午後。魔導研究所シド博士の研究室。
セリスとシドが談笑している。
「セリス。遠征で、迷子になったそうじゃないか。」
茶を飲みながらシドは笑った。
セリスは幼い頃に孤児院からここ魔導研究所に引き取られた。
以来、シドがセリスの面倒を見、二人は家族のような関係を築いている。
「はぐれたのよ。霧がすごく濃くて見えなかったから。」
セリスはからかわれるのが嫌で、弁解した。
「そうか、そうか。」
セリスのむくれた様子を微笑ましく思い、シドは笑っていた。
「笑わないでよ。もう。」
セリスはそう言って、残りのお茶を飲み干した。
「どうやって、帰ってこれたんだ。」
笑みを浮かべながら、シドが聞いた。
「ケフカが…ケフカが来てくれて助けてくれたの。」
セリスは笑顔で答える。
「ケフカが?」
シドは驚いた様子だった。
「モンスターに囲まれてしまって、もう駄目だと思った時に助けに来てくれたの。」
セリスはケフカの様子を思い出していた。
「私の魔法より何倍も強くて驚いたわ。私は攻撃魔法も回復魔法も使えるけど、どちらもそれほど得意というわけでは無いから。」
セリスは言った。
シドはそうか、とだけ言った。
「ブリザラ…。私にもあんな力があれば良かったのに。ケフカは元の幻獣に由来すると言ってたわ。」
「幻獣?」
シドの声が幾分低かった気がしたが、セリスは続けた。
セリスは、第一線で活躍するケフカと行動を共にしたことで、気分が高揚していた。
そして、自らが使う魔法の仕組みが少し分かった気がして、嬉しいとも感じていた。
「魔導の注入はやり直すことは出来ないのかしら。そうすればもしかしたら…。」
セリスは呟いた。
セリスは自分の力がモンスターにまだまだ通用しないと実感し、力が欲しいと感じていた。
ガタン。
セリスが呟くと、大きな物音がした。
セリスは驚いて、シドに目を向ける。
シドが不意に立ち上がったのだ。
「軽々しく、言うでない。」
シドの表情には怒りが滲んでいた。
「え。」
セリスは何がシドの機嫌を損ねたのか分からず、困惑する。
「安易に、力を求めてはならん。」
シドはセリスに言い含めるように言った。
「…。」
セリスは、ふくれっ面をした。
軍人が力を求めて何が悪いのだろう。
強ければ、国を守れる。
自分の身を守れるし、迷惑もかけなくて済むのに。
そう思った。
むくれた様子のセリスに向けて、シドは雰囲気を変えるかのように明るい声で言った。
「セリスは、まずは、どうすれば迷子にならないかを考えないとな。」
「迷子じゃないわ…!」
セリスは、言い返した。