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ケフカについて書きます。二次創作あり(文章) 小話「数年前121~123」更新しました。(2015年8月9日)
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「ねえ、遊ぼう。」
無音の中に声が聞こえる。

眠りについたはずだが。

そう思った。

「遊ぼうよ。」
近くなのに、遠くから、子供の声が。

「遊ぼう。約束だよ。」
今度は耳元で。

(約束?)何のことだ。

「約束、忘れたの?」

そうだ、約束をしていた。
約束なのに。
動くことが出来ない。
身体も意識も、今は、重い。

約束は守れない。

こつ、こつと人の足音がする。

「さあさあ。」促すような大人の男の声。

「起こしてはいけない。帰ろう。」
聞き覚えのある声。

「寝ているの?」
「そうだ。」
聞き覚えのある声たちは言った。

「遊んでくれないの?」

「ああ、無理だね。」

「ほらおいて行くよ。」

2人はどこかへ去ったようで、辺りはまた静まり返る。

ああ、またあの夢を見ている。

 

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「私、魔導戦士になったわ。」
目の前のセリスが言った。

(何だと)夢の中の私はセリスに返答する。

「実験は成功した。」横からシド博士が言った。

(セリスに、力を与えたのですか?)私は責めるつもりで問うのだ。

「そうだ。」シドは頷いた

「これで、一緒だね。」セリスは微笑んだ

「成長期の子供で試したかったのだ。」シドはペンを噛みながら

「博士が作った技術だから」セリスはとても真っ直ぐに

「セリスにせがまれたのだ。仕方あるまい。」シドはバツの悪そうな顔をして

「怖くない。」セリスは明確に言った。

(シドを信じるなんて。)

息苦しさを感じる。

あの時、抱いていたのは憎しみであることを思い出した。


今度は、白い部屋にいた

また繰り返す。

キャア

ウワァー

叫び声が合図。

鳴り続ける心臓

気が付いたら、赤かった

壁、天井、服、手、

全てが赤い

キャア

また叫び声

声の方を振り向く

叫び声の主がいない。

いるのは、少女が一人

近づいて、
(君は?)声を掛ける

「遊ぼう。」

少女は言った。

真っ赤になった手を、少女が小さい手で取る

感触を認識する間もなく、人ならぬ力で引っ張られる

驚いて、少女を見る

悪魔的な表情をしていた

見開かれた目だ

知ってはいけない事を衝きつけられそうで、戦慄する。

(どうして、そんな目で、見る?)


ガバりと起き上がった。
心臓が鳴り止まず、汗が伝う。

へばり付いていた意識が徐々に覚醒してくる。
部屋にいる。
ここはあの夢ではない。
その現実を受け入れようとする。

髪をかき上げる。

まただ。

何度も見ているはずなのに、いつも、恐怖し目が覚める。
慣れることの無い悪夢。

髪をかき上げた手が、かすかに震えたが、何も考えたくなかった。

外は暗く、夜明けはまだ遠い。
しかし、再び眠る気にはなれない。


外へ。
何故かそう思って、立ち上がる。上着を着て、気が向くままにドアへと歩く。
真夜中もとうに過ぎている。
廊下に出ても、人がいるはずはなかった。
静かに出口を開ける。冷気が室内に入ってくる。
深夜に雨が降った様で、地面は湿っていた。

門を出て、どこに行こうかと迷った時、
私は研究所を選択していた。

-------------


月の前を雨雲が早い流れで通り過ぎる。
空気は冷ややかだったが、寒くは無かった。

研究所を取り囲む高い塀があり、沿って歩く。
この道沿いを歩くことは久しくなかった。

遠い昔、魔導研究所で何ヶ月か過ごしたことがあった。
通りはあの頃と変わらない光景だったが、這う蔦の量が時の流れを物語っている。

研究所の門前。
鉄の扉の前に立つと、初めて訪れた時の事が蘇った。
緊張感と高揚。仲間いう心強さと、帝国軍の一員として務めることへの使命感。

懐かしい。そう思い、戯れに門を押した。
意外なことに、それはあっけなく開く。

鍵がかかっていないはずはなかったが、大して気にも留めず、
それよりも仲間とよく話した木が目に入って、門を開き、潜ってそちらへ向かう。
あの頃は楽しかった。
だんだん懐かしい場所が近づいて、彼らの顔を思い出す。
木に触れると、彼らの声を思い出した。
気付くと、木の陰に小さな階段があり、いつも使っていた出入り口があった。
何故か忘れていた、古ぼけた扉。
ああ、あったな、と思い歩を進めた。

メッキの剥がれたノブに手をかけ、それを回す。
やはり扉は開いた。

室内から温い空気が漏れて顔を覆う。
暗がりに懐かしい光景が広がる。
目の前に若いシド博士が見えた。
 


ドン、と衝撃を感じて足元に目をやる。
「?」
金髪に青いリボン。
セリスだった。
大きな目をきょとんとさせ驚いている。
「こら、セリス。動き回るんじゃない。」
博士は大きな声で叱りつけ、そしてこちらを向いて言った。
「君か。いつも悪いな。この間は子守までさせてしまった。」
「かまいません。ここに置きますよ。」
「ああ、頼む。あとは…」

私は研究所の機器の移設の手伝いに来ていた。
私は博士による講演に何度か出席していて、ある日顔を覚えられていたのか、声を掛けられたことがきっかけだった。
魔導研究所は創設から何度目かの増設の最中だった。

博士は額に浮かんだ汗を拭った。
「全く、目が回るようだ。これほど設備も人出も足りないとは。」
「大丈夫ですか?博士。」私は声をかけた。
「いや、嬉しい悲鳴だと言わねばなるまい。陛下が協力して下さっているということは、それだけ私の研究に価値があるということなのだから。」
博士は誇らしそうに言った。
「古来より魔法は人類が欲して止まない力だった。大きな声では言えぬが、今は軍事目的で使用されるだろう。
しかし、帝国が世界を治めれば、やがて軍事的要素は薄れる。
私の目的は本来、魔導の真理を解明することにある。私はそれを追及したいのだ。」
博士が熱っぽく語るとノックの音がした。
コンコン
「ああ、人手が来たな。」
博士はそう言って、出迎えに行った。
ノックの主は、私と同じように講演に顔を出していた者か、博士の助手になりたい者たちだろう。
私たちは増設の度に手伝いに集まり、お互い親しくなっていた。
 


数時間経って作業がひと段落し、博士は飲み物を振舞った。休憩中でも話題は魔導研究で持ちきりだった。
「まさかあの魔導研究所に入れるとは思わなかった。」
「そうだな。極秘施設なのに中を見せてもらえるなんて。」
そんな中、博士は皆に手招きをした。
「実験室を見せてやろう。来たまえ。」
博士の申し出に、私たちは一瞬戸惑った。
帝国の第一級の機密である。畏れ多かった。
「いえそれは…。」
「構わない。既に完成しているからもう周知の物になる。」誰かが遠慮を口にするが、博士は言った。
博士の類に無い申し出に、断る理由もなく、我々は博士について行った。
実験室の扉を博士が開き、ギイと重い音が立つ。
目の前に広がる光景は、異質だった。
今までに見たことの無い、不可思議な形をした機械設備と、無数の動物。
「うわ…」皆が感嘆の声を漏らした。
「私の実験にはこれくらいの設備と実験体が必要だ。」博士は言った。

入り口にほど近いところに、やや大きい鳥が一羽籠に入れられていた。
「博士、これも実験体ですか?」
「よく聞いてくれた。私はフェニックスと呼んでいるが、これは良いぞ。」
そう言って博士は机の陰から木の棒を取り出した。
「下がりなさい。危ないぞ。」博士はニヤリと笑い、そして檻を叩いた。
我々は驚いて、後ずさる。
鳥は当然暴れだし、ぎゃあぎゃあと激しく鳴いた。
そして大きく口を開いたかと思うと、ゴウと炎を吐いた。
「!!」
突然のことに、皆、驚愕し声が出なかった。
髪の毛が焼けた者もいるのか、やや焦げた匂いがした。
「博士!これは…」
「驚いたか?モンスターではないぞ。そこらのただの鳥を捕まえて、魔法を授けたのだ。」
「すごい…」我々は驚嘆していた。
「ふふ、どうだ。これが魔導の力だ。実験は成功を積み重ねている。この上も無く理想的にな。」
そう言って博士は笑った。
-------------


”フェニックス”の炎は我々を興奮の坩堝に誘った。

素人には動かせない実験機器の移動があるというけとで、我々は所外で待機することになった。
私はウィリアム、フィリップ、ハリー、ドワイトと葉の広く茂った木陰で休息を取っていた。

「シド博士はやはり天才だな。」
フィリップが口火を切ると、皆が次々に興奮を口にしだした。
「フェニックス…驚いた。」
「ああ、話を聞いて理解はしていたつもりだが、実際に見ると…。」
「普通の鳥が火を吐けるようになるとは。」
「夢のような話だと思っていたが、もうすぐ現実になりそうだ。」
話は飽くことなく続いた。

「皆は魔法を使いたいか?」
ハリーが問うと皆思案した。
「ああ、俺は早く使いたいよ。きっとあれば便利だろう。」
ドワイトはそう言い、ウィリアムは頷いた。
「まあ、回復や瞬間移動が出来る魔法もあるらしいから。俺も使いたいな。」
「あれが実際に使えるようになったら、戦も楽になるかもしれない。」
「フェニックスのような炎が使えれば、身一つで良い。」
「道具に頼らなくても済む。」
「確かに。魔法が使えればこちらが有利になるのが分かりきっている。あれほど強力な力なら尚更。」
ウィリアムが言い、皆頷いた。
「しかし、俺たちのような者に実験室まで見せても良かったんだろうか。」
「それだけ完璧ということじゃないか。実験は理想的に成功していると言っていたから。」
ハリーが口にすると、フィリップが答えた。
私たちは来たる魔導の時代に思いを馳せていた。


話の最中、研究所の裏口へと、男たちがぞろぞろと入っていく。
その数は10。
「なんだろう?」
ドワイトが初めに気付いて声を出した。
「新しい研究所の人かな?」
「いや、それにしては、格好が。」
そう、誰かが言ったように、彼らの身なりはお世辞にもきれいとは言えない。
一人は頬に大きな傷があり、体格が非常に大きい。
研究所の所員は皆、小奇麗な格好をしているが、10人はどちらかと言えばみすぼらしい格好で、雰囲気も異なっていた。
「機器の移動をを手伝いに来た人じゃないか?」
フィリップが言う。
「ああそうかもしれない。」誰かが同意する。
「でも、機器は所員の人らで移動させると博士が言っていたが。」ウィリアムの言葉で、また新たな疑問が湧く。

しかし、今我々にとって重要な事は魔導という力について。
「ああ、そうだっけ。」
ウィリアムの疑問を誰かがそう呟いて曖昧にする。
あの10人の話題はあっさりと終わりを迎え、私たちは再び魔導談義に花を咲かせた。
 


しばらくして、博士が研究所から出てきてこちらに来たので、我々は立ち上がった。
「待たせたな。」博士は言った。
再び所内に通され、私たちは実験室に案内される。
「今日の作業は終わりだ。ご苦労だった。で、手伝いとは別に、また協力を仰ぎたいのだが。」博士は言った。
「?何ですか。」
「これを試してもらいたいのだ。」そう言って、博士は緑がかった液体の入った注射器を取り出した。
「これは?」
「これを注射すると魔導の力を受け入れる素質があるか、調べられる。」
博士は言った。
「この液体を注射した箇所に反応が出るのだ。その結果である程度、分かる。」博士は言った。
「これで良い反応が出なければ、その者は魔法が使えないということですか?」
「ああ。そうだ。残念ながら魔法は誰にでも使える力ではない。
同じ種族でも個体毎に定着率が違うのだ。人間も同じく向き不向きがある。」
「我々も試したが私は不適だった。しかし、確立はそれほど低くはない。所員にも何人か適正のある者がいた。どうだ、君たちも試してみないか?」
博士は言った。

各々が検査を受けることになった。
注射針を腕に刺し反応が現れるまで数分。結果を博士が見て回った。
博士は私の所に来ると声を上げた。
「おお君はかなり適正があるようだな。これほどはっきりとした反応が出た者はいなかった。」
「本当ですか?」まさか自分がと思う。
「案外、身近で魔導士が生まれるかもしれない。」
博士は言った。

結局私を含めた3人に適正があると認められた。
魔法が使えるようになりたいと言っていたドワイトは適正がないと分かり、歯噛みをして悔しがった。
注射をされた箇所が燃えるように熱い。
その熱さが魔導の力を身に宿す事が現実に近い物であるということを、認識させる。

そして適正があると言われた3人が、再び博士に呼ばれたのは約3ヵ月後のことだった。
 

魔導適正検査から約3ヶ月経った休日。
ウィリアム、フィリップと私は、博士に呼ばれ、研究所を訪れた。

博士の部屋に招かれる。
「休みに呼び立ててすまないな。」博士は言った。
「博士、今日は?」誰かが問う。
「今回、君たちを呼んだのは他でもない。頼みがある。」
博士は真剣な表情をして言う。
普段とは異なる緊張感に、我々は次の言葉を待った。

「単刀直入に言う。魔導注入実験に協力してもらえないか。」

我々は博士の言葉に衝撃を受けたが、博士は続けた。
「理由を話そう。」
「数ヶ月前から、人体での魔導注入実験を始めている。その中で我々は改良を進め、人体に魔導を定着させることに至った。魔導注入により、帝国軍魔導戦士足らしめる能力が与えられるということを、君たち、軍の人間で立証して欲しいのだ。」
博士は言った。
「先に実験を受けた者は、今は他の場所にいる。願わくは君たちに協力して欲しい、が…すぐに返事をするのも難しかろう。」
博士はそう言った。
博士は人体へ注入実験が始まっているという新たな事実を明らかにしたが、
それには触れずに、博士は一気に話した。

返答は3日後となった。

突然の申し出に衝撃はあったが、我々にとって考える時間は3日も必要は無かった。
所内の廊下を歩きながら、話し合う。

博士の志に賛同し、我々が帝国軍魔導戦士の礎を築こう

所内の一角で話していると、セリスが走り寄ってきた。
今日は色鮮やかな絵本を抱えている。セリスは顔を知っている私に聞いた。
「シドはかせは?」
「博士はここにはいない。どうした?」
「よんでくれるって。やくそく。」セリスは答えた。
「そうか。」そう言い頭を撫でてやると、セリスはにこりと微笑んだ。
「俺は子守はごめんだ。」
ウィリアムは苦笑し
「俺たちは先に帰るよ。」とフィリップは先に帰った。

耳に会話が届いたのか、博士がこちらに気付いてやってくる。
「懐かれているな。」様子を見て博士は言った。
「私は子供の事はさっぱり分からぬ。まさか私が孤児を預かることになろうとは。」
「やはり実験はこの子にも?」
私はセリスに聞こえぬように、小声で聞いた。
「当たり前だ。そのために連れて来たのだから。」
博士は言った。
「しかしいくら適正が高いとはいえ、連れてくるのが早すぎたようだ。しばらく待たねばならなくなった。」

「シド博士!」
急に研究員が大声を上げたので、我々は振り返った。
「どうした?」
博士が返事をすると研究員は走りよって、博士に耳打ちをした。
聞いている最中、博士は表情を険しくさせて言う。
「急用が出来た。3日後返事を聞かせてくれ。」
そう言って博士は足早に立ち去っていった。

辺りは騒がしくなり、不穏な空気が覆う。
何が起こったのかは知る由もなく、私はセリスと残された。
セリスは本を抱えたまま、不安げな表情をしている。
このまま独り残すのは、可哀想かと思い、屈んで絵本を借りる。
「今日もこれか。」
絵本を持って言うと頷く。
先日も読んだ覚えがある。
「部屋で読もうか。」
「うん。」提案すると、セリスは嬉しそうに返事をした。
「おいで。」
立ち上がって、手を差し出すとセリスは手を取った。

小さい手だと思った。
------
 

シド博士から、実験の申し出を受けてから3日後の午後。

我々3人は研究所を訪れた。
所内は静かで、立ち入り出来る所に人の気配が無い。
途中、誰ともすれ違わなかったのは珍しいことだった。

博士は約束の時間より、10分程遅れて現れた。
「待たせたな。」
博士は、疲れたような表情をしていた。
「来たまえ。」
部屋に案内する間、博士は無言だったので、我々は顔を見合せた。
「待たせてすまなかった。そこに掛けたまえ。」
部屋に入り、博士が上着を脱ぎながら言った。
我々が椅子に掛け、博士は切り出す。
「さて、返事を、聞かせてくれないか。」

「実験に、是非協力させて下さい。」
「この様な機会を与えて下さって光栄です。シド博士。」
我々が伝えると、博士は、やや沈黙した。
勢いに幾分気圧されているかのように見えた。
「君たちの協力、感謝する。」
博士は言い、そして続けた。
「最後に聞きたいのだ。…嫌なら断っても構わないのだぞ?」

断っても構わない、という言葉が、我々にはシド博士らしくなく弱気に聞こえた。
「博士に選んでいただいたので、我々のような一介の兵士が魔導帝国の礎を担えるのです。
これほど名誉なことがあるでしょうか。」
「博士、是非、我々を。」
迷いは微塵も無く答えた。

「…分かった。」
博士は我々の決意を受け入れたかのように、重々しく言う。

「では、予定を話そう。」
博士が話し始めたので、我々は耳を傾けた。

 

数日後、私とフィリップ、そしてウィリアムは研究所の一角にある、病室にいた。
実験の開始は午後1時。
数分前に麻酔を打たれた我々はベッドに寝かされていた。
眠っている間に実験が行われ、目覚めると終わっているという。
ここにはベッドが10床あり、今は我々3名分しか埋まっていない。
所員が言うには満床だったこともあるという。
たった数日で我々は様々な検査を受けた。
所員は皆よそよそしく、まるでモルモットになったかのような生活に、苦痛を覚えなかったといえば嘘になるが、
同時に早く実験を受け、魔法が使えるようになりたいと思っていた。
実験を控え、幾分、緊張感はあったが、あまりにも見事だったフェニックスや、既に実験を受けている人がいること、
そして何よりもシド博士の存在が我々の不安を拭い去っていた。
所員が近づいて告げる。
「時間なので、移動します。」
「いよいよか。」
ウィリアムが呟いた。
実験を受けてしまえば、しばらく顔を合わせることはなくなる。
「先行くよ。」フィリップは言った。
「じゃ、また。」
フィリップに声をかける。
明日、また会うかのような挨拶をして、我々は別れた。
上を仰いで白い天井が目に入る。
少しずつ意識が遠ざかっていく。

私たちは気付いていなかった。
シド博士は人間に対しての実験が成功しているとは言っていなかった。
 


また夢を見ていた。
「ねてる?」
子供の声はセリスだ。
「ああそうだ。言っただろう。」
大人の声はシド博士だろう。
「さあ、帰るんだ。」
「あそんでくれるって。やくそくを。」
セリスの言葉で、そう言えば先日絵本を読んでやった時に約束をしていたと思い出す。
「絵本か。無理だな。」
「…。」
博士の言う通り、この様では約束は守れそうにない。
「代わりに私が読む。」
博士はそう言ってセリスを連れて立ち去った。


夢から覚めると、暗闇の中にいた。

僅かに窓から月明かりが差し込み、徐々に目が慣れる。
機械のシルエットが見え、生温い薬品の匂いが鼻に付いた。
ここが研究所の実験室だと分かる。
どうしてここに。どうやってここまで来たのか。
覚えていない。

じりじりと月光でうっすらと見える壁側に歩を進める。
壁の付近にたどり着いて、注入された左腕が疼く。
右の手でその箇所に触れると、まだ火のように熱を持っていた。
ウィリアムとフィリップはどうしているだろう。
部屋に戻らねばと思い、壁を伝いながら出口を目指す。

壁際に据えられている鏡に触れた。

鏡の中の自分と目が合う。

誰だ。と思った。

見慣れた顔では無い。

嫌な予感がした。

鏡の中の人物はもっと年が上。
そして気付いた。

不意に支えを失ったような気がして力が抜ける。
両膝に衝撃を感じて、地面に跪いたと分かり、鏡を見上げる格好になる。

「これは、私か?」

私は呟いていた。
 


午前7時、シドは実験室の鍵を開けに来ていた。
窓からさんさんと日光が降り注ぐ。
休日以外はシドが誰よりも早く研究所を訪れ、開錠する。
いつもどおりの朝になるだったはずだった。
鍵を回すが、抵抗が無く、鍵が掛かっていないと分かる。
昨日、施錠をしたのはシドだった。
何者かが開けたに違いない。
様子を伺うが、物音は無い。
ガチャ
恐る恐るノブを回す。

人が鏡の前で蹲っている。
人影は動く気配が無い。

「誰だ?」恐る恐る、近づきながら声を掛ける。
「おい。」
近くに来て人影の主に見当が付く。
「ケフカか?」
何故、ここにいる。
そう思った。
どうやって侵入したのか。
検討も付かなかった。
「おい。」傍に寄るが、反応は無かった。
顔色が青白い。
「しっかりしろ。」
身体を揺さぶっても、目覚める気配はなかった。
チラリと腕時計を見る。
所員ももう直ぐ来る時刻だった。
軍の人間が研究所に許可無く侵入したと所員に知られれば、事だ。
人のいない仮眠室に運ぶしかない。
疑念を抱きながら、シドはケフカを担いで実験室を出た。
 

魔導研究所、仮眠室。
シドは一度、出勤してきた所員に声を掛け、ここに戻ってきた。
見ると、ケフカは目を開き中空を見つめている。
「目が覚めたのか。」
状態を伺うように声を掛ける。
「はい。」ケフカは答えた。
が、こちらを見ていない。
「ここが、どこだか分かるか。」
様子がまだおかしい。
そう思いながら、質問をする。
「…。」
ケフカは答えなかった。
「研究所の仮眠室だ。」
「…。」
問いに対する反応が鈍い。
「君は実験室で倒れていた。どうしてここに侵入したのか、理由は後で聞かせてもらおう。今は休みたまえ。」
この有様では詰問しても成り立たないだろう。
話を打ち切ろうと思った。
様子が落ち着くまで、小さなテーブルで仕事を片付けようと椅子に座る。
しかし、内心は仕事どころではなかった。
侵入の経路が見当が付かなかった。
夜間は研究所は全ての出入り口が厳重に閉じられている。
外部から容易く入れる構造にはなっていない。
そして、何故、この男は研究所に侵入したのか。
機密の情報を盗む目的か。或いは、魔導の抽出液が目的だろうか。
いや。
私は常々、共同で魔導の研究をしないかと持ちかけていた。
研究所の人間になれば、盗む行為はより容易くなる。
それならば機会を待てば良いはずだ。
そもそも、疑うべきなのか。
何らかの方略が動いているとでもいうのか。
様々な可能性を考えてみても、現時点では答えは出ないだろう。
「博士。」物思いに耽っていると、小さく声が聞こえた。
「何だ。今はまだ喋らずとも良い。」か細い声に応じ、会話を止めようとする。
「博士、教えていただきたいのです。」ケフカは言った。
話をしたそうだったので、私は問いに応じた。
「何が聞きたい。」私はこの男が何を考えているのか、知りたいと思った。
「2人は、どうしていますか?」ケフカは口を開いた。
「2人とは?」私は聞き返した。
[2人]が誰を指しているのか。思い付かない。
訝しく思っていると、ケフカは思いがけない名を言った。
「ウィリアムとフィリップです。」
「ウィリアム、フィリップ?」
「そう、先程、私と一緒に実験を受けた2人です。彼らは今どうしていますか。」ケフカは言った。
昨日のように実験について言及するケフカに、私は驚き、そして忌まわしい思いをする。
ケフカは続けた。
「腕が熱いです。私は魔法を使えるようになったのでしょうか。2人はどうしていますか?教えて下さい。」
「混乱しているのか。彼らはもういない。君も知っているのではないか。」
私は衝撃を隠せず、やっとのことで答えた。
ウィリアム・H・ブラウンが、魔導による疾患を扱う施設で死んだのはつい数日前のことだ。
ケフカにとっても既知であるはずだ。
10年以上前のあの実験。
あの実験でケフカ以外の2人は重篤な疾患を患い、二度と軍に復帰出来なくなった。
人間と接することすら不可能になり、ずっと施設に収容されることになったのだ。
ケフカは天井を見回し、いやに意味深げに呟いた。
「ああ…。もう、いない、ですね。」
「ああそうだ。今になって、何故そんなことを聞くんだ。何が言いたい。」私は声を荒げていた。
この男の存在は今なお、私を責め立てる。
「博士。」ケフカが言うので、私は恐る恐る耳を傾ける。
「なんだ。」
「…私で、最後ですね?」ケフカは笑いながら言った。
------

魔導研究所仮眠室。
普段は人のいないこの部屋で、ケフカは横たえていた身体を起こして笑っていた。
「私で、最後ですね?」ケフカがそう言った横でシドは立ち尽くしていた。
その表情は青ざめ、唇は戦慄いている。
ケフカのいう「最後」。
シドだけがその意味を思い知っていた。
「…今更な話、ですがね。」ケフカはまたくっくと笑った。
シドは過去の行いを責められていると感じた。
シドは握り締めた手をわなわなと震わせ、口を開く。
「仕方が無かったのだ。実験は、進めなければならなかった。」
シドは切れ切れに声を発し始める。
ケフカは緩慢な様子でその方を見やっている。
シドは続けた。
「実験の期日は定められていた。我々はそれを守らなければならなかった。そうでなければ支援を打ち切ると陛下に。」
シドは呻く様に告白し、苦悶の表情を浮かべた。
あの時、何故、陛下の申し出を断る事が出来なかったのか。
後悔の念が押し寄せていた。

「全てを決めていたのは皇帝だった。」
ケフカはぼそりと呟いた。

シドは続けた。
「君達の前に行なった10名への実験では、魔導を宿した者もいた。成功する可能性も高いはずだった、
だが、予後が良くない者もいて、その原因は突き止めなければならなかった。…しかし、陛下との約束の期日が近づき、私達は原因を解明出来ぬまま、君らに…。」
そこまで吐露するとシドは声を詰まらせた。
「……そして、失敗を。」
ケフカは呟いた。
「ああ。」と、シドはうわ言のように返答する。
「…研究所にいる間に調べました。その10人の実験の経過と結果をね。」
ケフカは言った。
「知らなければ良かったと思った。私達は信じていた。事実を知るまでは。」
「…。」
「シド博士が無謀な実験を行うはずが無いと思っていた。」
ケフカは言った。
「…申し訳、無かった。」
シドは頭を垂れ、それは数十秒間戻ることは無かった。

「頭を上げてください。」
ケフカは頭を垂れたシドを冷えた視線で見て言った。
「魔導の力で帝国が繁栄した今、あれは忘れ去られるべき些細な事故。魔導研究の歴史にもそう記されるでしょう。」
博士を責める者などいないのです。
ケフカはそう言うと、再びベッドに身体を倒した。
「博士、眠れる薬をいただけませんか?」
顔を上げたシドはやや呆然としながら、睡眠薬か、どうしたのだ、と聞いた。
「眠りが浅く支障があるのです。夕方までには出ますからしばし貸していただきたい。…良いですか?」
「ああ。良いだろう。薬を取りに行ってくる。しばし待ちたまえ。」
シドはそう言ってぼんやりとしたまま背を向けた。
「ああそうだ。」
ケフカは声を発した。
「私が研究室に入り込んだ理由をお伝えしていませんでした。」
ケフカは背中を向けたシドに声を掛ける。
「…。」
しかし、シドは声を発することも出来ずにいた。
「……その様子ではお伝えしても意味が無いかもしれませんね。明日改めさせて下さい。」
「ああ、分かった。」ケフカの申し出に、シドは小さく答え、ドアを開け出て行った。
ケフカはその姿を見送ってから、白い天井を見つめ、そしてため息をついた。


 

午前10時。議場の末席で、セリスは一つだけ空いている席を見つめていた。
時計の針は少しずつ時を刻む。
会議はいつものとおり定刻に始まるだろう。
普段と変わりは無い。
ただ一つ違うのはケフカがいないこと。
ケフカからの報告も議題に含まれていたので、議長を努める将軍は幾分困惑していた。
今日ケフカを見た者は誰一人いないという。
急用で来られない事は今までにもあったが、欠席の理由を誰も把握していないことは無かった。

会議が終わり、セリスは席を立つ。
ついにケフカは来なかった。
今度行われる演習の内容と魔法の事で意見を聞きたかった。
会えると思っていた。

部屋を出てると窓の外が目に入る。
午前中は晴れていた空が、俄かに暗くなっていた。
黒い雨雲が天を覆っていて、廊下を歩いている間に叩きつけるような雨が降り出した。
雨音と薄暗くなった通路。
ケフカに話を聞こうと思っていた時間が空いてしまい、仕方なく自室に引き返す。
一瞬、窓の外が光り、続けて雷鳴が低く響いた。
雨はますます強くなり、激しい雷光と音が続けざまに起こる。
一度は戻ろうと思ったのに何故か胸騒ぎがする。
セリスは立ち止まり、そして自室とは逆方向のケフカの部屋へと向かった。
ケフカの部屋の前、セリスは少し深く息を吸い、コンコンとドアをノックした。
が、反応は無かった。
ケフカは部屋にはいない。
やはり急な用が出来たのだろうか。

立ち去ろうとすると、向かい側からシド博士が歩いてくる。
博士の表情は物思いに沈んでいて、こちらには気付いていないようだった。どんどん距離は縮まる。
「博士?」
すぐ近くまで来てセリスは声を掛けた。
「おお…、セリスか。」
シドは顔を上げる。初めてセリスの存在に気付いたようだった。
「博士。」
「セリス。どうした、こんな時間に。」
シドはとんちんかんな事を言った。
「博士、まだ12時になったばかりよ。どうしたの?元気が無いわ。」
セリスはシドの様子を伺った。
シドは何だかぼんやりとした顔をして
「そうかい。」と答えた。
セリスにはシドの様子がどこかおかしいとは感じたが、その原因が何なのかは分からなかった。
セリスは話を変える。
「あ、博士。ケフカを見なかった?」
その名を聞いて、シドはびくりと反応したが、平静に答える。
「……いいや。」
「…そう。」セリスは残念そうにした。
「探して、いるのか?」シドは聞いた。
「ええ、聞きたい事があったの。会議で会えると思っていたけど来なかったから変だと思って。」
セリスは言った。
「…さあ、こんな所にいないで、戻りなさい。」シドは言った。
その顔は険しく、セリスには声も冷たく聞こえる。
シドはそう言い残し、足早に去った。
「博士…?」
セリスはそう呟いてシドの後ろ姿を見つめた。

雨の音だけが煩く鳴り響いていた。

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