セリスが研究室から去って、シドは一人考え込んでいた。
セリスと話していた時、セリスはケフカに師事したいのだろうと感じていた。
(しかし・・・そういう訳にはいかん。)
シドはケフカと話をするべきだと考え、何ヶ月かぶりに軍の施設に足を踏み入れた。
帝国軍施設。
「博士?」
少し驚いた顔をして、ケフカが出迎えた。
「こちらまでいらっしゃるなんて珍しいですね。」
ケフカは言った。
通常、軍の者がシドの元を尋ねることはあっても、シド自らが赴くことは殆ど無い。
「ああ、礼を言いたいと思ってな。この間セリスを助けてくれたそうだな。」
シドは言った。
その要件に、ケフカは少し意外そうな表情をする。
そして「たまたまです。」と答えた。
「そうか。とにかく、ありがとう。セリスが騒いで煩かったよ。」
シドはその時のセリスの様子を思い出しながら話し始めた。
「モンスターに囲まれて絶対絶命の時に助けにきてくれた。すごい魔法だったと。」
あの時、セリスは嬉しそうな顔をしていた。
「そういえば、また腕を上げたのか。」
シドは尋ねた。
セリスが見たことも無い強力な魔法を、ケフカが使っていたと言っていた。
シドとケフカの付き合いは長い。
しかし、ケフカが魔法を習得した直後は、シドがその状況を見守っていたが、
現在はそういうことはなかった。
「直接会ったのが久しぶりだったので、ブリザラを初めて見たんでしょう。
今朝来て礼を言われましたよ。もっとも魔法や幻獣に興味があるようだったので、
それを聞きに来たのかもしれないですが。」
ケフカは答えた。
シドは少し顔を曇らせた。
「…そうか。そうなのだ。今のところ、セリスに幻獣や実験に関することは教えたくなくてな。
今度聞かれても、上手くはぐらかしてもらいたいんだよ。」
シドは言った。
「そうでしたか。余計な事を言ってしまいましたね。」
ケフカは少し申し訳なさそうな顔をした。
「まあ、気にしなくて良い。セリスはまだ半人前だ。君から魔法を習いたいと言っても、
退けて欲しい。魔法の他に修めるべきことが山積みだろうからな。」
シドは言った。
「そうですね。分かりました。」
ケフカは答える。
「ああ、あと。」
シドはケフカの顔を見る。
「なんです?」
「いや、何でもない。」
言いかけて、シドは口をつぐんだ。
ケフカは少し不審そうな表情をしたが、その後二人は少し話して別れた。
シドは眉間に皺を寄せながら、研究室への道のりを歩いていた。
先ほど、ケフカに言いかけたことは、彼の身に魔導の副作用が起きていないかということだった。
魔導注入が成功した例として、多くの者にケフカは知られているが、それは事実とは異なる。
シドは科学者として確信していた。
(多くの結果が示すとおり、いつか必ず破綻が訪れるだろう。)
ケフカと同時期に実験を受けた者は、皆何らかの致命的な障害を患い、床に伏していたことをシドは把握している。
例外はありえない。
それは極秘の事実であった。
(あの魔導注入実験は成功していなかった。本当に偶然、彼は生き長らえているだけだ。)
だからシドは、ケフカを、セリスに近づけたくないと思っていた。