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ケフカについて書きます。二次創作あり(文章) 小話「数年前121~123」更新しました。(2015年8月9日)
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私は幼い頃からずっと軍にいた。
家族や、友人と呼べる人はここにしかいない。
それは、一般の人から見れば擬似的なものだったが、私にとっては全てだった。
ベクタにある、帝国軍内では色々な事が日常茶飯事だった。
同じ年代の娘が経験出来ないことばかりを経験してきた。
通常の倫理観が壊れつつあるここでは、甘えは許されなかった。
年が若くても、経験が少なくても、軍人は軍人。
そんな所で女が生きていくためには、弱い姿など見せられなかった。

少しでも見せたら、それは必ず自分に跳ね返ってくることが分かっていた。
軍人としての鉄の仮面を置いて、対峙できるのはシド博士とケフカだった。
2人は私の全てを知っている。
博士はもちろん、ケフカといると、ほっとした。
ケフカは、兄であり、年の離れた幼なじみであり、先輩だった。
私が将軍ではなく、ただのセリスとして会うことが出来る人だった。
一人でいる時でさえ、仮面の脱ぎ方を忘れてしまった私は、ケフカと会う事で素の自分を思い出し、離れることで軍人としての自分に切り替える。
私の中では、いつの間にかそういうサイクルが出来ていた。

この人たちが側にいてくれて良かった、そう思う。
そうでなければ、私は軍の道具と化していただろう。

 
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 ケフカも私の前では、小さい頃から知っているケフカだった。
お互い、今していることの酷さといったら、人の恨みを幾ら買っても買いきれないほどだろう。
そうしなければ生きていけないと言っても、果たしてそれが免罪符となるだろうか。

私とケフカは魔導注入を受け、魔法を使うことが出来る。
その影響は一部には知られる所だが、それは私にもあった。
稀にどうでも良くなって、全てを壊したくなる。
理性が働いていれば問題無いのだが、暴れ馬に乗っているようで、制御出来ないことがある。
気付いた事だが、ケフカのそれは、私よりも激しい気がする。
それでも研究を進め、地位を確立していくその姿に尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
出来ることならこの人の側で助けになりたい、幼い時からそう思っていた。

ジドールを訪れていたある時。
アクセサリーを売る店。
道すがら、偶然目に留まった。
キレイな指輪だった。
「やすらぎの指輪」そう名を冠された指輪を、私は値段も効果も大して確認せず、衝動的に買った。

「ケフカ、指輪よ。ジドールで買ったの。キレイでしょう?」
ベクタに戻った私は真っ先にケフカの部屋を訪れ、得意気に渡した。
「ふうん。」ケフカは手に取り、まじまじと眺める。
「やすらぎの指輪というの。これを付ければ気分が落ち着くんじゃないかしら。」
「セリス、それはバーサクやコンフュを防止するための物さ。対魔法用だね。」
僕らには効果は無いよ。そう言った。
まさか指輪の事を知っているとは思わなくて、私はしどろもどろになる。
「良いじゃない。もしかしたら、バーサクをかけられることがあるかもしれないでしょう?」
ケフカがそんなヘマをするとは思えなかったが、口をついで出てしまう。
「ありがとう。付けるかどうか分からないけど、セリスが拗ねると後々厄介だから、いただいておくよ。」
ケフカは笑って指輪を引き出しにしまった。
本当は身に付けて欲しかったが、それでも受け取って貰えた事に満足した。

「さあ、もう行くんだ。」いつまでも帰ろうとしない私を、ケフカは促した。
「分かったわよ。…じゃあまたね。」
ケフカの目は優しく、私も見つめ返した。

数日後、服のポケットに指輪を忍ばせたケフカがいた。
それに触れるとセリスの顔が浮かんで、少しだけ、気持ちが和らいだ気がした。
そんな効果は無いはずなのに。
セリスへの想いに気付かされる。
機嫌の良さそうなケフカを気味悪げに見つめる兵の姿が、いくつか見られた。
 

 

瓦礫の塔の戦いから数年が経ったある日、私はツェンの町にいた。
アルブルグへ行く船乗りに頼み、この近辺で降ろしてもらったのだ。
私はかつて塔があった、あの場所を訪れるつもりだった。
かつてケフカがいた場所。

私の肩書きと名は、罪人の証だった。
元帝国将軍セリス・シェール。
帝国が無くなった今、戦争に加担した人物として、表に出られる人間ではなくなっていた。
実際この手でたくさんの命を奪い、計り知れない傷を多くの人に与えてしまった。
私は小さい頃から帝国で育った、生粋の軍人だ。
居場所を失い、寄るものの無くなった私は、自然と人から隠れるようになった。
長かった髪を切り、顔を隠す格好をする。
苦しむ人がいる限り、永久に罪は消えない。
私は何にすがって生きていけば良いのか。

数年ぶりに訪れたツェンは活気に溢れ、人々は笑顔に満ちていた。
あの崩れてしまった家の場所にも、今は新しく立派な家が建てられている。
多くの建物に空いていた穴も補修され、無くなっていた。
この町は、今は無き帝国首都ベクタに近かった。
それ故、以前は良く訪れた馴染みの土地であり、今なお知り合いが数多くいる町だった。
私は長居すべきでないと考えていたので、すぐに去るつもりで出口へ向かった。
偶然、そこに子供の花売りがいた。
貧しい格好をしていた。孤児かもしれなかった。
私はそこで、白い花で出来た小さな花束を1つ買い、町を出た。
 

目的の場所に着くと、あの瓦礫の山はきれいに片付けられていた。
そこには植物が青々と茂っていた。
塔など初めから無かったかのようだった。
皆、辛い過去よりも、希望に満ちた未来に思いをはせるのだ。
私は跪いて花束を置き、そして、黙祷を捧げた。
その時だった、強い風が吹き付けて、私は思わず顔を上げた。
夏の眩しい日差しが目に入り、過去を思い出す。
あの時と同じ空。

あの日、ケフカは何日も研究所に詰めていた。
私はその日も、空いた時間に部屋を訪れていた。
ケフカは仕事が思うようにはかどらず、ずっと難しい顔をしていた。
もう、何時間、何日同じ事をあの机で、考えているのだろう。
「一緒に休憩取りましょうよ。何飲みたい?」その様子に、私は見かねて申し出た。
「いらない。そこにあるのは、もう全部飽きた。」
私が今手にしているお茶も含め、棚にある全ての飲み物に飽きたらしい。
ケフカはこちらを見ずに、あーあ、と小さく背伸びをして、分厚い本に手を掛けた。
「難しそうな本ね。」私は近づいて、覗き込んだ。
「ああ。何で昔の人間はこんなに回りくどい書き方をするんだ。」
はぁ、とため息をついて、また文字を睨めた。
左手にある辞書を何度もめくりながら、数分が過ぎたが、ケフカは立ち上がった。
「駄目だ。進まない。セリス、お茶を入れてくれないか?」
「良いわ。」私は飲んでいたお茶を置いて、立ち上がる。
カップを手にしたケフカは、ありがとう、と言った。
飲みながらも、仕事が進まない苛立ちからか、ため息が止まらない。
窓の外の天気の良さとは反対に、部屋の中はどんよりとしていた。
「外の空気を吸いに行かない?」私は言った。
「暑いし、疲れるからいいよ。」ケフカは気が乗らないようだった。
「ずっと部屋の中だと、息が詰まるでしょう。気分転換も必要よ。」
ちょっとで良いから。
私は強引に連れ出した。
 

 「暑い。」
扉から出た途端、ケフカは暑さと強い日差しに嫌な顔をして、呟いた。
研究所には芝の敷地に樹木が少し生えた広場があった。
「その上着、脱いだら?」暑苦しい服着てるから暑いのよ、と思ったが言わなかった。
ケフカは億劫そうに、袖の長い重たい服を脱いで、芝の上に置く。
「涼しい。」意外そうな顔をして言った。
「でしょ。」
日差しは強く気温も高かったが、風があって不快ではない。
私は外の空気が気持ち良くて、背伸びをする。
ふと振り返ると、ケフカは地面に寝転がっていた。
「子供の時に、こんなことをしたような気がする。」
ケフカは空を見上げて言った。
「そうね。」
私も横に腰を掛けて、寝そべる。
芝と土の匂いがした。
青く澄んだ空と、流れる雲。明るい日差し。
「良い天気ね。」
「うん。」
ケフカは気持ち良さそうに、大きく深呼吸をし、それから目を閉じた。

そうだった。あの時はそうして2人でしばらく時間を過ごしたのだ。

私は現実に戻った。
目の前には何もない広い野原。
そういえばあの時の仕事はどうなったんだっけ。
そんなことも思いながら、再び天を仰ぐ。
あの時と同じ、空はとても青く澄んでいて、雲が流れていた。

私は、何年も空を見上げていなかったことに気が付いた。

私が忘れなければ良いんだ、そう思った。
私はこの人と長い時を過ごしてきた。この人は私の一部。
あの時間を否定することは出来ない。
思い出せばいつでも会えるのに、そうしなかったから寂しかった。
独りで投げ出されたと思っていたのは間違いだった。

私は顔を上げて、その場を後にした。

白い花びらが風で揺れた。

 
 

 サウスフィガロからセリスが消えて1日経った。
ずっと僕は必死でセリスを探していた。
どうしていなくなったのか分からない。
処刑はしないと伝えたのに。
僕たちの夢は確実に叶えられているのに、何が不満なんだ。
縛り付けて、自分の部屋にでも隠しておいた方がましだった。
人の目に触れる所に置くんじゃなかった。
後悔してもしきれない。
僕が手に入れようとしたものはなんだって奪われる。
僕の望むものくらい手に入れさせてくれても良いはずだ。
もう、何も失いたくない。
奪うものなんて残っていない。
セリス、何処へ行ったんだ。

ナルシェの風も冷たくはなかった。
谷の奥でやっと見つけたセリス。
その側にいるのは、僕じゃない。
何て悪い夢だ。
おかしい。間違っている。
僕というものがありながら、虫けらを選んだ。
嫌だ。そんなわけない。
息が乱れてしまって、それが癪だった。
「ほー……裏切り者のセリス将軍もおいでですか……丁度良い。まとめて始末してさしあげましょう。」
僕は努めて平静を装ったが、出たのはヒステリックで嫌な声。
ちっとも回らない頭で出た言葉は、きっと僕の本音に違いない。
いっそ、殺してしまいたい。
そう思っていたんだ。
こんなにも想っているのに、いつもいつも素知らぬ顔で僕を傷つける。
こんなにも想っているのに、憎い。

僕が凝視していたら、セリスは悲しそうな顔をして僕を睨んだ。
何で、君がそんな顔を?
だったら、だったら、どうして僕から離れたんだ!?
僕は叫びそうになった。

「あなたには、いつも私の言葉が届かない。」
剣を交えながらセリスは僕に言った。
?意味が分からない。
君の事を一番理解しているのは僕だ。
思う間もなく肩に強い衝撃、よろめいて尻餅をつく。
セリスが僕を突き放したのだと気付いた。
見下されている格好になった。
瞳が冷たい気がする。
見捨てられた。
裏切り者。
裏切り者。
悲しい。
酷い女だ。
こんなはずじゃなかった。
あいつらといるセリスは、生き生きしているように見える。
僕にはずっと暗い顔しか見せなかった癖に。
凄く動揺してしまう。
こんな所にいたくない。
早く負かして、セリスを持って帰りたい。
でも。その思いばかりが空回りして、普段の半分も実力が出せない。
命まで危なくなってきて、とうとう僕は敗走するしかなかった。

殴られた顔がズキズキと痛む。
手鏡を覗くと腫れてしまっているようだ。
髪の毛もファイアのせいで傷んでしまった。
ケアルをかけて痛みが少し和らぐ。

走りながら、セリスの顔、姿形、声、匂い、全てを思い出す。
僕はまた会いたくなってきてソワソワしてきた。
もっと強くなって、君を連れて帰ってあげる。
僕は楽しくなって、胸が踊る思いだった。

「セリス将軍がサウスフィガロから逃げた」
ナルシェ侵攻の最中、その一報を聞いて、私は少なからず驚いた。
あの子供が逃げ出せる要素は、サウスフィガロの包囲網には無いと思っていた。
しかし、現実に脱走していて、それには第三者が関与している。
それは間違いのないことだった。
私は真っ先に、シドを疑ったが、どうやら違う。
博士は初め、セリスが帝国から逃げたのに、おそらく関与していた。
私の勘に過ぎないが、多分そうだ。
たかが研究所の博士では、私の息のかかった兵たちから、セリスを逃がすことは出来なかったらしい。

だとすれば。リターナーか。
老獪と言われるバナンを長とした集団。
フィガロ国王とも組している。
我々の駒である幻獣の娘もいつの間にか、引き入れられた。侮れない。
あやつらならば、ひょっとしたら。
もし、脱走した将軍がここに捕らえられていて、かつ魔封剣を使う事が出来ると知っていたら。
それを仲間にするために…。
いや、そんなはずはない。
私は即座に自分の思考を否定した。
セリスを捕まえてまだ日が浅い。
知っているのは、帝国の人間と、一部の町の人間のみ。
 いくらなんでも、リターナー側が情報を掴むのは時間的に不可能であり、バナンとてそこに人員を割く余裕は無いはずだ。

ナルシェの幻獣。新たな幻獣を手に入れられるとすれば、それは数年ぶりの事だ。
氷つげということは、生きている可能性もある。
魔法の研究には欠かせない、非常に貴重な素材だ。
「何としても手に入れるんだ。」
一度奪取に失敗している。他は信用出来ない。
私自ら、ナルシェに行くことにした。

 炭坑都市ナルシェ。
以前訪れた時とは違い、ざわめいている。
ここにいるのは、ナルシェの兵だけでは無いようだ。
北の崖に行くまでにある入り組んだ谷には、バナンを含め8人がいた。
その中には金髪の女を見とめた。
私の勘はまた当たってしまった。
あれはセリスに違いない。
「バカなことを。」私は呟いていた。
よりにもよって、テロリストの仲間になるとは。
まだ仕置きが必要なのかもしれない。
軍しか知らないお前が、外に出たって良いことは何も無いのに。
それにしても、魔封剣の使えるセリスを引き込むとは食えない奴らだ。
他に、幻獣の娘に、あれはドマの兵。知らぬ間に戦力が集まりだしている。
早い内に潰した方が良い。
谷を挟んで連中と対峙する。どうやら渡す気は無いらしい。
「ほー……裏切り者のセリス将軍もおいでですか……丁度良い。まとめて始末してあげましょう。」私は谷の向こう側に向けて挑発した。
セリスは、私をまっすぐ睨んでいた。
あの子供は叱られたりすると、いつもあんな顔をする。
相変わらずだな。
私はたぶん、少し笑っていた。
セリスの表情が幾分硬くなったのを見て、そう思った。

私は連中が我々の兵をクリアし近づいてくるのを、動かずに待った。
敵としてのセリスと剣を交えることになろうとは。
何年ぶりだろうか。
昔は剣が重くて腕も挙げられなかった。よく転んではビービー泣いていた。
それが今は。
思い出に浸っていると、不意に突き出された剣が僕の顔を掠め、痛みが走る。
セリスの剣だ。
少し、血が流れてしまった。
あのチビが頼もしくなったものだと思う。
もはや剣の扱いは私より上手いだろう。

私は、これで良かったのかもしれないと思った。
セリスは誰の庇護も無く歩くことを、ようやく覚えたようだ。
今は赤ん坊のように新しい世界を探検するのに、夢中になっている。
再び、彼女が剣を振り上げ、私はそれを受ける。
「目が覚めたら、戻っておいで。」近づいた時に、私はセリスに耳打ちをした。
セリスは目を見開いて私を見た。
私は他には何も言わず、切り返した。
私は確信していた。
そうするのが、セリス自身にとって一番幸せな選択だと気付くはず。
だから、また許してしまった。

 ベクタ研究所
これから我が身に降り懸かる凶事を予感してか、泣き叫ぶ幼いセリス。
哀れに思ったケフカ青年は「僕が代わりに受ける」と名乗り出た。
実験が成功すると思ってた訳ではない。
ただ、あの小さな子どもにこの恐怖を味あわせるよりはマシだ。
実験室へストレッチャーで運ばれる途中、小さなフワフワの金髪が目に入った。
目が合ったが、その子は何を言うでもなく、ただ上目遣いで、ずっとこっちを見ていた。
私は少しだけ表情を和らげてみせた。

気がつけば、ベッドの上にいた。身体には幾つかの管が這っていた。
ああ、もう終わったのか。呆気なさと、どうにでもなれという気持ちが交差した。
パタン。部屋の中で音がした。
脚の先に目をやると、セリスが椅子から飛び降り、こちらにパタパタと走り寄る。
白いフワフワのワンピースと柔らかそうな金色の髪の毛、大きなパチクリとした瞳。
ベッドまでやっていた少女は身体を押し付けて、こちらをジーッと見ている。
相変わらず物言う訳ではないが、傍らに存在するこの少女が、私が一時でも守った命だと思えば、それはたいそう可憐なものに思えた。
自然に手が伸びて、頭を撫でてやった。

 物心付いた時から私は特別で、帝国を拡大させるために、何より生き残るために、強くなることは不可欠だった。
シドは私を厳しくも優しく育て、そして守ってくれた。
片隅に残る記憶は、幼い頃遊んでくれたケフカだ。
私は教育を受けるため、ベクタから離れ、気がつけば疎遠になっていた気がする。
数年ぶりにベクタに戻り、研究所に脚を踏み入れた。
私は15歳になっていた。
研究所は昔と変わっていないが、戦争の気配が漂い、どこか雑然としているように感じた。
人気のない長い廊下、一つだけ開け放たれ、明かりの漏れている部屋があった。
記憶の底、馴染みのある部屋だったような気がする。
ドアをノックし、部屋を覗いた。
常人とは思えぬ服装、道化のような化粧を施した、こけた頬をした男、ケフカだった。


数日間ベクタで暮らしただけで、ケフカが皆から嫌われているのが分かった。
癇癪を起こし、手を上げる、物を投げ付ける、つばを吐き付ける、気に食わない兵士を辞めさせる、辞めざるを得ない状況に追い込む、動物をゴミのように殺す、知能のある幻獣、他国の捕虜をも同じように殺した。
人の道に反した数々の道具もケフカが作ったという。
ケフカの良からぬ話だけでなく、本人のわめく声すら毎日のように耳に入ってくる。
珍しく、ボロボロに負けた戦があった。
命からがら、逃げ帰った。
全身はドロドロ傷だらけ、常勝将軍がどこから見ても敗残兵。惨めなものだった。
激痛に耐え兼ね、地面にへたりこんだ。
一瞬気を遠くへやってしまい、人影に気付いたのは直前だった。
顔を上げれば、あの、道化の格好をした、ケフカ。
ケフカは私のそばに寄り、跪き目線を合わせ、そして私の頭を優しく撫でた。
小さな声で「セリス」と言ったのを聞き逃さなかった。
まもなく、遠くでガシャガシャと多数の鎧が鳴る騒々しい音がして、ケフカはゆっくり立ち上がり、身を翻してどこかへと去った。
昔のような感触だけが残った。

  あれからどうして私はケフカに近付いたのか。
この人は変わっていないのかもしれない。だから確かめたかった?
優しいケフカに会いたかった?
ケフカには誰もいないから?
孤独なケフカを分かってあげられるのは、私だけだから?
10年以上の時は長すぎて、もはやケフカを元に戻すことは出来ない。
ケフカのしてきた罪が消えるわけでもない。
心に異常を来たしたとしても、善悪の判断までが崩壊したわけではないし、なにより罪の意識を感じていない。
ケフカがしてきたことは、ケフカが望んでしたこと。
それはケフカが生まれながら残忍な人間だったってこと?
私にあまり近付かない方が良い。
一度だけケフカは言った。
寂しさを埋めるために君を利用するだろう。
誰だって独りは嫌なんだ。
ケフカは身体を丸め、布団をすっぽりとかぶって眠る。
酷く落ち着かない日があれば、そんな時は抱き締めた。
出来るだけ強く、顔が埋まって苦しいくらいに。
いつも「ありがとう、もう大丈夫だ」といって離れるが、あれは大丈夫ではなかったのだ。
ケフカの残虐さ、横暴さは許されるものではなくなっていた。
ケフカが力を発揮すればするほど、微笑む者は減り、泣く者は増えた。


ケフカなら、世界を支配出来るだろう。
皇帝をも亡き者にしようとしている。
僕と一緒に生きてくれますか?
夢うつつに聞いた声。
私には支えることは出来ない。
ケフカはただ残虐行為に快楽を感じるサディストではない。
ケフカの言葉は空っぽの正義感よりも、有無を言わせない力があった。
ケフカを止めるほどの信念を、戦うことの意味を、私は持っていなかった。
私は、もう特別な存在であり続けることに疲れていた。
何のために戦っているのか。
帝国のため?自分のため?この戦いで誰が幸せになるの?
ある戦局の夜。悩んだ挙句、私は逃げ出した。
運命から、果たすべき役目から、ケフカから。
逃げ切るためには全力で駆けなければならなかったのに、
行く当ての無い身体はノロノロとしか動かなかった。
幾ばくもいかない所で私はあっさりと捕まった。
牢屋から連れ出して、私を守ってくれると言ったロックは、私にとっては、待ち望んだ王子様。
誰かに連れて行って欲しかった。
私は軍人の端くれ。簡単には心を動かさない。
息巻いたが、言動と心が一致していないのは自分が一番分かっていた。
「裏切り者のセリス」
私はケフカを裏切った。

 魔導を注入して、思いがけず魔導士になったのは遠い昔。
魔法なんて特別な力を得た代償は、頭がおかしくなったこと。
実験さえ受けなければ。帝国なんかに来なければ。
後悔したってもう遅い。
一生、治りゃしないんだ。
僕と魔導はもう一体だから。
僕は変わらないつもりだったが、少しずつ皆の目が変わっていった。
昔、僕はどんなんだったっけ。
僕は化け物になってしまって、この先ずっとこう生きて行くのか?
岩場にうずくまってる金色。
何故だか僕は近付いて、見に行った。
心細そうに肩を落として、うなだれている女の子。
ああセリス、立派になった。
鎧をまとい、剣を携えた、女戦士。
ああ、神様も粋なことをしてくれる。
傷付いてはいたが、命に関わるほどではないだろう。
ありがとう、現われてくれて。
無性に頭を撫でたくなった。
変わらない髪の柔らかさ。
セリスは顔をゆっくり上げて、目が合った。
大きな目が僕を見上げる。
ああセリス。
いつかの時みたいだ。
もうセリスが正気に戻りそうだったので、僕は立場をわきまえ、見つけたと兵士に告げ、去った。

 

その日をきっかけに、セリスは僕の部屋を訪れるようになった。
セリスは黙って傍らにいてくれた。
それだけで僕の心は随分落ち着いた。
駄目な時は助けてもらった。

一回だけ、僕から離れてくれと告げたことがある。
気持ちを整理して、意を決して告げた。
不安は永久に僕を支配する。
彼女に何かしてあげることは出来ないから。
本当は、心底、彼女を欲していた。
不安を、孤独を、寂しさを埋めるため、僕は都合良く彼女を利用した。
僕の心に愛なんて感情は生じなくなっていて
依存が深ければ深いほど、もう一人で生きていけなくなるのに。
彼女にいて欲しい。
僕は彼女のことなんてちっとも考えてない。
それでも彼女は傍にいてくれた。
「考えすぎよ」と僕をたしなめる。
セリス、僕と一緒に生きてくれますか?
お願いだから、離れないで。
でも彼女はあっさり僕を捨てた。
はじめから分かっていた。
それなのに、裏切られた虚しさといったら。
どんなに地位を固めても、まともじゃない人間と過ごすなんて負担なだけ。
面白そうだから、近付いて、構って、飽きたんだ。
未来を邪魔するだけの男なんて、価値は無いってことか。
それから、僕は真の絶望の中にいた。
眠りから覚めた時から、僕の心は低く垂れ籠める暗い雲。
唯一、ほんの少しだけ、心が落ち着くのは、僕以外の人間の不幸。
きっと君らは、僕より不運だ。
なんたって死の淵にいる。
死にたくないのに死にそうなのは、苦しいに決まってるんだから。
セリス、もう二度と僕の前に現れないで。
 

 魔導工場から僕はセリスに連れ去られた。
「ケフカ、話を聞いて欲しいの」
彼女が何を言いたいかは分かっていた。
「あなたも気付いてるんでしょう?こんなやり方間違ってるわ。
力は争いを生むだけなの。魔大戦を繰り返してはいけないわ。もう、止めましょう。」
そうか。君はねずみどもの話を真に受けたのか。
「あいつらの言う事を聞いて、帝国に牙を向けるなんて自分の人生に背く行為だとは思わないか?
僕らは大儀のために戦い続けているだけじゃないか。」
僕はもっともらしく詭弁を吐いた。
大儀なんて言葉、よく言えたもんだ。
「僕らはそのために、ルーンナイト、魔導士として生まれ変わった。
魔導の力を使って帝国を勝利に導くのが僕たちの宿命だ。
僕らの努力の結果、帝国は栄える事が出来たんだよ。」
「あなたがしているのは、ただの殺戮なのよ。
罪の無い人を傷付けては駄目なの。」
セリスは絞り出すように、叫んだ。
そう僕はただ人が苦しむ様を見たい。
そしてそれが喜びと化している。
人として外道であることは自覚している。
「お願い、耳を傾けて。」
「僕は、変わるつもりは無いよ。」
僕は告げた。
「私も連れていってくれませんか?」
セリスは言った。
君の気持ちが僕に無くても、少しでも傍にいてくれたら。
「セリス、僕らは命を賭けて戦ってきた。協力を感謝している。」
僕の心は浅ましく、セリスに去って欲しくなかった。
君がいなければ、僕は既に亡き者になっていたかもしれないし、
何より、僕に決心させてくれた。
僕は君の優しさを忘れない。
君がいたから、僕はここまで来れたんだ。


僕はもっと大きな力が欲しくて、魔大陸に行った。
君は仲間と大きな化け物と必死になって戦っていた。
そんなにまでして、止めたいか?
この間まで一緒になってやっていたじゃないか。
ほら、僕の力が如何に大きいか、君は分かっているよね。
君の心が僕に無くたって、ただ僕の傍にいてくれたらいいんだ。
そいつらを殺せば、君は戻ってこれるよ。
そして君は、僕が渡した剣で僕を貫いた。
彼女は僕の目を見ていた。
僕が怖い?
痛みと、衝撃。
血。
本当に刺した。本当に僕を殺そうとした。
カッと頭に血が上って、支配するのは、怒りと惨めさ。
みんな、消えたらいいと思った。

 

世界を旅すると、私たちが残した禍々しい爪痕が各所に残っていた。
行動を共にした仲間にも、永遠に癒えない傷を負わせていた。
父を殺された男、恋人が戦の犠牲になり亡くした男、家族をケフカに殺された男。
彼らの痛みさえもほんの一部で、私たちの罪深さを知った。
どの顔をして仲間と言える?
魔導工場。
私はケフカと二人で話がしたくて、外へ連れ出した。
その姿が血で真っ赤に見えたのは幻だったろうか。
ケフカを止めたかった。
そう遠くないところに、破滅が見えているから。
あなたがしているのはただの殺戮。
もう、やめましょう。
今ならまだ、間に合うから。
変わるつもりは無いとケフカは言った。
「私も連れていってくれませんか。」
私がケフカを止めるしかない。
ケフカは言葉を行動で示すように、サマサでレオ将軍を殺した。
空の大陸から落ちて、再び目覚めてしまったことに、私は絶望した。
記憶が何度も私を責めた。
ケフカから受け取った剣。
手はガタガタと震えていた。その剣でケフカを刺した。
手筋は乱れていて、いたずらに傷付けただけだった。
ケフカの目は見開いていた。
耐え切れなかった。
私は、おじいちゃんが亡くなった日、自殺を図り、死に切れなかった。
生はどこまでもついてきて、私を解放してはくれなかった。
真実に目を向けろ。
気付かない振りをしていた。
私がこの世ですべき事があった。
弱いあなた。優しいあなた。世界を絶望に貶めるあなた。
あなたを葬ることが私の使命。
もう、休みましょうケフカ。

 

僕は文字通り、世界を支配する神となった。
そこに至るまで大したことは無かった。
三闘神の力を我が物にしたことで、見た目は更に人間離れした。
この世の生き物を全て殺すことは容易だったが、それもおもしろくない。
次は幻獣界?興味はない。
セリスたちは僕が作った塔をクリアして、僕の元を訪れた。
仲間と共に。
決意の表情を浮かべてた。
ようやく、死ねる。
僕たちは死闘を繰り広げた。
この上なく楽しくて、久し振りに生きている実感がした。
強大な魔法が僕の皮膚を焼き、致命的な量の血も流れた。
鋭利な刃物が臓器を容赦なく突き刺した。
許容出来ない痛みが訪れたが、それが心地よかった。
次第に動かなくなる身体も、僕を連れていくシグナル。
気がつけば意識を無くしていたようだった。
温もりを感じて、目を開けた。
ああ、セリス。
泣くんじゃない。
ぽたぽたと温かな、大粒の涙が僕に降り注いだ。
「僕なんかのために泣かないで。」
僕は確かに幸せを感じた。
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