いつからか、ケフカは仲間の人と一緒に研究所に住むようになっていた。
ケフカが住み始めてすぐの頃、また本を読んでほしいとせがんだが、
ケフカは「また今度」と言って行ってしまったのを覚えている。
それきりケフカと会うことがぱったりと止んだ。
あまり記憶にはないが、私は酷く寂しがったらしい。
シド博士は見かねて、私をケフカに会わせてくれた。
その時はケフカはベッドに寝ていて、起きてくれなかった。
声をかけたけれど、ケフカは目を開けてくれなかった。
覚えているのは白い部屋、白い明かり、白いベッド、青白い顔色。
思えば、あれは魔導注入を受けた直後だったのだ。
博士が相手をしてくれるようになったのは、その頃からだった。
結局、私に施されるはずだった魔導注入は延期に延期を重ね、
研究所に来てから数年の月日が経っていた。
実験を受ける身で、市街の学校に通うわけにはいかず、
魔導注入を受けるまでの間、帝国軍内の学校で教育を受けることになった。
学校では何歳も年上の訓練生と同席だったため、
同じ課題をしても敵うはずがなく、常に成績は下位だった。
成績は振るわず、いつ戦力になるかも分からない癖に、
シド博士に引き取られたというだけで優遇されている。
もともと軍人になりたくて、ここにいる訳でもないのに、
ただ流されるままこの環境にいると感じた。
その事を負い目に感じ、周囲に心を開くことが出来なかった。
私には友達と呼べる人はおらず、孤立していた。
あれから魔導注入を受けた後のケフカの姿を研究所で見ることはなくなったが、
代わりにその魔導戦士としての活躍が伝えられるようになった。
当時の私には何が凄いのか詳しい事までは分からなかったが、
側にいたケフカが称えられていることを誇らしく思い、憧れていた。
多くの人が、ケフカを尊敬していたし、私もケフカのようになりたいと思っていた。
ようやく魔導注入が可能になったと聞いて、私はとても喜んだ。
やっと魔導戦士になれる。スタートラインに立てると思った。
その頃になるとケフカが研究所を訪れることがたまにあったが、
力も何も持たない情けない境遇のまま会う事が憚られ、
会いに行くことは出来なかった。
私はシド博士には出来るだけ早くして欲しいと、
あまり口にした事のない、我が儘を言った。
博士は頷いていた。