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ケフカについて書きます。二次創作あり(文章) 小話「数年前121~123」更新しました。(2015年8月9日)
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「来い!」
セリスは気丈に相手を挑発する。
あっという間に数人の敵が背後に回った。
セリスは舌打ちをする。
我々の兵が減っている。
ブリザドを唱え、背後の敵を突き刺すと、血が降りかかる。
セリスはその飛沫が目に入らぬようにした。
一人倒してもまたすぐに次が来る。
「かかれ!」
セリスは号令をかけ、自らもとっさに敵の攻撃を剣で受ける。
それを何度か繰り返すと剣が折れた。
「くっ。」
もう一本の剣を抜き、応戦する。
一つ一つの攻撃が酷く重く感じられる。
「将軍!こちらへ!」
敵の猛攻をほんの少ししのいだ隙を見て、セリスは前線から退く。
次第にセリスも隊も疲弊していった。

辺りが暗くなり、次第に皆の動きは緩やかになっていった。
完全に辺りは闇となり、停戦する。
日没を迎えた頃にはセリスの声は枯れ、疲れ果てていた。
セリスらは隊の陣地に戻る。
戦死者も出ていて、怪我人は多数いた。
テントを開けると、呻き声が響いていて、手当てを待つ者とする者でごった返していた。
セリスも治療に加わる。
次々に怪我人が運ばれ、その様はまさに惨状。
戦力は大きく削がれている。
不利な状況だと思った。

ようやく、手当てのめどが付く。
「援軍を。」セリスは伝達を依頼して、奥に下がった。

我々は防具に関しては劣っているかもしれない。
ならば、兵力を補充して押すまで。
セリスは、自分を奮い立たせた。

つかの間の時間、一人になる。
暗闇が救いだった。

もし日の長い季節だったら、負けていた。

(明日は勝てないかもしれない。)
奮い立たせた気持ちが、すぐに不安に変わりそうになる。
酷く一日が長い。

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援軍を待つ間、テントの奥でセリスは明日どうすれば勝てるのか、考えを巡らせていた。
が、良い案は浮かばない。
時刻は既に日付を跨ぎ、眠気こそ無いが、全身は疲労感に襲われていた。
「セリス将軍。ケフカ様が。」
ケフカと聞いて、セリスは立ち上がった。
ケフカの隊は既に勝利を収めている。援軍を連れてきたのだ。

「入るぞ。」声がして、その姿が見える。
酷く久しぶりに顔を見た気がした。
「外でも出よう。」
目が合うと、ケフカは言った。
セリスは自分が浮かない顔をしていたのかもしれない、と思った。

夜営の為につけている火が赤く燃えていた。
見張りの兵たちが、数人見える。
セリスはケフカの後をついて行く。

「場所を貸してくれ。夜営を代わるからお前たちは休んで良い。」
ケフカは見張りの兵士に声を掛けた。

「策を立て直そう。」隣り合って座る。
「第一隊は…。」
セリスは現状の報告を始め、考えた作戦をいくつか伝えていく。
「勝てない敵ではないな。」ケフカは言った。

ひゅん、と一瞬。
夜空に流れる線が目の端に見えた。

 


流れ星だ。
大して気にも留めず話を続けるが、一筋、二筋、次々と星が流れていく。

数十年に一度訪れる、流星群の時だった。
あまりたくさん流れる星に、二人は沈黙した。
「…消そう。」
ケフカは言って、夜営の火を消した。
ケフカも流星を見ていたのだろう。
火を消したことで周囲は真っ暗になるが、天は明るかった。
星と月がはっきりと見える。
空が澄んでいる。

まるでここに降り注ぐかのように、星は流れた。

「ああ、きれいだ。」ケフカは呟いた。
「ええ。」セリスは言った。

絶え間無く流れる星。
静かだった。
日中、本当にここは戦場だったのだろうか、と思えるほどに。

あれ?と思う。
いつの間にかセリスは自分が泣いていることに気が付いた。
辛い訳ではない、嬉しいことがあったわけでもない。

セリスは自分がただ、ほっとしたんだと気が付いた。

ようやく、流れ星は止んだ。
どれくらい星を見ていたのだろう。

ケフカが再び火を点し、明かりが周囲を照らす。

ケフカはセリスの顔を見て言う。
「軍人が易々と涙を見せるな。」ハンカチを差し出してくれる。
「俺には見せても良いが。」
ケフカは言った。

「指揮は引き続き執るんだ。俺はお前の指揮のとおりに動く。」
「お前なら出来るさ。」
ケフカはセリスの目を見て言った。
強い目。

セリスは、ケフカの言葉で力が宿った気がした。

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マランダ軍は総力を結集させ、兵の数は膨れ上がっていた。
セリスとケフカは自軍を従え、それを見ていた。
セリスの手は緊張と興奮でかすかに震えた。
ケフカが口を開く。
「数が増えようと…」
「関係ない。」
思っていた言葉をセリスが言った。
思いは一緒だった。
「出撃を開始します。」
セリスはケフカを見る。
「武運を祈ります。」セリスは言った。
「ああ、指揮は頼んだ。」ケフカは答える。
そしてケフカたちは自軍を離れ、前線へ向かった。


ケフカは大抵は長として隊全体を指揮をする立場にあったが、当作戦でケフカは前線を務める。
それは前日、セリスと交わした作戦だった。
 

セリスとケフカの隊の戦いは、帝国対マランダの勝敗を決める戦いとなった。
「魔封剣!」セリスは後方で援護をしながら指揮を執る。
ケフカは相手の魔法が封じられたのを確認し、唱えた。
「ブリザラ!」
ケフカの魔法は広範囲に及ぶ。多くの敵が倒れた。

接近戦となり、武器を無くした敵が破れかぶれに、ケフカに殴りかかる。
ドスりと鈍い痛み。身体に衝撃が走る。
「っつ」一瞬呼吸が止まるが、拳程度では致命傷にはならない。
「…きかないな!」
密接した敵を振りほどき、ケフカは魔法を唱えた。
「ドレイン!」
敵の体力を奪い、自らのものにする魔法。
不意に魔法を食らった相手はぐらりとよろめいた。
対照的にケフカのダメージは、まるで無かったかのように消え去った。
(動ける。)
ケフカはにやりと笑みを浮かべ、敵を蹴り倒した。
「今だ、いけ!」
ケフカは周囲を鼓舞した。
統率する立場にはなってはいるが、戦場に立てばやはり強い。

 


作戦は成功した。
マランダ軍は撤退し、マランダが帝国領傘下となるのも時間の問題となった。
「ケフカ。」セリスはケフカを見つけて声を掛ける。
べっとりとケフカの髪の毛に付いていた。
「血がついているわ。」
「敵のだ。」そう言って拭う。
ケフカの口の端からは血が流れ、あちこちに傷や痣が出来ている。
戦闘の激しさを物語っていた。
「怪我が。」
「たいしたことない。…君は返り血が酷いな。」
「そうですね。ですが、私は無傷です。今、ケアルを。」
セリスの言葉をさえぎるように、すっと手が差し出された。
「よくやった。」ケフカは言う。
私はその手を握り返した。
「ありがとうございました。」私は言った。

この人がいなければ、この戦いは勝てなかった。
ケフカは笑顔で、私も自然と笑みが零れた。

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私は数日前からマランダ市街に入っていた。
残党の討伐が任務だった。
「ケフカよ、こういう仕事はお前に頼むに限るな。」
皇帝は命じる際、そう言った。

マランダ市街では戦にならなかったので、街は比較的落ち着いていた。
しかし、大勢の帝国軍が既に駐留を始め、物々しい雰囲気をかもし出している。
[世界で一番美しい街]
ここはかつてそう呼ばれた土地だった。
優美だったであろうその気配は、今は身を潜め、重々しい緊張感にあふれている。

街の中心部に構えた帝国軍の本拠地に、私は向かっていた。

建物に隠れていたが、何か動く影が見えた気がした。
動物にしては大きい、おそらく人だろう。
「貴様、そこで何をしている。」
私が声をかけると、影は動きを止めた。
紺色の皺くちゃになった衣服。
帝国兵ではない。
「動くな。大人しくしていれば、手荒なことはしない。」
私はゆっくりと近づいた。
「手を頭の後ろで組め。」
そう伝えたが、影は動かなかった。
「もう一度言う、手を頭の後ろで組め。従わなければ、」
言いかけた所で、人影は勢い良く立ち上がり、こちらに向かって突進してくる。
想定出来る動きだったので、落ち着いて交わす。
相手の懐から何かが落ちる。
相手がこちらを向いたので、人物の全貌が見えた。
 


十歳になるかならないか位の少年だ。
物騒な代物が地面に投げ出されていた。
「爆弾か。」
 ケフカは拾い上げ呟いた。
「こんなちゃちな物で、果たして何人殺せるか。」
 ケフカは爆弾を眺めて言う。
古典的でいかにも手製といった作りをした代物。
一方、少年は追い詰められた表情をしている。
「抵抗するんじゃない。大人を怒らせるな。」
 ケフカは言った。
しかし、子供は聞く耳を持たなかったようで、ついにナイフを取り出した。
ふう。ケフカはため息をついた。
少年はわめきながら振りまわしだす。
相手は子供だ。勝てないと分からせなければ。
咄嗟に目の前に差し出された刃を手で握る。
少年の動きが止まった。
刀身を伝って血が流れたが、気にはならない。
少年は必死にナイフを私から引き離そうとするが、わざと強く握り動かないようにする。
少年は怯えて泣きそうになっている。
ケフカは言った。
「私の名前はケフカだ。私が憎ければ他ではなく私を狙え。」
少年がびくついている隙に、ナイフを取り上げて、後頭部を撃ち気絶させた。

本部へ入ろうとしていた兵に声をかける。
「この子供を預かってくれ。事情は後で説明する。頼んだ。」
 ケフカは少年を横たえて立ち上がった。

この顔に見覚えがあった。
武器屋の息子だ。

 


その足で武器屋を訪れると、意外なことに、店内に店主はいた。
「あなたも過激派だったとは。」ケフカは言った。
「人は見かけによらないと言うでしょう。」
武器屋の店主は、口元に蓄えた髭を歪めた。
しかし、目は笑っていない。
以前顔を合わせた時には穏やかな印象だった。
「息子を預かっている。二度と会えなくなるが良いのか。」
 ケフカは尋ねた。
「かまわない。」
店主は携えていた剣をゆっくりと抜いた。

「…抜くか。」決心の変わることの無い店主を認め、ケフカも剣を抜く。
民間人が勝つことは万が一にもない。

剣が、店主の肉体を貫き、勝負は一瞬で付いた。
 ケフカが刀身を抜くと、衣服が血で侵食されていく。
人体を通り抜ける感覚がした。
店主はまもなく急激な失血で動けなくなり、跪いて倒れた。
まだ、かろうじて息がある。
「思い残すことは?」
「息子を許して欲しい。」か細い声で店主は答えた。
店主の目から徐々に光が失われていく。
「分かった。」ケフカが答えると、しばらくして店主は絶命した。
床に倒れている店主を避け横切ろうとすると、鏡台の上の写真立てが目に入った。
さっきの少年と店主、そしてその妻だろうか、女性が写っている。
写真の彼らは仲むつまじく笑っていた。
ここは彼らの家だ。
妻はどこへ行ったのだろうか。
そんなことを思う。

ケフカは写真立てを伏せ、その場を後にした。
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武器屋のドアを後ろ手に閉め、階段を下りる。
手の傷が少し痛んだ。
数段降りたところで、帝国兵が数名、市街に入るのが見えた。
その中に小柄が女性の姿。
ティナだ。
帝国兵数名に囲まれて歩いている。
以前から痩せていたが、顔色は悪くあの時よりも更に細くなったようだ。
階下に降りていく。
「ケフカ様。」帝国兵もこちらを向いて、敬礼をした。
「ご苦労。」声をかける。
「娘はどうしたんだ?」
 ケフカはティナをちらりと見るが、ティナは俯いている。
「陛下のご命令があり、掃討に参加させろと。」
皇帝の考えそうなことだ。
「そうか。」
相変わらず、皇帝は魔導の娘に執着している。
「しかし、問題がありまして。」兵は言った。
「問題?」
「この娘、最近、まともに働かないのです。ご覧ください。今も…。」
ティナは私の視線から逃れるように帝国兵の後ろに隠れようとしている。
その怯える様は、これから掃討に加わる者には見えない。
「確かに様子がおかしいな、何かあったか。」
「いえ、特には。遠征に何度か連れて行っただけです。戦場に来ると途端にこの有様で…。とても使えたものではないので困っています。」
「野良犬の掃除にくらいしか、使えません。」
帝国兵たちは訴え、呆れた表情をした。
「迷惑をかけるが、しばらくは我慢してくれ。」ケフカは兵を宥める。
ティナを見たが、相変わらず人影に隠れている。
「わざわざ市街にいらっしゃるとは、どうかされたのですか?」
兵は言った。


「反政府派を1名始末した。」
ケフカが言うと、彼らはおぉ…と声を上げた。
ケフカは続けた。
「武器屋の店主だ。子供が本部にこれを仕掛けていたのを見つけてな。店に行ったら白状した。」
「さすが、ケフカ様。」
「これは…爆弾ですか。」
「ああ、他の民家にもあるかもしれない。」
「あいつら、まだ隠れていたとは。」
「爆弾の件は我々が洗います。犬でも連れてきましょう。」
「ああ、あとは頼んだ。」


「ティナ。久しぶりだな。」
声をかけたが、ティナは俯いて、何も言わなかった。
「おい、礼をしろ。」帝国兵がいらついて言ったが、反応は無かった。
「まあ良い。」
ケフカがそう言って立ち去ろうとすると、ティナはびくりと反応して、顔を上げた。
目が合った。
緑色の目が真っ直ぐに私を見ている。
ケフカは、自分の心臓が大きく打ったのを感じた。
胸騒ぎを覚え、背筋がざわめく。
この感覚、どこかで。
そう思って、記憶を辿るよりも早く、ティナが口を開いた。
「この人…怖い。」
ティナはケフカを睨んでいた。
(怖い?私が?)
「何故だ?」ケフカは声を出していた。
「ケフカ様を忘れたのか。この間まで一緒にいたではないか。」
「いや…違う。前と違う人みたい。」
ティナはそう言いながら、後ずさる。
「おかしくなったか。」
帝国兵はティナの言動に驚いていた。
 


「…怖い。」
尚も言い続けるティナ。泣きそうな顔をしている。
「無礼な奴だ。」兵が手を振り上げた。
「止めろ。手荒な真似はするな。」
ケフカは言った。
「この娘は数人程度なら一瞬で殺す。」
「むう…そうは見えないですが…。」そう言って兵は引き下がる。
ケフカは怪我をした手を上げて言った。
「これのせいかもしれない。」
殆ど手当てをしていないので、血がまただらだらと流れだしていた。
「……怖い。」ティナはまた呟いた。
「血を見ると辛い記憶が蘇るのかもしれない。」
ケフカは言った。
「ケフカ様、怪我をされていたとは。気付きませんでした。医療班を呼びましょう。」
兵は慌てて言った。
「呼ばなくても良い。」
ケフカは兵に伝えながら気付いていた。
ティナはただケフカの顔を凝視していて、傷に見向きもしていない。
「勝手に行くさ。」
ティナが怯えて震えていたので、声を掛けるのを止め、その場を後にした。

連中に背中を向けるが、ティナの視線が突き刺さっているのを感じる。
人間を刺した感覚、傷の痛み、怯えた瞳、胸のざわめき。
何故、今、自分が焦燥に駆られなければならないのか分からず、歩を早めるしかなかった。

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-------------------
「お疲れ様でした。ケフカ様。」
「ああ。」
数日間の駐留を終え、私はベクタに戻った。
遠征もひと段落し、城内はマランダから戻ってきた兵たちでごった返している。

武器屋の息子は孤児院に預けた。
子供だったので爆弾を仕掛けた事は罪には問われない。
父親が死んだと聞いて、取り乱したそうだが、結局手配した孤児院に大人しく入ったという。
恨まれても構わなかった。
帝国軍の一員である限り、それは「よくあること」だった。
武器屋の息子には辛い思いをさせていると思うが、一方で仕方の無いことと思う。

[怖い…。]
ティナの言葉を思い出す。
他人を殺しておいて、仕方無いとは。
帝国の支配を優先し、子を持つ親を殺しながら大した感情も抱かなかった。
我ながら冷徹だと思う。
ティナはそれを見抜いて、怯えたのかもしれない。
そうケフカは思った。

部屋に戻ると手紙が何通か溜まっていた。
手紙をテーブルに置いて、手のひらに巻いた包帯を外す。
マランダにいる時から、傷は膿んでいた。
「ケアル。」
自分に回復の魔法をかけた。
青白い光が手のひらを包み、すぐに消えた。
「痛。」
ケアルをかけても相変わらず傷はズキズキと痛みを伝える。
手当てもしていたが、未だに良くならない。
何故か、ケアルが自分には効かなくなっているような気がしていた。
以前はそのような事は無かったし、もう治っても良いはずだ。
ケアルの効果が無いのは気のせいではない。
魔力が落ちているのかと思ったが、攻撃魔法は問題無く、寧ろ強まっている。
また、他者に対してケアルは効果があり、自分にだけ効かないのだ。


私は椅子に座り、来ていた手紙に目を通し始めた。
その中の一通にある文字列が記されていて、私は顔をしかめた。
その文字列は、順番を入れ替えると、ある施設の名になる。
魔導の力を得た者が収容されている施設の名称だった。

私は秘密裏に、実験を受けた者の行く先を追っていた。
何かがあれば、知らせがくる。
施設からのそれは大抵、悪い知らせだった。
封を開き、目を通す。
遠征の最中にまた1人死んだ。
私と同じ時期に実験を受けた、顔も名前も知っている人物。
死因は書いていない。
「……。」
私は手紙を置き脱力した。


かつて人間にとって「夢の力」と呼ばれていた魔法。
数年前、モンスターや幻獣、古の民の末裔しか持たないとされていた「夢の力」を普通の人間に与える技術が完成した。
開発したシド博士は天才と呼ばれた。
当時、私は博士と近しく、他数人と共に魔導注入実験に参加した。
失敗するはずが無いと確信していた。
だが、それは間違いだった。
実験からわずか数日で亡くなる者が出始め、それが単なる「夢の力」では無いと知った。
なまじ、内情を知っていた私は、知らない方が良い情報に惹きつけられたのだ。自分には、何が訪れるのか知らずにいられなかった。

そこまで思い出して、私は頭を振った。
考えても仕方がない。考えることを止めるべきだ。
技術は進歩している、希望を捨てたら、飲み込まれてしまう。
私は他の手紙に目を通し、仕事に着手した。
没頭したためか、時が経つのが早い。いつの間にか辺りは暗くなっていた。
 

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外が暗くなっていたので、机上のランプに火を入れた。
明かりで、周囲が少しだけ明るくなった。
コンコン。
ノックが聞こえた。
「セリスです。」
聞き慣れた声。こんな時間に何の用だろう。
「入れ。」私は答えた。
「失礼します。」
ガチャ、と扉が開く。
部屋全体は薄暗かったが、セリスの顔は見えた。
「どうした。」
「戻ったと聞いたので来たんです。」
セリスは言った。
「そうか。」
理由に拍子抜けする。
「お邪魔でしたか?」
「いや、別に。こっちには昼頃に着いた。」
「駐留お疲れ様でした。」
「お茶を入れましょうか。」
「頼む。」
私が答えると、セリスは棚の方へ歩いた。
「今日はまだこちらに?」
「いや、もう止めようと思っていたところだ。」
「そうですか。」セリスは言った。
部屋の真ん中を横切り、金色のウェーブのかかった髪が揺れる。
セリスは言った。
「あれ、怪我をしたのですか?」
テーブルにはさっき外した包帯。
捨て損ねていた。
「…ああ。」私は答えた。
セリスは茶を入れ、テーブルにカップを置く。
「その傷ですか?」
セリスは私の手を見て言った。


傷が大きかったので、間近で無くても見えたのだろう、聞かれてしまったと思う。
「少しあってな。」
私はペンを置いて、茶を一口飲んだ。
「市街で何か起こったのですか?」
セリスは尋ねる。
「武器屋の子供が本部に爆弾を仕掛けていて、それでそいつと少し揉み合いになった。怪我はその時に負ってしまった。完全に自業自得だが。」
私は答えた。
「そうですか。」
「父親は私が殺して、子供は孤児院行きになった。後の探索は任せてきた。」
私はそう言って茶を飲んだ。
「…反帝国派が残っていた。」
セリスは言った。
「奴らはこちらが排したつもりでも、必ず逃げ延び、機会を伺っている。見つけ次第叩くしかない。埒が明かないが、潰さなければまた増える。」
私は言った。
(そうすることが最善である)
自分に言い聞かせた。

--------

ケフカの傷が痛々しげに見えたので、私は聞いた。
「手を見せてもらっても良いですか?」
治療をしているはずなのに、さっき受けた生傷のようだった。
ケフカは袖を捲くる。
「痛そう。」思ったよりも深い傷。
「治りが遅いんだ。随分経つんだが。」
ケフカは言った。
怪我をしたのは1週間も前だと言う。
「最近ケアルの力が落ちている気がする。」
ケフカは怪我をしてない方の手を眺めながら言った。


「ケアルが?」私は言った。
そのようなことがあるのだろうか。
「自分にかける時だけ、効いている感じがしない。」
ケフカは続けて言った。
この人の言う事に間違いは無い。多分本当にそうなのだ。
「何か心あたりは?術をかけられたとか。」
私は心配になって聞いた。
「いや。」
ケフカは否定したが、何か理由があるような気がした。

[魔法の力に異変が生じるのは、その術者の身に何かが起こっているからである。]
それを教えてくれたのは、他ならぬケフカだった。
魔力が上がる、連続で魔法が使える、戦闘不能になる、MPが無くなる、状態異常になり特定の魔法しか使えなくなる、魔法防御の魔法がかかっている等…。
何かが起こらない限り、術者の魔法に異変が生じることはありえない。
しかし、回復魔法が術者自身のみに効かないという症状を、私は知らない。
「大丈夫?」
「今のところは。」ケフカは言った。
「ケアルかけましょうか。」
他者の魔法なら、おそらく効果があると思った。
「頼む。」
「ええ、任せて。」私は言った。
 


「ケアル。」
セリスが唱えると白い光が生じ、傷を包んだ。
目を伏せた横顔が光に照らされて、淡く浮かぶ。
さっき自分がかけた魔法とは異なり、セリスの魔法は温かく、柔らかい。
ズキズキと訴えていた痛みが、少しずつ和らいでいった。
傷が、すぅと音を立てるかのように、薄まっていく。
魔法が何故か、私の気分まで和らげる。
「どう?」
「だいぶ良い。」セリスが聞いたので私は答えた。
「効いてくれてるなら良かった。」
セリスは少し微笑みながら言って、傷薬を取り出す。
「セリス。」
私は手当てを続けるセリスに声をかけた。
「何?」セリスは顔を上げた。
「君はケアルが得意だったか?」
「どういうこと?」私が聞くと、セリスは少し首をかしげた。
「やけに効いている気がするんだ。」
私は言った。
「そう?特別なことはしてないつもりだけど。」
セリスは、不思議そうな顔をした。
「そうか。」私は呟いた。
部屋の明かりを増やさぬままで、薄暗い。
時間が少しずつ流れる。
セリスが動く毎に衣服が擦れる音や薬瓶を置く音。
私の手のひらに丁寧に薬を塗り、包帯を巻いていく。
冷たさが心地良い。
私は手を差し出したまま、黙ってその様子を見ていた。

「これで良いわ。」セリスは言った。
「すまない。」
「いつも、助けてもらってばかりだから、これくらいはさせて。」
セリスは言った。
「そんなことを気にしてたのか。」
私が聞くと、セリスはこくり、と頷いた。
「傷がもう痛くない。それで十分だよ。」
「…。」
セリスは何やら不満そうだ。
私は言った。
「そうだな…今日は何も食べていないんだ。付き合ってくれ。」

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