以前は帝国の力は他国と比べても圧倒的だったが、最近はそうではない。
魔法戦士が導入された当初に比べ、魔法への対策が取られだしているに違いなかった。
気が付けば、苦戦の知らせも珍しく無くなった。
セリス自身も戦いに身を投じることで、それを肌で感じることが多くなっていたし、
その状況を打破しなければならないと、様々な人が口にした。
(私たち一般兵は、強力な兵器の開発を待つしかないのか。)
セリスは自問する。
(違う。)
セリスは思っていた。
(魔法という力は何のために与えられたのか。私たち一人一人が、より、強くなるためではなかったか。
私はそれを生かすべきである。いつまでも、一兵士でいてはいけない。)
セリスの中で、そんな気持ちが芽生えていた。
敵を一人でも多く倒せば、私たちは勝利に近づく。
そう思えば、降りかかる危険も大して気にはならない。
セリスは早く、隊を統率出来る地位になりたいと思っていた。
セリスは、若輩である自分が階級を上げるためには、武功を上げる必要があると思っている。
しかし、同時にまだ力が不足しているとも感じていた。
年が若く、体もまだ小さいセリスが武功を上げるには、
剣技等に加え、他の者よりも幾分秀でている魔法のスキルを磨く必要があった。
帝国軍には魔法を上手く操れる人間はまだ少ない。
セリス自身は、魔法の使い方がまだ上手くないと思っているが、
実際は、セリスの魔法スキルはケフカに次ぐのではないかと言われている。
その能力を伸ばせば、類を見ない戦士になれるであろう。
しかし、それにセリスはまだ気付いていなかった。
セリスは遠征での一件があってから、親代わりであるシドに、ケフカから魔法を教わりたいと申し出ていた。
以前、セリスはケフカも教える演習に参加したことがあったが、
その時はケフカはセリス以外の者には個人で教えても、セリスの申し出は断っていた。
それでもセリスは、ケフカが他の人に教える様子を人の背後からこっそり見聞きし学んでいた。
しかし、それにも限界を感じていた。
日に日に直接師事したいという思いが強まっていった。
「他にまだすべき事がある。」それがケフカの言う教えてくれない「理由」だった。
シドに申し入れても良い返事は得られていない。
シドからは、
(ケフカは忙しいから、お前の相手をしている暇は無い。だから迷惑をかけてはいけない)と、
常々言われている。
セリスは、シドがケフカに話をしてくれていないと思っていた。
ケフカや頼みの綱であるシドに申し入れても、一蹴されるばかりで、
自分には教わる資格も無いのだろうかと落ち込む日が続いた。
皇帝の間。シドと皇帝が対峙している。
皇帝がシドを呼び出したのだ。
「シドよ、セリス・シェールが可愛いのは分かるが、そなたの希望で、
頑なに軍人としての未来を閉ざすのもいかがなものか。」
頬杖を付いて皇帝は言った。
近頃、セリスが軍の中で頭角を現しているということが、皇帝の耳に入っている。
しかし、それと同時に少々好ましくない噂も伝わっていた。
セリス・シェールは魔法戦士が受講すべき演習に参加しておらず、
それはどうやら保護者であるシドが圧力をかけているからである、という噂だった。
それは単なる噂に過ぎなかったが、皇帝には心当たりがあった。
「陛下。そのようなことをどこで…。」
皇帝の言葉にシドは驚いていた。
セリスは魔導注入をされたルーンナイトであるが、まだ一般兵であった。
皇帝と一般兵では、身分に天と地程の違いがある。
シドはそのような、皇帝にしてみれば低い身分である者の事が、把握されていることに驚いていた。
皇帝は続けた。
「セリスは魔法戦士としての能力が高いと聞いている。
そもそも、軍人としての昇進は本人が望んでいるのだろう。何故、拒むのだ。」
「しかし、あれはまだ子供で。」
そうシドは答えた。
セリスの年齢は10を少し過ぎたばかりである。
軍人としての経歴は、他と比べて全く少ない。
それは「保護者」としての当然の言い分だった。
シドの言葉に対し、皇帝はふっと笑った。
「わしの目をごまかせるとでも思っているのか?シドよ。」
皇帝は言った。
皇帝はシドのセリスに対する溺愛ぶりを知っていた。
シドの取り繕いは見抜かれ、それは指摘された。
「おぬしの研究が結実しようとしているのだ、喜ばぬか。」
皇帝は言った。
「…。はい。」
シドは、消え入りそうな声で答えた。
セリスが軍人として異例の成長を遂げているのは、魔導の力が宿ったからこそ。
認めたくは無いが、研究の「成果」だった。
「困ったものだ。心配ならお前が子守をしてやるしかあるまい。」
皇帝は皮肉った。
軍に所属している以上、少なくともその人物は自立していなければならない。
「そのような…。確かに、心配が過ぎたかもしれません。」
シドは言った。
シドは皇帝に、セリスを他と同等の扱いをする様、軍の者に伝えると、約束した。
シドは後悔していた。
今になって、これほど過去の行為を悔やむことになろうとは思わなかった。
(私は科学者として、すべき事をしてきたが、それは人として非情なものだった。
年月を掛けてそれに気付き、今、嫌というほど味わっている。)
しかし、もうどうしようもなかった。
シドに今出来ることは、セリスの身を案じること。
それしかなかった。
シド研究室、温室。
セリスは、鉢植えに水を与えていた。
セリスがシド博士と植えた花だった。
シド博士の温室はいつも暖かく、年中絶えること無く咲いている。
花の世話も最近は博士にまかせっきりだったが、久しぶりに来て世話が出来たので、セリスは少しほっとしていた。
鼻歌交じりで水をあげていると、カチャリと、ドアの開く音がした。
「おおセリス。来ていたのか。」
「博士。」
聞きなれた声に、セリスの顔は綻んだ。
白衣を着たシドが立っていた。
「久しぶりだな、セリス。少しは、顔を見せなさい。」
博士は少し困った顔をして言った。
「ごめんなさい。最近は訓練の時間も長くて。」
セリスは言った。
セリスは近日は日が落ちてからも訓練を続けていることが多い。
「そうだったか。」
博士は言った。
よし。水をあげ終わり、セリスは呟いた。
差し込む日光を浴びて、葉についた水滴がキラキラと輝いた。
春先に植えた時にはか弱い苗だったが、今は鮮やかな花を咲かせている。
「私が来ていない間、水あげててくれたのね。ありがとう。」
セリスは言った。
「いいや。」
博士は微笑みながら言った。
「咲いてくれて良かったわ。」
セリスは呟いた。
「セリスよ。」
「何?」
博士がいつになく神妙な顔つきなので、セリスは思わず顔を上げた。
「正直に答えてくれないか。」
博士の言葉にセリスは幾分首をかしげた。
「お前は最近忙しそうだが、将軍になりたいと思っているのかい?」
博士は言った。
「博士。」
それはセリスとシドの間で、あまり触れられることのない話題であった。
セリスは、シド博士が最近軍に関する話題をしたがらないと感じていた。
ことに魔法を使うことに関して、口には出さないがよく思ってないようだった。
それが何故かは分からなかったが、セリスは戦場での出来事も、軍に関することも、魔法に関することも、
博士にはあまり話さなくなっていた。
「なりたいわ。」
将軍になりたいのか、そのシドの問いにセリスは答えた。
「……。今ならまだ、別の道も選べるのだぞ。」
少しの沈黙の後にシドは言った。
シドの言い含めるような物言いに、セリスはその言葉の重みを感じた。
「私はこの国を守りたいの。せっかく魔法という特別な力を授けてもらったんだから。」
セリスは答えた。
セリスは、博士が問うたのは、優しさだと思った。
迷いは全く無かった。
(私は皆の力になりたい。)
そう思った。
セリスの返答にシドは少し目を伏せて、諦めたかのように「そうか。」と言った。
「お前の好きなようにしなさい。ただし、くれぐれも命は粗末にしないでくれ。」
セリスには、そう小さな声で言った博士が寂しそうに見えた。
ある日の夕暮れ。外はもう薄暗く人影はまばらになっていた。
ケフカは軍の施設から自室へ戻る途中、屋外の訓練場から人の気配を感じ、歩を向けた。
隊で行う訓練は数時間も前に終わっており、隊員は宿舎に戻っているはずである。
訓練場を覗き込む。
「セリス、まだいたのか。」
気配の主はセリスだった。
「ケフカ。」
セリスは一瞬こちらを見て答えた。
ケフカはまさかセリスがいるとは思わず、少し面を食らった。
セリスはやや息を切らしていた。
長時間、一人で訓練をしていたのだろうか。
「練習をしてました。うるさかったでしょうか。」
セリスはそう言って、再び正面を向いた。
集中したいのだろう。
「いつも、一人で残っているのか。」
セリスの様子を見ながらケフカは言った。
「はい。スキルが上がらなければ、将軍にはなれないから。」
セリスは厳しい口調で言った。
ケフカはその熱心さを認め、一歩踏み出した。
「相手をしようか。」
ケフカは申し出た。
「え?」
セリスは思わず、手を止めて目を丸くする。
ケフカの申し出に驚いたようだった。
「闇雲にやっても、身に付かないだろう。」
「本当に相手をしてくれるのですか?」
「ああ。」
「ありがとうございます!」
セリスは言った。
セリスの表情が明るく華やぐ。
「博士から申し出があった。セリスが一人前の将軍になるために手を貸してくれとな。」
ケフカは言った。
ケフカは先ほどまで、シド博士と話をしていた。
内容は主に魔法の研究についてだったが、博士は話の最後にこう言付けた。
「セリスをくれぐれも頼んだ。」
博士はそう言って、ケフカに握手を求めた。
「わかりました。」
ケフカは幾分不思議に思いながらも、手を差し出す。
「私は、過保護なのだろうか。」
握手をしながら博士は自嘲気味に言った。
やはりセリスが心配なのだろう。
握られた手が痛い。
「博士…。」
博士の様子を伝えると、セリスは言葉を詰まらせていた。
「お前を戦士として認めたんだろう。」
ケフカがそう言うと、セリスは顔を上げた。
博士の言葉は、即ち、セリスを魔導戦士として一人前に育てて欲しいという事を意味している。
「強くなりたいんです。お願いします。」
セリスは申し出た。
ケフカはセリスの成長を目の当たりにしていた。
これまで訓練の申し出を無碍に退け続けてきたが、最近は心苦しく感じていた。
年齢が他より若い事もあり、以前は他と比べても未熟さばかりが目立っていたが、今は違う。
セリスは、与えられた力を国を守るために使いたいと思っている。
年齢的には幼いが、魔法戦士としての資質もある。
ケフカは、志を持つ者には機会を与えたかったし、
魔法に関しては自分が伝えるべきだと感じていた。
「良いだろう。」
セリスの申し出にケフカは答えた。
「今、自分が何をすべきか、何が出来るのか常に考えよ。」
ケフカはセリスに覚悟を促した。
------------------------------------------------------------
帝国領内。
「なんだ?」
物音がしたような気がして、某兵士は草場を覗き込んだ。
(動物か何かだろうか。)
そう思う間もなく、気が付けば目の前に火の玉が迫っていた。
「ぐわっ…」
まともに火球を顔面に受け、兵士はもんどり打って倒れた。
「どうした!?」
もう一人の兵士が叫び駆け寄る。
「敵か!?」
焼け焦げた同僚を見て、兵士は口を抑えた。
込み上げた吐き気を抑える為だった。
やられた兵士を気遣う間もなく、今度は自分の耳を火球が掠めた。
ハッとなって周囲の気配を伺う。
ザクザク、と大勢の足音が聞こえた。
兵士は戦慄した。
一人では勝ち目がありそうにない。
隊と合流しなければ…。
兵士は逃げ出した。
-----------------------------------------------------------------------
帝国城。
一人の兵士が、足早にケフカに歩み寄った。
傍らにはセリスもいる。
「ケフカ様。」
兵士はケフカに耳打ちをした。
‐帝国領内に何者かが侵入し、一小隊と交戦中である。
ケフカが訝しんだのは、何故その地域に侵入されたのかということだった。
そこは領内でも比較的警備の手薄な箇所だったが、それは内部に精通した者でもなければ知りえない。
ケフカは不穏なものを感じる。
内通者がいるのだろうか。それとも…。
兵士が駆け寄り、報告が再び入る。
指揮はケフカが取ることになった。
皇帝からの指示が出たのだ。
「セリス、行くぞ。」
ケフカは傍らにいるセリスに声をかけた。
「はい。」
セリスは緊張した面持ちで真剣な表情をして答えた。
ケフカたちが準備を進めていると、三度目の報告。
‐敵は魔法を使う。