物心付いた時から私は特別で、帝国を拡大させるために、何より生き残るために、強くなることは不可欠だった。
シドは私を厳しくも優しく育て、そして守ってくれた。
片隅に残る記憶は、幼い頃遊んでくれたケフカだ。
私は教育を受けるため、ベクタから離れ、気がつけば疎遠になっていた気がする。
数年ぶりにベクタに戻り、研究所に脚を踏み入れた。
私は15歳になっていた。
研究所は昔と変わっていないが、戦争の気配が漂い、どこか雑然としているように感じた。
人気のない長い廊下、一つだけ開け放たれ、明かりの漏れている部屋があった。
記憶の底、馴染みのある部屋だったような気がする。
ドアをノックし、部屋を覗いた。
常人とは思えぬ服装、道化のような化粧を施した、こけた頬をした男、ケフカだった。
数日間ベクタで暮らしただけで、ケフカが皆から嫌われているのが分かった。
癇癪を起こし、手を上げる、物を投げ付ける、つばを吐き付ける、気に食わない兵士を辞めさせる、辞めざるを得ない状況に追い込む、動物をゴミのように殺す、知能のある幻獣、他国の捕虜をも同じように殺した。
人の道に反した数々の道具もケフカが作ったという。
ケフカの良からぬ話だけでなく、本人のわめく声すら毎日のように耳に入ってくる。
珍しく、ボロボロに負けた戦があった。
命からがら、逃げ帰った。
全身はドロドロ傷だらけ、常勝将軍がどこから見ても敗残兵。惨めなものだった。
激痛に耐え兼ね、地面にへたりこんだ。
一瞬気を遠くへやってしまい、人影に気付いたのは直前だった。
顔を上げれば、あの、道化の格好をした、ケフカ。
ケフカは私のそばに寄り、跪き目線を合わせ、そして私の頭を優しく撫でた。
小さな声で「セリス」と言ったのを聞き逃さなかった。
まもなく、遠くでガシャガシャと多数の鎧が鳴る騒々しい音がして、ケフカはゆっくり立ち上がり、身を翻してどこかへと去った。
昔のような感触だけが残った。