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ケフカについて書きます。二次創作あり(文章) 小話「数年前121~123」更新しました。(2015年8月9日)
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ケフカが「少し歩くが良いか。」と言って数分経った。
ここはベクタの大通りから一本逸れた通り。
空は濃い群青色になっていて、明るくは無い。
夕食には少し遅い時間。人通りは少ない。

ケフカは口数が少ないような気がした。

やはり、帰ってきて早々に訪ねるのは非常識だったかもしれない。
私は少し後悔していた。
ケフカは口を開いた。
「…つき合わせて悪いな。」
「いえ、そんなことは。」
思ってもいないことを言われ、私は慌てて答えた。
「店はどの辺にあるのですか?」
「そこを入った所さ。」ケフカは言った。
「この辺は良く?私は初めて来ました。」
「ああ。この辺りは知り合いも来ないから落ち着くんだ。」
ケフカは言った。

[外で誰かと食事をするのは久しぶりだ。]
ケフカは独り言のように呟き、思い出そうとしていた。

通りは城内とは違って閉塞感が無い。
ケフカの言うとおり軍の関係者は一人も見なかった。
雑踏に紛れているのが心地良い。

 

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「あいてる席へどうぞ。」
店内に入ると、店の人はニコリと会釈をした。
「お久しぶりですね。」
「ええ、出張に行っていたものですから。」
ケフカは答えた。
「そうでしたか。ゆっくりしていって下さい。」
暖かい雰囲気だ。

私たちは席に座わった。
「出張、ですか?」
私は「出張」という言葉に違和感を抱いて聞いた。
「ああ、その方が街に馴染む気がして使ってるんだ。軍人を嫌いな人も多いから。」
ケフカは答える。
「そういうことですか。」
「実際、ここの店主は戦争で身内を亡くしている。」
ケフカはそう言って、出された氷水を飲み、ふぅと一息付いた。
私は少し考えさせられた。
(国を守る軍人を良く思わない人がいるんだ。)
にわかに信じられなかった。

「仕事は慣れたか?」
「…はい。」
不意にケフカに聞かれ、私は少し言いよどんだ。
将軍になってから数ヶ月が経っていた。
私は遠征も何度か任されるようになっていたが。
「なんだ、自信無さげだな。」
言いよどんだ私の態度に、ケフカは不思議そうな顔をしている。
「…マランダは、あなたがいなければ危なかったと思います。」
私は言った。

 


マランダの戦場。
折れた剣と迫る敵の刃。
目の前で消えていく命。
私もこうなるんだろうか。
隊の兵たちを治療しながら思っていた。
ベクタに戻りしばらく経つのに、今だに思い出してしまう。
(死ぬかもしれない)
戦場で真に実感したのは初めてだった。
軍人はいつ命が果てるか分からない。
それは当たり前のことなのに、私は死なないと思っていた?

氷がカランと音を立てて崩れた。
そして気付く。
私は沈黙していた。
何かを言おうとしていたはずなのに、言葉が途切れていた。

ケフカは静かに私の言葉を待っていた。

店の人がテーブルの横に立つ。
「飲み物をお持ちしました。」
グラスが私たちの前に置かれ、ケフカは軽く会釈した。

「慣れたと思っていました。」
飲み物に口も付けずに続けた。
「魔法や魔封剣の生かし方も、掴んできましたし、指揮も。」
そこまで言って、また言葉に詰まってしまう。

問題ないはず。
問題ないはずなのに、何故か言葉が出ない。

「また、行きたいと思うか。」
「戦場に。」ケフカは言った。
「また…?」
また戦場に立つ?
以前なら迷わず行きたいと答えられるはずなのに。
即答出来ない。
どうして「行きたいです」の一言が言えない?

 

私が戸惑っていると、ケフカは口を開いた。
「怖かった、で良いんじゃないか。」
「えっ。」
(怖かった?)その言葉に私は思考が停止した。

「顔を見て分かったさ。テントの奥で、お前は死線を彷徨った人間の顔をしていた。」
ケフカは言った。
「死線を…彷徨った?」
私は反芻することで精一杯だった。
(怖かったなんて。子供みたいな。)
私が内心動揺していると、ケフカは言った。
「命が危険に晒されて恐怖しない者などいない。それを認められたら、楽になるんじゃないか?」

ケフカの言葉に私は気付いた。
私は無意識に「恐怖」を抱かないように、感情を抑えこもうとしていたかもしれない。

「お前は一人じゃない。危なければ、呼べば良い。」
「それとも、持ちこたえられない程ヤワなのか?」
ケフカは言った。
「ヤワじゃないわ。」私は言葉に反論してしまう。
「冗談さ。セリス将軍。」
ケフカは少し笑った。
「ようやく、いつもの勢いが出てきたな。」
そう言われて私は多分顔が赤くなったと思う。
でも(一人じゃない。)その言葉に安心感を与えられたことは確かだった。
「とりあえず、帰ってこれたことに。」
ケフカはそう言って、グラスを持って傾けた。
「はい。」
私も同じようにグラスを傾ける。
「お疲れ。」
「お疲れ様でした。」
私たちは杯を鳴らして、飲み物を味わった。

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食事が運ばれて、口にする。
「来週の演習に参加することになったんです。」
セリスは言った。
来週の演習と聞いて、私は何かを思い出した。
「30日からのか…そこは、確か」
言いかけると
「あっそれ以上は」セリスは少し慌てて止めようとする。
が、もう遅い。
「ああ、迷子になった所か。」
私が言うと、セリスは、しまったという表情をした。
「その話はよして。あの時は、まだ、慣れていなかったのよ。」
セリスは弁解したが。
「「今は」大丈夫、か?」
からかいたくなる。
「私は今将軍を勤めているの。あれから迷ったことは無いわ。」
そう言ってセリスは胸を張った。
「ふうん。」
その姿がおかしくて、思わず吹いてしまった。
「もう、どうして笑うの?」
セリスはむくれた。
「ケフカといると、いつも手のひらで遊ばれているような気がしてくる。」
セリスは言った。
「湿原で助けてくれたあの時から、マランダでも…。繰り返しているわ。」

私は、部屋でセリスが不意にもらした一言を思い出していた。
「…だから「いつも助けられてる」と?」
私が聞くと、セリスは頷いた。
「そういっても、後輩を助けるのが俺の仕事なんだが。」
「違うの。そういうことじゃないわ。」
セリスは首を振った。
「じゃあどういうことなんだ。」
「…ケフカ?」
「何だ。」
「笑わないで、聞いてくれる?」
「ああ。」
「あの、」
「あの?」
「あの、私のことを、子供扱いしないで欲しいの。」
「え。」
私はセリスの言葉に驚いた。
 


セリスは俯きながら、続けた。
「ケフカから見たら、まだまだなんだろうなと思うけど、」
「私だって、たぶん、きっと…」
しかし、声は段々小さくなり、聞き取れなくなっていく。
それはやがて萎んでしまった。
(笑わないで聞けと言っておきながら…)
私は心中で呟いて、苦笑した。
それを察したのか、セリスは「今、笑った?」と聞いたが、私は「笑ってない。」と答えた。
セリスは顔を真っ赤にしていた。
子ども扱いしないで欲しいと言ったセリスが、何よりも子供っぽい。
それに気付いているのか、いないのか。
「からかわれるのが嫌か。」
「…うん。」セリスは頷く。
「そうか。」
私は呟いて、次の言葉を待った。
それからセリスはぎこちなく話し始めた。
「なんだか、からかわれると、いつまで経っても成長してないって言われてるみたい。私自身が、変わっていないんじゃないかって、思えてくるの。」
話し終えると、セリスは黙ってしまった。
私にはセリスの一言一言が新鮮だった。
「初めて聞いた。」
思わず声に出す。
そんな風に思っていたのか、と意外だった。

「変わっていない、か。」
私は呟いた。
「もし変わっていないなら、昔のセリスでも、今の様に魔封剣で救うことが出来たってことになる。」
そう言うと、セリスは表情を少し変えた。
考えたことも無かったのかもしれない。
 


「俺はセリスがいて良かったと思ってるんだが。」
「本当に?」
私は言ったがセリスは、まだ疑わしそうにしている。
「ああ。自分が何人救えたか、考えたことはあるか?」
セリスは聞いていた。

「それに、俺は戻ってから色々あって、疲れていた。治療もしてくれたし、来てくれて慰められたさ。」
嘘ではなかった。
セリスは顔を赤くしていた。
「…もう、からかいませんか?」
「しかし、子供扱いするなと言われても、相応にしてくれないと扱えないんだが。」
セリスが言ったので、答える。
今のままでは、セリスが望むように振舞うのは無理だ。
「…分かったわ。」
セリスは言った。
「相応にしていたら、子供扱いはしないのね。」
「ああ。」
私は答えた。

セリスは「私の分は私が払う」と言い、自分の支払いを済ませた後、先に店を出た。
「かわいらしい方ですね。」
店主に声を掛けられる。
「ええ。」私は答えた。
外を見るとセリスがガラス越しに待っている。
「でも、今それを言ったらたぶん怒るでしょう。」
「そうですか。」
私が言うと、店主は苦笑した。
 


帰り道。
「意外だった。セリスがあんな風に考えていたとは、気付かなかった。」
私が言うと、セリスは答える。
「ずっと、思っていたわ。ずっと追いつきたいって思っていたし。ひょっとして足手まといなんじゃないかな、って感じてたから。」
「話せて良かった。」
セリスは言った。
「でも、きっと、またケフカが助けに来てくれたらほっとしてしまうんだろうな。」
セリスは呟いた。
「助けられるのも後輩の役割さ。だから大人しくほっとしてたら良い。」
「そうかも。」
私が言うと、セリスは笑った。


私たちは門の前で、別れた。
「じゃあ、また。」
「ええ、おやすみなさい。」
逆光で顔は見えなかったが、きっとセリスは微笑んでいただろうと思った。

部屋に戻り、一息つく。
窓の外には満月。
(セリスがいて良かった。)
その言葉は見繕った訳でもなく、嘘ではなかった。
助けられているのは、私の方だ。
今日、独りでいたらどうにかなっていたかもしれない。
それほどに、支えを失い、所在の無い思いをしていたのは事実だった。
月明かりが柔らかく、セリスを想う。
その表情や仕草、声。

今日は悪夢に見舞われることなく、眠れるかもしれないと思った。
 


朝は穏やかに訪れた。
起き上がると前髪が少し目に入った。
そろそろ髪を切らなければと思った。

午前には軍議がある。
マランダの制圧が議題となるだろう。

議場。出席者は多い。
皇帝を始め、重鎮が顔を連ねた。
現在駐留している将軍が報告を伝えるために、席から立ち上がる。
「現在、マランダ軍の残党が時折姿を見せておりますが……」
将軍の声は幾分上ずっている。
その目線の先には不機嫌そうな皇帝が座していた。
皇帝は発言の途中で不意に咳払いをした。
その様子は威圧的であったが、将軍は話を続ける。
「…我が軍は敵を着実に追い詰めており、犠牲者も減りつつあります。今後も」
「待て。」
話の途中で皇帝が口を挟み、将軍はびくりと身を震わせた。
「まだ、犠牲者が出ているのか。」
「は。」
「残党の件は当の昔に解決していると思っていたが。」
皇帝は言った。
「あの…」
「いつまでかかっている。」
「あの、敵は神出鬼没でありまして、犠牲者を0にすることは難しいと思われます。しかしながら犠牲は最小に抑えられていると考えておりますが…」
「未だに死者が出ているのは、貴様が無能だからであろう。主の報告は数度聞いたが、進展しておらぬ。」
皇帝が発言に怒気を含ませたため、室内に緊張感が広がる。
「もうよい。レオ将軍。」
「はっ。」
皇帝に呼ばれた将軍は返答した。
「お前がマランダへ参れ。」
皇帝は言い渡した。
レオ将軍は一瞬驚いた表情をしたが、御意と答えた。
レオ将軍は軍でもまだ若輩の方であったが、堅実で犠牲の少ない戦術を用い、且つ任務を成功させている。
その為、他の者からも一目置かれていた。
「一人の犠牲者も出すでない。」
皇帝は言った。

 


軍議を終え、立ち去ろうとしたところに声をかけられた。
「あの。」
「マランダの状況についてお聞きしたいのですが。時間、宜しいですか。」
声の主はレオ将軍だった。
「いいさ。」
「よろしくお願いします。マランダですが…」
レオの聞く事に私は答えた。

「そういえば、仕事の話をするのは初めてですね。」
不明な点が無くなったからか、レオは話し始めた。
「そうだな。」
確かに、互い軍に属して久しいが、遠征などの行動を共にしたことは無かった。
これまで言葉を交わしたのは、数度に過ぎない。
「先の大戦窺いました。鬼神の如き働きをされたと。」
レオは言った。
「…。セリスが良い指揮して、全員が死力を尽くした。それだけのこと。」
それが事実だった。
「…。」レオはやや微笑んだ。

白衣の者が歩み寄り、私に伝えた。
「ケフカ様、シド博士がお呼びです。実験棟でお待ちしているとのことです。」
「分かった。」
「実験棟?魔導、研究所、ですか。」
レオの様子にはやや違和感があった。
「ああ。興味が?」
「昔、魔導戦士適正テストを受けたことがあったので。」
私が聞くと、レオは答えた。
「知らなかったな。君の様なタイプが魔導戦士とは。」
意外だと思った。
「ええ、当時、魔導戦士は憧れの的でしたから。」
レオは答えた。
 


「結果は不適応でしたが。」
レオは自嘲気味に笑った。
「どうやら、血筋の問題らしくて、力を受け入れられなかったんです。」
「そうだったのか。」
「その時は悔しかったですよ。本当の事を言えば羨ましかった。」
レオはそう言って目を伏せた。
「…。今でも、魔法の力が欲しいと思うのか?」
レオは少し考えた様子で、やがて首を振った。
「…いいえ。あの時は確かに悔しかったですが、魔導戦士になれなかった事が今思えば転機だったんです。」
レオは言った。
「苦労しているんだな。」
以前は魔導戦士と他では、昇進に明らかな差が設けられていた。
魔法を使える者を増やし、魔導帝国を築くために、ガストラ皇帝が敷いた施策であった。
「…必死ではありました。が、自分にはむしろそれで良かったのだと思っています。」
レオは答えた。

会話の途中、白衣の男が再びやって来て言った。
「あの、ケフカ様。博士が…。」
「すまない。すぐ行く。」
「マランダの戦い、お目に掛かりたかったです。」
私が白衣に応えると、レオは言った。
「今度、同じ戦場に立つことがあるかもしれない。」
「ええ。よろしくお願いします。また、相談させて下さい。」
「分かった。」

レオは有能な人物だ。
魔導の力無しに、若い時分に将軍になることは難しかったはずである。
苦労は並大抵の事では無かっただろう。
「むしろ、それで良かった、か。」私は人知れず呟いていた。

私にとって、魔導の力を得た事は、良かったのか、それとも悪かったのか。
答えを見つけることが出来ないでいる。

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研究所に向かう途中だった。
声がした。
耳元の近くで。
低い声だった。
その距離が余りに近かった。
後ろを振り返る。

だが、そんな至近距離に誰かがいるはずはない。

立ち止まった事に気付いた白衣は訝しげな顔をしてこちらを向いた。

この男の筈が無いと分かっていながら、問う。
「呼んだか?」
「いえ。」当然白衣はそう言って首を振った。

研究所へと続く長い通路。
我々の他には誰もいない。

「そうか。」
口だけが動いて納得したことを現す。
「ケフカ様?」
白衣は私を見て言った。
「何だ。」
「顔色が良ろしくないようですが。」
「…空耳を聞いたらしい。」
そう答えた。
「空耳?」
「どうやら、まだマランダにいる気でいたようだ。」
「マランダですか?」
「ああ、あそこでは昼夜騒音が絶えなかった。いい加減ベクタに帰ってきたと自覚しなくては。」
私は苦笑いをした。
顔の末端から血の気が引いているのを感じていた。
「…博士をお待たせしている。行こう。」
「はい。」
白衣は答えた。

 

実験棟。
研究所の主、シドは計器の前に立ち、表情を曇らせている。
手にはペンとボードが握られていたが、それらが動く気配は無かった。
「博士、お待たせしました。」
扉が開いて、ケフカが姿を覗かせる。
「ああ、忙しいところ呼びたててすまなかった。」
シドは顔を上げて答えた。
「何か用ですか?」
呼び立てに心当たりも無かったケフカは問う。
「そうティナ、のことで相談に乗ってもらいたくて呼んだのだ。」
「ティナ?」
ケフカは怪訝な顔をした。
「聞いているだろう?最近、状況が良くないのだ。」
「そのようですね。」
シドの言葉にケフカは答える。
「ああ。何度か遠征に参加させているが、成果を挙げられていない。このままではいかんと思い、君を呼んだ。」
「しかし、私は任を解かれて大分日が経っていますが?」
「マランダで会ったのだろう。」
シドは知っていた。
「会ったと言ってもほんの少しです。それで良ければ伝えますが。」
ケフカは釈然としない表情をして口を開いた。
大した情報も無いと思っていた。
「いいんだ。」
ケフカの様子を気にも留めず、シドは話を進める。
「君の目から見て、ティナはどうだった?」
「確かに以前と違いました。」
ケフカは話し始めた。
終始、兵の背後に隠れ、脅えていた。
以前は嫌々ながらも命じられれば出来た魔法の使用も、今は出来ないようだ。
かいつまんでそのように伝えると
「そうか。少なくとも君には懐いているように見えたのに。」
シドは呟いた。
「懐いてはいませんよ。マランダでは、怖い。と言われましたから。」
「怖い?」
シドは不思議そうな顔をする。
「ええ、ティナが私を見て脅えていたので、最後までまともに話すことは出来ませんでした。」
ケフカは答えた。


「何故ティナが君を怖がる?」
ティナが怯える理由が思い当たらなかったので、シドは聞いた。
「その時は、マランダの人間を1人殺した直後だったので、殺気立っていたのもしれません。血も流れていたので。」
殺した、という言葉にぴくりとシドは反応し、
「ふむ。」と唸った。
「…ティナは感受性が強いからな。」
そう言ったシドは、既に落ち着いた研究者の顔をしていた。

「ケフカよ。また、断られるかもしれないが。」
シドは話を切り出した。
「博士…」
ケフカは困惑の表情をした。
「君は魔法の性質を非常に良く理解している。魔法の開発に協力してくれたら、進むと思っているのだが?どうだ。考えてはみないか?」
シドは言った。
「…せっかくですが、博士。その話は。」
ケフカは首を振った。
「自分は博士が思っているほど魔法に詳しくはありません。新しい物を開発されたら、また呼んで下さい。」
「駄目か。」
やんわりと拒絶され、シドは残念そうな顔をした。

「そういえば…。」
シドは不意に口を開く。
「あれから10年以上、か。」
「そうですね。」
シドの言葉にケフカはやや目線を落として答える。
「はやい物だ。私も年を取るはずだ。」
シドは穏やかに呟き、苦笑した。
「君は、最近調子はどうだ。」そして問う。
その質問に
「変わりはありませんね。」とケフカは答えた。
「そうか。」
シドは呟く。
「あの時、一緒だった者は、もうベクタにはいないな。」
「そうですね。」
「何かがあったら、言いなさい。」
「ええ。」
シドの言葉にケフカはぽつりと答えた。

------------------------------------
 


「ねえ、遊ぼう。」
無音の中に声が聞こえる。

眠りについたはずだが。

そう思った。

「遊ぼうよ。」
近くなのに、遠くから、子供の声が。

「遊ぼう。約束だよ。」
今度は耳元で。

(約束?)何のことだ。

「約束、忘れたの?」

そうだ、約束をしていた。
約束なのに。
動くことが出来ない。
身体も意識も、今は、重い。

約束は守れない。

こつ、こつと人の足音がする。

「さあさあ。」促すような大人の男の声。

「起こしてはいけない。帰ろう。」
聞き覚えのある声。

「寝ているの?」
「そうだ。」
聞き覚えのある声たちは言った。

「遊んでくれないの?」

「ああ、無理だね。」

「ほらおいて行くよ。」

2人はどこかへ去ったようで、辺りはまた静まり返る。

ああ、またあの夢を見ている。

 


「私、魔導戦士になったわ。」
目の前のセリスが言った。

(何だと)夢の中の私はセリスに返答する。

「実験は成功した。」横からシド博士が言った。

(セリスに、力を与えたのですか?)私は責めるつもりで問うのだ。

「そうだ。」シドは頷いた

「これで、一緒だね。」セリスは微笑んだ

「成長期の子供で試したかったのだ。」シドはペンを噛みながら

「博士が作った技術だから」セリスはとても真っ直ぐに

「セリスにせがまれたのだ。仕方あるまい。」シドはバツの悪そうな顔をして

「怖くない。」セリスは明確に言った。

(シドを信じるなんて。)

息苦しさを感じる。

あの時、抱いていたのは憎しみであることを思い出した。


今度は、白い部屋にいた

また繰り返す。

キャア

ウワァー

叫び声が合図。

鳴り続ける心臓

気が付いたら、赤かった

壁、天井、服、手、

全てが赤い

キャア

また叫び声

声の方を振り向く

叫び声の主がいない。

いるのは、少女が一人

近づいて、
(君は?)声を掛ける

「遊ぼう。」

少女は言った。

真っ赤になった手を、少女が小さい手で取る

感触を認識する間もなく、人ならぬ力で引っ張られる

驚いて、少女を見る

悪魔的な表情をしていた

見開かれた目だ

知ってはいけない事を衝きつけられそうで、戦慄する。

(どうして、そんな目で、見る?)


ガバりと起き上がった。
心臓が鳴り止まず、汗が伝う。

へばり付いていた意識が徐々に覚醒してくる。
部屋にいる。
ここはあの夢ではない。
その現実を受け入れようとする。

髪をかき上げる。

まただ。

何度も見ているはずなのに、いつも、恐怖し目が覚める。
慣れることの無い悪夢。

髪をかき上げた手が、かすかに震えたが、何も考えたくなかった。

外は暗く、夜明けはまだ遠い。
しかし、再び眠る気にはなれない。


外へ。
何故かそう思って、立ち上がる。上着を着て、気が向くままにドアへと歩く。
真夜中もとうに過ぎている。
廊下に出ても、人がいるはずはなかった。
静かに出口を開ける。冷気が室内に入ってくる。
深夜に雨が降った様で、地面は湿っていた。

門を出て、どこに行こうかと迷った時、
私は研究所を選択していた。

-------------


月の前を雨雲が早い流れで通り過ぎる。
空気は冷ややかだったが、寒くは無かった。

研究所を取り囲む高い塀があり、沿って歩く。
この道沿いを歩くことは久しくなかった。

遠い昔、魔導研究所で何ヶ月か過ごしたことがあった。
通りはあの頃と変わらない光景だったが、這う蔦の量が時の流れを物語っている。

研究所の門前。
鉄の扉の前に立つと、初めて訪れた時の事が蘇った。
緊張感と高揚。仲間いう心強さと、帝国軍の一員として務めることへの使命感。

懐かしい。そう思い、戯れに門を押した。
意外なことに、それはあっけなく開く。

鍵がかかっていないはずはなかったが、大して気にも留めず、
それよりも仲間とよく話した木が目に入って、門を開き、潜ってそちらへ向かう。
あの頃は楽しかった。
だんだん懐かしい場所が近づいて、彼らの顔を思い出す。
木に触れると、彼らの声を思い出した。
気付くと、木の陰に小さな階段があり、いつも使っていた出入り口があった。
何故か忘れていた、古ぼけた扉。
ああ、あったな、と思い歩を進めた。

メッキの剥がれたノブに手をかけ、それを回す。
やはり扉は開いた。

室内から温い空気が漏れて顔を覆う。
暗がりに懐かしい光景が広がる。
目の前に若いシド博士が見えた。
 


ドン、と衝撃を感じて足元に目をやる。
「?」
金髪に青いリボン。
セリスだった。
大きな目をきょとんとさせ驚いている。
「こら、セリス。動き回るんじゃない。」
博士は大きな声で叱りつけ、そしてこちらを向いて言った。
「君か。いつも悪いな。この間は子守までさせてしまった。」
「かまいません。ここに置きますよ。」
「ああ、頼む。あとは…」

私は研究所の機器の移設の手伝いに来ていた。
私は博士による講演に何度か出席していて、ある日顔を覚えられていたのか、声を掛けられたことがきっかけだった。
魔導研究所は創設から何度目かの増設の最中だった。

博士は額に浮かんだ汗を拭った。
「全く、目が回るようだ。これほど設備も人出も足りないとは。」
「大丈夫ですか?博士。」私は声をかけた。
「いや、嬉しい悲鳴だと言わねばなるまい。陛下が協力して下さっているということは、それだけ私の研究に価値があるということなのだから。」
博士は誇らしそうに言った。
「古来より魔法は人類が欲して止まない力だった。大きな声では言えぬが、今は軍事目的で使用されるだろう。
しかし、帝国が世界を治めれば、やがて軍事的要素は薄れる。
私の目的は本来、魔導の真理を解明することにある。私はそれを追及したいのだ。」
博士が熱っぽく語るとノックの音がした。
コンコン
「ああ、人手が来たな。」
博士はそう言って、出迎えに行った。
ノックの主は、私と同じように講演に顔を出していた者か、博士の助手になりたい者たちだろう。
私たちは増設の度に手伝いに集まり、お互い親しくなっていた。
 


数時間経って作業がひと段落し、博士は飲み物を振舞った。休憩中でも話題は魔導研究で持ちきりだった。
「まさかあの魔導研究所に入れるとは思わなかった。」
「そうだな。極秘施設なのに中を見せてもらえるなんて。」
そんな中、博士は皆に手招きをした。
「実験室を見せてやろう。来たまえ。」
博士の申し出に、私たちは一瞬戸惑った。
帝国の第一級の機密である。畏れ多かった。
「いえそれは…。」
「構わない。既に完成しているからもう周知の物になる。」誰かが遠慮を口にするが、博士は言った。
博士の類に無い申し出に、断る理由もなく、我々は博士について行った。
実験室の扉を博士が開き、ギイと重い音が立つ。
目の前に広がる光景は、異質だった。
今までに見たことの無い、不可思議な形をした機械設備と、無数の動物。
「うわ…」皆が感嘆の声を漏らした。
「私の実験にはこれくらいの設備と実験体が必要だ。」博士は言った。

入り口にほど近いところに、やや大きい鳥が一羽籠に入れられていた。
「博士、これも実験体ですか?」
「よく聞いてくれた。私はフェニックスと呼んでいるが、これは良いぞ。」
そう言って博士は机の陰から木の棒を取り出した。
「下がりなさい。危ないぞ。」博士はニヤリと笑い、そして檻を叩いた。
我々は驚いて、後ずさる。
鳥は当然暴れだし、ぎゃあぎゃあと激しく鳴いた。
そして大きく口を開いたかと思うと、ゴウと炎を吐いた。
「!!」
突然のことに、皆、驚愕し声が出なかった。
髪の毛が焼けた者もいるのか、やや焦げた匂いがした。
「博士!これは…」
「驚いたか?モンスターではないぞ。そこらのただの鳥を捕まえて、魔法を授けたのだ。」
「すごい…」我々は驚嘆していた。
「ふふ、どうだ。これが魔導の力だ。実験は成功を積み重ねている。この上も無く理想的にな。」
そう言って博士は笑った。
-------------

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