所内の一角で話していると、セリスが走り寄ってきた。
今日は色鮮やかな絵本を抱えている。セリスは顔を知っている私に聞いた。
「シドはかせは?」
「博士はここにはいない。どうした?」
「よんでくれるって。やくそく。」セリスは答えた。
「そうか。」そう言い頭を撫でてやると、セリスはにこりと微笑んだ。
「俺は子守はごめんだ。」
ウィリアムは苦笑し
「俺たちは先に帰るよ。」とフィリップは先に帰った。
耳に会話が届いたのか、博士がこちらに気付いてやってくる。
「懐かれているな。」様子を見て博士は言った。
「私は子供の事はさっぱり分からぬ。まさか私が孤児を預かることになろうとは。」
「やはり実験はこの子にも?」
私はセリスに聞こえぬように、小声で聞いた。
「当たり前だ。そのために連れて来たのだから。」
博士は言った。
「しかしいくら適正が高いとはいえ、連れてくるのが早すぎたようだ。しばらく待たねばならなくなった。」
「シド博士!」
急に研究員が大声を上げたので、我々は振り返った。
「どうした?」
博士が返事をすると研究員は走りよって、博士に耳打ちをした。
聞いている最中、博士は表情を険しくさせて言う。
「急用が出来た。3日後返事を聞かせてくれ。」
そう言って博士は足早に立ち去っていった。
辺りは騒がしくなり、不穏な空気が覆う。
何が起こったのかは知る由もなく、私はセリスと残された。
セリスは本を抱えたまま、不安げな表情をしている。
このまま独り残すのは、可哀想かと思い、屈んで絵本を借りる。
「今日もこれか。」
絵本を持って言うと頷く。
先日も読んだ覚えがある。
「部屋で読もうか。」
「うん。」提案すると、セリスは嬉しそうに返事をした。
「おいで。」
立ち上がって、手を差し出すとセリスは手を取った。
小さい手だと思った。
------