数日後。
セリスは幾らかの荷物を抱え、宿舎を出た。
時刻は早朝3時を少し過ぎていた。
先日の会議にて、セリスは先発隊として遠征に参加することが決まり、
今日までに慌ただしく出立の準備を済ませた。
日の出まではまだ時間がある。
今日は満月のはずだったが、雲に覆われた空は漆黒であった。
夜の露を含んだ空気。寒さが残っている。
湿った冷たい空気を吸い込みながら、セリスは宿舎を横切り、門へと向かった。
何気なく宿舎の方を見上げると、一室だけ、明かりの灯っている部屋があった。
ケフカの部屋。
以前は頻繁に出入りをしている部屋だったので間違えようがなかった。
ほの暗い明かりが部屋を照らしている。
明かりは机上のランプの物かと思われた。
(まだ、起きてるのかな。)
セリスは思った。
セリスが歩を進め部屋の直下に来る頃には、その窓際にわずかに人影が見えた。
少し心臓が鳴る。
(仕事、してるのかな。)
周囲が全て消灯されている中、ケフカの部屋だけはぼんやりと明かりを放ち、
闇夜に浮き上がって見える。
セリスはケフカの他人行儀な振る舞いを思い出した。
(近づくなと言われたのに。無視をされたのに。)
(でも…。)
そう、暗い気持ちに沈みそうになった時、
「セリス将軍。」
不意に背後から誰かに呼ばれた。
セリスの配下の者だった。
近づいてくる気配に気づけなかったと感じ、セリスは表情に若干焦りの色を滲ませてしまう。
(他人には見せられない顔をしていた。)
セリスは瞬間的に思った。
セリスはゆっくりと兵士の方へと振り返って、
「どうしました。」と答えた。
兵士が話しを始めた。
「…何か、聞きたいことがあるのですか?」
セリスは動揺を抑えながら応じる。
応じながら、
(夜明け前で良かった。)と感じていた。
動揺が悟られては示しがつかない。
会話は何事もなく終わり、配下の者は去って行った。
セリスは部屋に見える影に後ろ髪をひかれる思いで、歩を進める。
セリスは自分がケフカの事が気になっているのだと改めて自覚する。
前方に明かりが見え、兵士たちが次々と集まっているのが見えてくる。
ざわざわと、出立直前の特有の兵士たちの熱気が伝わってくる。
(遠征の直前だというのに…。)
士気の高い彼らの様子を見て、セリスは自分がひどく自制心に掛けていると感じた。
いつの間にか現れた黄色い満月が、雲間から見え隠れする。
セリスはいつの頃からか、月に精神を乱されることが度々あった。
それは軽い物であったが、満月の夜には影響が大きい。
(心が乱れているのは満月のせいだ。)
セリスはそう思い込むことで、自分を保とうと思う。
(帝国将軍ともあろう者が。…未熟者。)
セリスは己を叱責する。
セリスは表情を引き締めて、兵士たちの中に合流した。