午前10時。議場の末席で、セリスは一つだけ空いている席を見つめていた。
時計の針は少しずつ時を刻む。
会議はいつものとおり定刻に始まるだろう。
普段と変わりは無い。
ただ一つ違うのはケフカがいないこと。
ケフカからの報告も議題に含まれていたので、議長を努める将軍は幾分困惑していた。
今日ケフカを見た者は誰一人いないという。
急用で来られない事は今までにもあったが、欠席の理由を誰も把握していないことは無かった。
会議が終わり、セリスは席を立つ。
ついにケフカは来なかった。
今度行われる演習の内容と魔法の事で意見を聞きたかった。
会えると思っていた。
部屋を出てると窓の外が目に入る。
午前中は晴れていた空が、俄かに暗くなっていた。
黒い雨雲が天を覆っていて、廊下を歩いている間に叩きつけるような雨が降り出した。
雨音と薄暗くなった通路。
ケフカに話を聞こうと思っていた時間が空いてしまい、仕方なく自室に引き返す。
一瞬、窓の外が光り、続けて雷鳴が低く響いた。
雨はますます強くなり、激しい雷光と音が続けざまに起こる。
一度は戻ろうと思ったのに何故か胸騒ぎがする。
セリスは立ち止まり、そして自室とは逆方向のケフカの部屋へと向かった。
ケフカの部屋の前、セリスは少し深く息を吸い、コンコンとドアをノックした。
が、反応は無かった。
ケフカは部屋にはいない。
やはり急な用が出来たのだろうか。
立ち去ろうとすると、向かい側からシド博士が歩いてくる。
博士の表情は物思いに沈んでいて、こちらには気付いていないようだった。どんどん距離は縮まる。
「博士?」
すぐ近くまで来てセリスは声を掛けた。
「おお…、セリスか。」
シドは顔を上げる。初めてセリスの存在に気付いたようだった。
「博士。」
「セリス。どうした、こんな時間に。」
シドはとんちんかんな事を言った。
「博士、まだ12時になったばかりよ。どうしたの?元気が無いわ。」
セリスはシドの様子を伺った。
シドは何だかぼんやりとした顔をして
「そうかい。」と答えた。
セリスにはシドの様子がどこかおかしいとは感じたが、その原因が何なのかは分からなかった。
セリスは話を変える。
「あ、博士。ケフカを見なかった?」
その名を聞いて、シドはびくりと反応したが、平静に答える。
「……いいや。」
「…そう。」セリスは残念そうにした。
「探して、いるのか?」シドは聞いた。
「ええ、聞きたい事があったの。会議で会えると思っていたけど来なかったから変だと思って。」
セリスは言った。
「…さあ、こんな所にいないで、戻りなさい。」シドは言った。
その顔は険しく、セリスには声も冷たく聞こえる。
シドはそう言い残し、足早に去った。
「博士…?」
セリスはそう呟いてシドの後ろ姿を見つめた。
雨の音だけが煩く鳴り響いていた。