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ケフカについて書きます。二次創作あり(文章) 小話「数年前121~123」更新しました。(2015年8月9日)
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植物園。
シドは自身が所有しているこの場所に一晩中いた。
日中は仮眠室にいるケフカに睡眠薬を手渡し、一度だけ自室に戻ってから、その後園に篭った。
再び研究所に戻る気になれなかったのだ。

研究所はシドが数十年を掛けて作り上げてきた。
シドの研究の全てが詰まっているといっても過言ではなかった。
しかし、その研究所に出入りすることが、近年は苦痛に感じることが多い。
シドが魔導研究の第一人者として、帝国に加担するのは戦争が終わるまでだと思っていたが、帝国は侵略を拡大させる一方で、未だに終わりが見えなかった。
終わりが見えない戦争への加担と、魔導注入を施した者への罪悪感が今になってもシドの神経をかき乱していた。
特にケフカに対しての魔導注入が失敗してしまったこと、幼いセリスに魔導注入を施し魔導戦士に育てあげてしまったことを後悔している。
シドが誰とも会わずに、植物園に篭るのは、そのような心を乱す様々な事から距離を置くためであった。
花を愛でている間だけは忘れられると思っていた。

このような後悔は昔研究に情熱を費やすことが出来ていた頃には考えられなかったことで、自らが年を取ったと思う。

ふと時計を見る。
もうすぐいつも出勤する時刻になると気付いた。
年を取る毎に時間が経つのが早く感じる。
今日は、ケフカが研究所に侵入した理由を話しに来ると言っていた。
シドは重い腰を上げて立ち上がる。
そして、研究所へと向かった。

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魔導研究所シド研究室。
シドはケフカを待ちながら、執務をしていた。
コンコン、ドアを叩く音。
「来たか…。」
シドはそう呟いて立ち上がった。
ドアを開ける。
やはりケフカだった。
「待っていた。」シドは言った。
一瞬だけ目が合う。
ケフカの顔色はやや良くない気がする。
「入りたまえ。」
ケフカの様子を伺いながらシドが穏やかに言うと、ケフカは目を伏せて、無言で歩を進めた。
「掛けてくれ。」
シドは扉を閉めてから、ソファを指して声を掛けた。

「茶でも入れよう。」シドはそのまま座らずに棚の方へ行った。
「…。」ケフカは何も言わず、ソファに腰を掛けた。
シドは茶を注いだカップをケフカの前に置き、その向かい側に腰をかけた。
「よく、来てくれた。…じゃあ、昨日の件を話してくれるな。」
「はい。」シドが言うと、ケフカはようやく声を発した。

「一昨日の夜…」
ケフカは話し始めた。
シドはメモを取る。
「私は深夜に目が覚め、外に出ました。寝付けなかったのです。時刻は正確には覚えていませんが、2時を過ぎていたと思います。屋内では誰にも会っていません。」

ケフカは静かに淡々と話す。
その様子は昨日とはまるで違う。
この男は何を考えているのだろう。
シドは思った。

ケフカはシドの思いなど知るはずも無く、そのまま続けた。
「外に出てからの行き先は決めていませんでした。理由はありませんが、研究所の方へ行こうと思いました。依然通っていた時の道、塀に沿って、門の方へ向かったのです。」
「門の前に着いて立つと、見慣れた木が見えました。博士の研究室の横にあった木です。昔よく、仲間と集まっていた事を思い出しました。そして戯れに門を押すと、開きました。」
ケフカは言った。
「門が開いた?」シドはペンを止め、顔を上げる。
研究所の門の鍵は昨日、シド本人がかけている。
それは間違いが無い。
しかもそれは簡単に開く構造ではないのだ。
「もう一度聞く。門を押したら偶然に開いたというのか?」
シドはケフカの言葉が俄かには信じられず、聞き返した。
「…そうです。」
そう、ケフカは少し間を置いて答えた。

本気で言っているのだろうか?
シドは思った。
シドは探るようにケフカの目を見たが、ケフカは真っ直ぐに見返すだけだった。
鍵の掛かった門が容易くは開くはずがない。
そんなことはケフカも分かっているはずである。
どういうつもりなのか。何を考えているのか。
話を最後まで聞こうと思う。

ケフカは続けた。
「しばらくは木の側にいました。そして、博士の研究室の側の廊下に通じる裏口に気がついて、中に入ろうと思いました。階段を上り、ノブを回すとそれも開きました。そして侵入したのです。」

[裏口]と聞いて、シドはケフカの言葉が信じるに値しないのではないかと思いだした。

「それで?」
シドは続きを促した。声に少し怒気を含んでいた。

ケフカは続ける。
「研究所に入ってからの記憶は曖昧です。夢を見ていたのだと思います。当時の博士や仲間達の夢を見ていました。裏口からそこまでどのように移動したかは覚えていませんが、目覚めると実験室にいました。」
「…。」
シドはケフカを険しい表情で睨みながら聞いている。
「実験室で今までの出来事が夢だったと気が付いた時、私を気を失いました。そして昨日仮眠室で目が覚めたのです。」
ケフカの話は終わった。

シドの表情は険しい。
ケフカの話には信じられる要素が無いと思っていた。

少しの沈黙の後、シドは重い口を開く。
「私は、君が本心で伝えているのかを、慎重に判断しなければならないようだ。」
シドはカップを手に取り、茶を一口だけ飲んだ。
「何故、慎重にならなければならないか、理由を言おう。」
シドはゆっくりと言った。ケフカの表情に注意しながら。
ケフカに嘘をついている自覚があれば、表情が変わるかもしれないと思っていた。
「君が侵入に使ったと言った裏口は、半年も前に無くなっている。今は取り壊され壁になっているのだ。よって君の証言は本心からなのか、問わざるを得ない。」
シドは言った。
しかし、その言葉にケフカは眉一つ動かすことは無かった。
 

シドは続ける。
「それに、一昨日研究所の門は私が施錠している。鍵の掛かった所の門が容易く開くはずがないことくらい君とて知っているだろう。」
シドは言った。
「…。」ケフカは沈黙している。
「門が押しただけで開いた、無いはずの裏口が開いたなど、そのような非現実的な話が聞き入れられるとでも思っているのか。何故、納得のいく説明をしてくれないのだ。」
シドの声には苛立ちが混じっていた。
「私は、身に起こったことをありのままに伝えています。」
ケフカはようやく口を開いた。
しかし、それがシドには酷く事も無げに聞こえ、神経を逆撫でした。
「君は帝国のごく一部の人間しか立ち入りを許されていない研究所の実験室に許可無く侵入した。それだけは紛れも無い事実だ。今はその嫌疑を掛けられている。君の事は古くから知っているが、今回の件は真実が分からぬままにはしておけない。虚言は聞きたくはないのだ。」
シドは声を荒げて言った。
「申し上げた通り、私はありのままを伝えています。」
ケフカは相変わらず表情を変えることが無く言った。
「だからそれはありえないことだと言っている。」
シドは言い返す。
「…。」
「…。」
平行線を辿るであろうやり取りに、両者が沈黙した。

「…やはり私が信用出来ないか。」
シドは先ほどまでの口調とは変わって、落ち着いた風に言った。

「…いえ。そんなことは。」
ケフカは言った。
しかしその表情は平坦で変化がない。
シドはこの男は何を考えているのか分からないと思う。
「ケフカよ。私は軍のことは知らない。しかし、事情があるのならば言ってくれ。今ならこの件は私しか知らない。黙っておくことも出来るのだぞ。」
シドは言った。
「軍は関係ありません。全て、私個人がしたことです。」
シドの申し出にも、ケフカは主張を変えようとはしなかった。
シドはため息をついた。
「ケフカよ。君の証言が虚言であることは明らかだ。この件が公になれば君は信用を失うことになるだろう。ここで本当のことを話さないのは何の得にもならない。弁解も何もしないのであれば、私は所長としてこの件を私の胸の内だけに止めておくことは出来ないのだ。」
シドは言った。
「かまいません。これ以上私からは申し上げることはない。」
ケフカは言った。
「本当に何も言うことはないのか。」
シドは沈んだ口調で言ったが
「ええ。」
ケフカは短く答えただけだった。
「君とは古い付き合いだと思っていたが。」
「…。」
「この件は報告をあげねばならない。追って何らかの沙汰が下るだろう。」
シドは言った。
「分かりました。」
そうケフカは言い、立ち上がる。
立ち上がったケフカをシドはソファから見上げる。
「残念だ。」シドは思わず口にする。

その言葉にケフカは一瞬立ち止まったが、そのまま研究室から出て行った。
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ケフカは、暗い自室のベッドで寝そべっていた。

外は夕闇に包まれ、シトシトと音がする。
ここ数日、夜になると雨が降っていた。
カーテンは締め切られ、部屋には明かりが一つも灯っていない。
ドアの隙間から漏れる僅かな光がケフカのシルエットを浮かび上がらせる。
右手を額の上に乗せ、眠ってはいなかった。

研究所での出来事は、ケフカにとっても不可解だった。

ありもしない扉を開き、侵入した。
シドにその扉は半年も前に無くなっていると指摘され、ケフカは帰り際に本当にドアがなくなっているかを確認をした。
やはり、そんな扉はなくなっていた。
その事に衝撃を受けなかったといえば嘘になる。
あの夜、門が開き、扉のノブを回した手の感覚が今だに生々しい。
しかし、実験室にいたことだけが事実で、それ以外の私が見た物は虚言だとシドに断じられた。

私が見た物が虚構ならば、夢だと思わなければ何なのだ。
私が見た物が夢ならば、どうして私は実験室にいたのか。
何が現実で、何が夢で、何が嘘なのか?

夢でもない、嘘でもない、ならば、
ああそうか、

夢でも嘘でもないなら、迎えに来たのだ。
先に逝った幾多の魂が、魔導の力を享受して、生き長らえている私を許せぬと迎えにきたのだ。
だから彼らは過去からやってきて、私を招きいれようとした。

それならば何故、現世に戻したのだ。

トントン。

軽やかなノックの音。ケフカは現実に戻された。
「セリスです。」聞きなれた声が言った。
ハッと顔を上げた。

トントン。もう一度ノックの音がする。
ドアの向こうにセリスがいる。

顔が見たい。と思った。

「ケフカ、いる?」
ドアの向こうのセリスは問いかけた。

セリスの明るい声。
しかし、その声が、ケフカの中の憂鬱を引き起こし、上げかけた首を元に戻させた。
泥のような、暗澹たる妄想の中に、先ほどまでケフカはいた。
今は突然現れた光に、足が竦んでいる。
ケフカは物音も立てず、再び寝そべった状態に戻った。

「やっぱりいないかな。」ドアの向こうでセリスは呟いた。

そうして少しの時間、セリスはドアの前に留まっていたが、やがて諦めたように立ち去った。
こつ、こつ、という靴の音が小さくなり、聞こえなくなる。

暗い空虚な部屋にはサーサーと雨の音だけが聞こえる。

ケフカはゆっくりと身体を起こして、明かりの漏れているドアの方を向いた。
一歩一歩、足を引きずるようにして、ケフカはドアの前まで歩くく。
最早ドアの向こうに気配は無いが、今出ればまだ近くにはいるだろう。

そう思ったが、扉に手が伸びることは無かった。

目の前の白いドアが、まるで壁のように自分を拒んでいる。

雨の音が、軽やかなノックの音も、明るい声も、その足音もかき消していく。
十数分ドアの前に立っていただろうか。

「分かっていたことじゃないか。」

呟くような声が聞こえた。

「こうなることくらい。」

その声の主が自分だと気付いた。
 

翌日の夕方。
セリスは廊下を歩いていた。
今日も日中に会議や訓練があったが、やはりケフカは来ていなかった。
昨晩も部屋を訪ねたが、いないようだった。
どこへ行ってしまったのだろう。
セリスはため息をついた。
辺りにはすっかり人がいなくなり、今夜も雨が降るのだろうか廊下は薄暗かった。

目線の遠く先に、見慣れた姿が横切った。

「ケフカ?」セリスは声を掛けた。

その人は歩を止めてこちらを向いた。
暗くても分かる。
「…セリスか。」低い声でその人物、ケフカは言った。
「やっぱり。」セリスはほっとした声色で言って、走り寄る。
その様子をケフカは無言で見ていた。
「久しぶりね。」近くまで来てセリスは言った。
「そうか。」ケフカは僅かに首を傾げて呟く。
時間にすれば僅か数日だ。
「皆、どこにいるか知らないから、心配していたわ。」セリスは言った。
会えたことが嬉しかった。
昨日、今日とセリスは、ケフカの知り合いに居場所を知らないか聞いていた。
しかしその度に今ケフカと一番長く時間を共にしているのが自分であると自覚させられている。
「会議も来なかったから、もう何を聞こうと思ったか忘れてしまったわ。」
セリスは言った。
「…それは悪かった。」ケフカは言った。
セリスは違和感を感じた。
声や表情の様子。
ケフカの纏う雰囲気がいつもとは違う。
そもそも無断で何日もいなくなるという行為が、長く行動を共にしてきたセリスにしてみれば違和感があった。
「何かあったの?」セリスは聞いた。
何も無いはずが無いと思っていた。
「教えて。」セリスは言った。

少しの沈黙が流れる。

「何もないさ。」ケフカは答えた。
そしてセリスに背を向けようとする。
「え、待って。」そっけない様子に、セリスは慌てた。
背を向けたケフカは「もう、良いか?」と言い、歩を進める。
「何もなかったはずがないわ。ケフカ、いつもと全然違うわ。」
セリスは言う。
ケフカは足を止める。
「何があったの?」セリスはもう一度言った。

「…俺に近づくな。」ケフカは低い声色で言った。

セリスにはケフカの言っている事が理解できない。
「?どういう意味。」セリスは聞いた。

「言葉のとおりだ。」
背を向けたまま、セリスに対して、ケフカは言った。
「急にそんな事を言われて、はい、なんて言えないわ。近づいたらいけないって、どうして。」
セリスは幾分大きな声を出した。

しかし、ケフカはセリスの問いには応えずに、立ち去ろうとした。
一歩、二歩、とケフカの背中が離れていく。
「待って。」
セリスはとっさに、ケフカの手を掴んだ。
形のはっきりとしない感情に突き動かされた。
手を掴まれてケフカは足を止めた。
だが、セリスは言葉を繋げる事が出来ず、静まる。
ほんの少し体温のやり取り。
ケフカは握られた手をそのままに、ゆっくりと向き直った。
そしてセリスの手を取って、静かに自分の手から外す。
向き直ったケフカの目をセリスは見ていたが、ケフカは無表情を装ってセリスの顔を見ていない。
「ケフカ。」セリスは、ケフカの名をただ呼んだ。

ケフカは何も応えずに、また背を向けてしまう。
ケフカは苦悩の表情を浮かべていたが、セリスからは伺いしれない。
「じゃあ。」
ケフカはそれだけ言って、立ち去ってしまった。
セリスは呆然と後姿を見送るしかなかった。
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一晩経って、翌日からケフカは職務に復帰した。
セリスは訓練の時間が終わり、遠巻きにケフカを見つめていた。
ケフカは依然と変わらない様子で、隊の人間と話をしている。
ケフカは不在だった理由を他にも話していないらしく、セリスにはその質問が何度となく浴びせられた。
しかし、もちろん、セリスにもそれは分からないことだった。

セリスは昨夜の事を思い出していた。
ケフカは数日に及び姿を消した事について、何も言わなかった。
そして「近づくな。」と言った。
(ケフカは目を見ないで言った。)
ケフカの様子から、冗談で言っているのではないとセリスは思った。
だからこそ咄嗟に腕を掴んで、繋ぎとめようとした。
何か気に障る事をしてしまったのかと思い巡らせるが、見当が付かない。

セリスは、その一方的な拒絶に、自分が思ったよりショックを受けていることに気付く。
理由があるならば、言ってくれると思っていた。
(でも。)
訳も聞けずに、そのままなんて嫌だと思う。
セリスは顔を上げた。

セリスは周りに誰もいなくなった時を見計らい、ケフカに話しかけた。
「ケフカ。」
セリスに気付いたケフカはちらりと見る。
「昨日のことなんだけど。どうしても、納得が出来ないの。」
セリスは少し緊張しながら言った。
「ケフ…」
セリスが口に出すと、ケフカは視線をセリスの背後に向ける。
セリスはつられて、後ろを向く。背後には他の隊の将軍が歩いてくるのが見えた。
ケフカはセリスの姿がまるで目に入っていないかのように、後ろの者に話しかけ、横を過ぎて行き、
あっけなく、セリスの前からいなくなった。


セリスはいなくなったケフカを認識し、呆然とした。
(本当、だったんだ。)
うまく働かない頭で、セリスはぼんやりと思う。
(あんな一言で、終わってしまった?)
昨日の夜の一方的な言葉。
今のセリスには振り返ってケフカに向かって問いただす勇気が無い。
どこか、また以前のように接することが出来るのではないかと期待していたのかもしれない。
その期待が砕かれた。
セリスは背後にケフカの声を聴きながら、重い足を一歩ずつ踏み出し、その場から遠ざかっていく。
少しずつ、ケフカの声が遠ざかる。
何か理由があるならば、言ってくれると思っていた。
そんな関係を築けていたのではないかと思っていた。

でも、それは私が思い込んでいただけかもしれない。

セリスの脳裏を掠める。
ケフカにとって私は単に後輩の一人に過ぎなかった。
なまじ距離が近かっただけに、実際は疎ましく感じていたのかもしれない。
たまたま同じ力を持っていて、その縁で軍人として一人前に育ててもらった。
ケフカにとって、それは軍人として至極当然な義務的な行為に過ぎなかった。
今まで重ねてきた会話も、関係も、ケフカにとってはそうだったのかもしれない。
(私だけが信頼関係を築いていると過信していたのかもしれない。)

セリスはうな垂れて、室内へ戻った。

ケフカは隊の者との会話を終えて、部屋へと戻った。
数日ぶりに軍務に復帰したことで、無断で不在だったことの理由を隊の人間に何度か問われた。
しかし、理由は言えないとこちらが答えたことにより、隊の者は突っ込んで聞こうとはしなかった。
大方、連中は、皇帝をはじめ高位の幹部から、秘密裏に任務が下ったのだろうと想像したのだろう。
軍人でありながら魔法に関して誰よりも深く通じていることが、
他の者と比較してケフカが大きく秀でている面だった。
その知識や能力を買われて、特別な任務を下されることがよくあった。
もっとも、彼らは直接聞いて答えが得られなければ、近しい者に対しても聞いて回る。
おそらく、セリスにも聞いているだろう。
そうケフカは想像する。

(セリス…。)
ケフカはさっき話しかけてきたセリスを思い出した。

その時、
「………………。」
「…ッ。」
まただ。
またあの声が頭に響く。
闇の底から響くような、咆哮に近い幻聴。
鳴り響く、呼ぶような、責めるような、恨むような声。
ケフカは耐え難く、耳を塞いだ。
塞ぎたいのは耳なのか、頭なのか。
分からない。
「煩い。」
ケフカは呟いたが、声は治まる事はない。
断末魔のような嫌な声。
「やめろ。」
ケフカの声が次第に大きくなっていく。
「黙れ…。黙れ、黙れ、黙れ、黙れ!」
ケフカは大声を上げた。
ドアの外側の廊下を歩いていた人物は、ビクりとケフカの部屋の方を見た。
「ハァ、ハァ…。」
大声を上げた事で、幻聴は消えた。
あの声はケフカにしか聞こえない。
幻聴は魔導注入の副作用として認識されている。
それがやはり、今になって起こり始めているのだろうか。
考えたくなかった。

少し、落ち着いて、セリスの顔を思い出す。
さっきのセリスは、やや、ぎこちない顔をしていた。
ケフカは若干表情を曇らせる。

仕方が、無い。

今後、セリスに何かを教えたり、戦場で手助けすることもなくなるだろう。
今までは距離が近過ぎた。
今回はきっかけに過ぎず、遅かれ早かれ、離れることになっていた。

近過ぎた故に、いつの間にか無くてはならないものと認識し、依存していたのかもしれない。
ならば、離れた方が良い。

ケフカは思った。

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あれから数日。

セリスは平常心でケフカに接することが出来ないでいた。

所属する大隊自体が一緒であるため、
将軍であるセリスはケフカと接しない訳にはいかなかった。
仕事上必要なことであれば話をするのは当たり前だが、
それ以外の場面では話すことも目を合わせることもなかった。
将軍になる以前の事であれば、ところ構わず付きまとって、
理由を聞き出そうとしていたかもしれないが、今はそういう訳にはいかない。
それは単に2人が師弟という関係であり、セリスが一般の兵であったから出来た事だ。
今やセリス自身も多くの部下を抱える身である。
個人的なやり取りを部下に見せてはいけない自覚はある。
命を預かる立場、指揮をする立場なのだから当然だ。
しかし、そう思ってはいても、セリスはそれに慣れることが出来ないでいる。
話をしているその横顔が見知っている形、聞きなれた声であるにもかかわらず、
まるで別人のような感覚がした。
壁を感じる。近かったその存在が今は酷く遠い。

以前のような日常的なやり取りをしなくなった分、
セリスはケフカを見ていることが多くなった。
気付けば姿を遠巻きに見つめてしまう。
少し痩せたのではないかと思う。
以前より口数は減ったように感じる。
また、他の人とも距離を置いているように見えた。

セリスは自室に戻った。
本棚から会議で使用するための地図を取り出そうとする。
その地図は他の本と比べて大きいので本棚の下段に入れてある。
屈んで地図の背表紙の上を指で引くと、隣に並べていた赤い背表紙の本が滑り落ちた。
セリスはそれを手に取る。
子供の時、研究所にいた頃に良く読んだ絵本だった。
表紙に施されたキラキラとした飾りの幾つかは取れている。
紙の部分は幾分痛んでいるところもあった。
10年以上前にシド博士から貰った本。
セリスはページをめくった。
最初の一節に目を通す。

不意にケフカの声が聞こえたような気がした。
ああ。
セリスは思い出した。
小さかった時、私はケフカの膝の上に乗せられて、朗読を聞いていた。
時々、研究所を訪れるケフカにせがんで、本を読んでもらっていた。
ケフカの膝の上は、不思議と落ち着いた。
シド博士はいつも忙しそうで、周りの大人は距離を置いているように思えた。
実験を受けることになる子供にかかわりたくなかったのだろう。
そういえば孤児院を訪ねる大人も似たようなものだった。
私は人を寄せ付ける雰囲気ではなかったシド博士を避けて、ケフカに懐いていた。
孤児院から研究所に引き取られてひとりぼっちだと思っていたが、
本を読んでもらっているその時だけはその気持ちが取り去られていたような気がした。
恐らく、私はケフカに「甘えて」いたのだ。

いつからか、ケフカは仲間の人と一緒に研究所に住むようになっていた。
ケフカが住み始めてすぐの頃、また本を読んでほしいとせがんだが、
ケフカは「また今度」と言って行ってしまったのを覚えている。
それきりケフカと会うことがぱったりと止んだ。
あまり記憶にはないが、私は酷く寂しがったらしい。

シド博士は見かねて、私をケフカに会わせてくれた。
その時はケフカはベッドに寝ていて、起きてくれなかった。
声をかけたけれど、ケフカは目を開けてくれなかった。
覚えているのは白い部屋、白い明かり、白いベッド、青白い顔色。
思えば、あれは魔導注入を受けた直後だったのだ。
博士が相手をしてくれるようになったのは、その頃からだった。

結局、私に施されるはずだった魔導注入は延期に延期を重ね、
研究所に来てから数年の月日が経っていた。
実験を受ける身で、市街の学校に通うわけにはいかず、
魔導注入を受けるまでの間、帝国軍内の学校で教育を受けることになった。
学校では何歳も年上の訓練生と同席だったため、
同じ課題をしても敵うはずがなく、常に成績は下位だった。
成績は振るわず、いつ戦力になるかも分からない癖に、
シド博士に引き取られたというだけで優遇されている。
もともと軍人になりたくて、ここにいる訳でもないのに、
ただ流されるままこの環境にいると感じた。
その事を負い目に感じ、周囲に心を開くことが出来なかった。
私には友達と呼べる人はおらず、孤立していた。

あれから魔導注入を受けた後のケフカの姿を研究所で見ることはなくなったが、
代わりにその魔導戦士としての活躍が伝えられるようになった。
当時の私には何が凄いのか詳しい事までは分からなかったが、
側にいたケフカが称えられていることを誇らしく思い、憧れていた。
多くの人が、ケフカを尊敬していたし、私もケフカのようになりたいと思っていた。

ようやく魔導注入が可能になったと聞いて、私はとても喜んだ。
やっと魔導戦士になれる。スタートラインに立てると思った。
その頃になるとケフカが研究所を訪れることがたまにあったが、
力も何も持たない情けない境遇のまま会う事が憚られ、
会いに行くことは出来なかった。
私はシド博士には出来るだけ早くして欲しいと、
あまり口にした事のない、我が儘を言った。
博士は頷いていた。

魔導の力を手に入れてから、私はケフカの元に報告に行った。
誇らしい気持ちだった。
久しぶりに会ったケフカは驚いた顔をしていた。
報告すると不機嫌そうな顔になり
「取り返しのつかないことをしたな。」と言った。
てっきり褒めてくれると思っていたので、私は面を食らった。
ケフカは続けた。
「もう普通の人間には戻れないし、自分の身にこれから何が起こるのかも分からない。
魔導が原因の病になる可能性もある。分かっているのか。」
私は押し黙った。
その事を知らない訳ではない。寧
ろあらかじめシド博士から説明は受けていて、その危険は十分に分かっていた。
ただ、ケフカの雰囲気に気圧されたのだ。
私が無言でいると、ケフカは
「怖くないのか。」と言った。
ケフカの言葉を聞いて、私は考えた。
ちっとも怖くなんかなかった。
それは何故だろう?
そして答えた。
「一緒だから。怖くない。」

ケフカは一瞬だけ黙って、呆れたようにため息をついた。
「魔導の力を手に入れただけで、一人前になれたと思うな。」
ケフカの言葉は厳しかった。
ケフカはそれだけ言うと、部屋を出て行ってしまった。
私は一人残された。
ケフカの言葉は厳しいと思ったがその通りだと思う。
私は甘い。

後日、シド博士とケフカが口論をしていたという事を聞いた。
私にはどうして、ケフカがシド博士と言い争うことになったのか、分からなかった。

それから、しばらくして、私は研究所を出て、シド博士の元を離れ、
他の訓練生と同じ生活を送ることを決めた。

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コンコン。
ノックの音。
セリスは顔を上げる。
「セリス、もうすぐ時間だぞ。」
時間が差し迫っていることを促す某将軍の声だった。
手にしていた絵本を本棚に押し込む。
セリスは、会議に必要な地図を取りに来ていた事を思い出す。
「嘘。」
時計を見て、かなりの時間が過ぎていた事に気付いて、セリスは驚いた。
「今、行きます。」
そう返事をすると、セリスは目的の地図を本棚から取り出し、立ち上がる。
ドアを開けると、某将軍が待ちかねたといった様子で、セリスが持つ地図を見せろと言った。
セリスと某将軍は話ながら慌ただしく議場へと向かう。

会議の内容は、近々行われる遠征についてである。
恐らく自分は参加すると思われたが、
(ケフカも参加するだろうか。)
セリスはそう思って、首を振った。
何となく、今日もケフカは来ないのではないかと感じたからだ。

セリスは議場の定められた席に着く。
会議は定刻通りに始まった。
ずらりと面々が並ぶ中、1つだけ空いている席。
やはりケフカは来なかった。
遠征参加者のリストにもケフカの名は無い。

(あの時から、変わってしまったのかな。)
ケフカが数日の間、行方をくらませたあの時。
諦めにも近い思いをセリスは抱きながらも、
あの時、ケフカに何かがあったのは間違いが無いと思っている。
それなのに解決の糸口がつかめないでいることに、焦りを覚えていた。

セリスは、会って話がしたいと思いながら、
上の空で、会議の内容を聞いていた。

数日後。
セリスは幾らかの荷物を抱え、宿舎を出た。
時刻は早朝3時を少し過ぎていた。

先日の会議にて、セリスは先発隊として遠征に参加することが決まり、
今日までに慌ただしく出立の準備を済ませた。

日の出まではまだ時間がある。
今日は満月のはずだったが、雲に覆われた空は漆黒であった。
夜の露を含んだ空気。寒さが残っている。

湿った冷たい空気を吸い込みながら、セリスは宿舎を横切り、門へと向かった。
何気なく宿舎の方を見上げると、一室だけ、明かりの灯っている部屋があった。
ケフカの部屋。
以前は頻繁に出入りをしている部屋だったので間違えようがなかった。
ほの暗い明かりが部屋を照らしている。
明かりは机上のランプの物かと思われた。
(まだ、起きてるのかな。)
セリスは思った。
セリスが歩を進め部屋の直下に来る頃には、その窓際にわずかに人影が見えた。
少し心臓が鳴る。
(仕事、してるのかな。)
周囲が全て消灯されている中、ケフカの部屋だけはぼんやりと明かりを放ち、
闇夜に浮き上がって見える。

セリスはケフカの他人行儀な振る舞いを思い出した。
(近づくなと言われたのに。無視をされたのに。)
(でも…。)
そう、暗い気持ちに沈みそうになった時、

「セリス将軍。」
不意に背後から誰かに呼ばれた。
セリスの配下の者だった。
近づいてくる気配に気づけなかったと感じ、セリスは表情に若干焦りの色を滲ませてしまう。

(他人には見せられない顔をしていた。)
セリスは瞬間的に思った。

セリスはゆっくりと兵士の方へと振り返って、
「どうしました。」と答えた。
兵士が話しを始めた。
「…何か、聞きたいことがあるのですか?」
セリスは動揺を抑えながら応じる。
応じながら、
(夜明け前で良かった。)と感じていた。
動揺が悟られては示しがつかない。

会話は何事もなく終わり、配下の者は去って行った。
セリスは部屋に見える影に後ろ髪をひかれる思いで、歩を進める。

セリスは自分がケフカの事が気になっているのだと改めて自覚する。

前方に明かりが見え、兵士たちが次々と集まっているのが見えてくる。
ざわざわと、出立直前の特有の兵士たちの熱気が伝わってくる。
(遠征の直前だというのに…。)
士気の高い彼らの様子を見て、セリスは自分がひどく自制心に掛けていると感じた。

いつの間にか現れた黄色い満月が、雲間から見え隠れする。
セリスはいつの頃からか、月に精神を乱されることが度々あった。
それは軽い物であったが、満月の夜には影響が大きい。
(心が乱れているのは満月のせいだ。)
セリスはそう思い込むことで、自分を保とうと思う。

(帝国将軍ともあろう者が。…未熟者。)
セリスは己を叱責する。

セリスは表情を引き締めて、兵士たちの中に合流した。

ケフカは手がけていた仕事がひと段落し、少しだけ伸びをした。
午前3時。
ケフカは現在、軍の編成や作戦を立てる立場にある。
先ほどまで作成していた物は、来年に行われる予定の遠征の為の資料だった。
ケフカは自らが作った資料を指でなぞる。
(これも無駄になるかもしれない。)
ケフカはそう思いながら、立ち上がった。

窓際に座り、外を眺める。
満月が少し見えては、再び厚い雲に隠れる。
星までは見えなかった。

ケフカは不眠症の状態が続いていて、今夜も時間潰しを兼ねて仕事をしていた。
これまでも再三訪れる悪夢により眠りの浅いことが多かった。
不眠の兆候はあったと言えるが、研究所での一件が引き金になった。
体は疲れていても、精神が眠りを欲しようとしない。

…キィーン
右耳で少し耳鳴りがして、ケフカは幾分顔をしかめた。
幻聴の前触れ。
深呼吸をして、気分を落ち着かせる。
そうしている内に、耳鳴りは止んだ。

幻聴の症状も悪化の一途を辿っていた。
ここ数日は幻聴は昼夜を問わずに起こり、頻度も徐々に高くなっている。
恐ろしいのは、その幻聴が現実に聞こえる声に徐々に似てきている点だった。
今は自分にしか聞こえない幻聴であると認識できる。
しかし、いつか現実の音と幻聴との区別が付かなくなったら?
そう思うとケフカは怖かった。
再び研究所に侵入した時の様に、おかしな行動をしたら?

ケフカに突きつけられているのは、自分で異常な行為を制御出来ないという事実だった。
客観的に見て、自分には軍人としての資格はもはや無いと言わざるを得ない。

自分と同じ時期に魔導注入を受け、重い後遺症を患った彼らの事を思い出す。
そして、先に逝ったウィリアムとフィリップ。
彼らが見舞われた症状が、脳裏をよぎった。
病室に隔離され、会話もままならなかった。
彼らはあそこから生きて出る事が出来なかったのだ。

少し頭痛がした。
窓を開けて、空気を入れ替えようと思う。
冷たい空気がゆっくりと入り込む。
(ましてや、軍の指揮を執る人物として相応しいはずがない。)
ケフカはそう思った。

シド博士が、研究室に侵入した件を皇帝に報告をすれば、何らかの沙汰が下るだろう。
(そうしたら…。)
(どうする?)
そう自分に問いかけると、ゆっくりと自分の何かが崩れていくような感覚がした。

ギリ…。
無意識にケフカは唇を噛んだ。
(皇帝…、シド…。)
一瞬、昏い感情が鎌首をもたげるのを感じた。

その時、びゅうと、冷たい風が吹き込み、カーテンが煩くはためいた。

ケフカは、囚われた感情から無理やり意識を外した。

全ては終わったことだ。
研究室侵入の件で、沙汰が下ったら、
(そうしたら…。ここを去ろう。)

残された時間は少ない。
ケフカは思った。

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