前線から戻り、数日が経った。
ここはベクタ。
皇帝の間。
ケフカと皇帝が対峙している。
ケフカは皇帝に尋ねた。
「皇帝。あの娘をいかがするおつもりですか。」
皇帝は白く伸びた眉の間から、じろりと目を覗かせて口を開く。
「今更なことを言うな。ケフカよ。」
「はい。」ケフカは答えた。
「お前は先の地へ、何をしに行ったのだ?」
皇帝の語気は強かった。
「…。」
無論、あの地にはティナの力を試すために赴いたのだ。
それは即ちどういうことか。
ティナを帝国の兵器として使うためである。
分かっていたことだ。
ケフカは、自分が娘の身を案じていた事に気がついた。
ケフカは負い目にも似た感情を抱き、皇帝の目を直視出来ない。
皇帝は全てを見透かしたような顔をしている。
いや、そう見えただけかもしれない。
皇帝は続けた。
「魔導の人間への転用は可能になった。娘は素材としての役割を終えたのだ。」
皇帝の発する威圧感と緊張が重く、ケフカは知らず知らずの内に手の平を握った。
「そう。素材として用済みだ。ならば、この娘も始末するか?サマサの連中の様に。」
皇帝は薄く笑って言った。
ケフカの体がギクリと反応した。
悪夢のような光景がフラッシュバックする。
数年前、サマサの魔導士たちは帝国の魔導の研究のために、ベクタに連れてこられていた。
一通りの実験が終わり、成果は得られた。
ケフカたちは彼らの拘束を解いた。
その時だった、彼らは一斉に暴れだした。
帝国の研究所内で蜂起したのだ。
サマサの誇り高き魔導士たちは帝国に力を貸すことを良しとしなかった。
人知れず研究成果の破壊とシドの殺害、幻獣の解放を企てていた。
彼らは常人には無い力を持っていたが、数で上回る我々に適うはずは無かった。
魔導研究所の長であるシドは、あっという間に屈強な兵たちに守られ、難を逃れた。
重要な機材や幻獣の檻も一瞬にして守られ、サマサの魔導士たちはそれらに近づくことすら出来ずに、
次々と息絶えた。
全てが終わり所内には鉄の様な匂いが立ち込める。
赤い、赤い光景。
我々は守るべきものを守った。
それなのに、剣を抜く音、怒号、悲鳴、憎しみに満ちた目がいつまでもケフカを捕えて離さないでいた。