「お願いします。何かの間違いです。確かな事が分かるまで待っていただけませんか?」
青年は将軍に頭を下げた。
「本当ならば待つわけもないが、君の大切な人がいるならば待ってあげても良い。」
将軍は頷いた。
青年は急ぎ、帝国首都ベクタに向かった。
青年の故郷はきわめて平凡な国。争いごとは嫌いでのんびりとした土地だ。
反政府組織のアジトになっているなど考えられなかった。
その日の夜にはベクタに着くことが出来た。やはり情報は誤りだった。
早とちりと伝達のミス。くだらなすぎる。
「ふざけるな。」
不愉快な顔を顕にして、即座に陣地へ急いだ。
明るくなった頃、陣地に着いたが大勢の兵の姿無く、解体を任された少数の人間がいるばかりだった。
青年の姿を見た者はきょとんとして言った。
「あの後、作戦が変わって我々の隊を残して行ってしまいましたよ。お陰で片付けにあと2,3日掛かりそうです。
そういえば、一緒ではなかったのですか?」
どうしてだ。まだ進軍の命令は出ていないはずだ。
軍の後を追うより他無かった。
既に街は火の海。
「君か。パラッツォ。もう少し早く戻るんだったな。お陰で、ほら。わが軍は既に事を終えてしまったぞ。
ほう、そうか、誤りだったか。不運だったな。」
将軍は兜を脱ぎ脇に抱えて言った。
「何故、待っていただけなかったのですか。最終的な命令は出ていなかったはずです。」
青年は珍しく感情を顕にし、責めたてるように言った。
「君の知人がいることは分かったのだが、これも我々の仕事だと思い直してな。私情を挟むわけにはいかぬだろう。
もちろん、君がそのような甘い考えの持ち主とは思いたくもないが。」
将軍は、のらりくらりと答えた。
青年はギリギリと唇を噛んだ。
畜生以下の行いをしておいて、なお優位に立とうとするその汚さに吐き気がした。
「君はまだ若い。待っている間にも軍の士気は下がり、敵も力を蓄えるのだ。ましてや我々は君とは違って
血の気の多い者ばかりだ。敵がいると知れば、いても立ってもいられない。…お前にこの仕事が勤まるか。」
許せない。憎んでも憎みきれない。
畜生以下の将軍は汚らしい顔を上げ、空をうっとりと見つめた。
「あの村は綺麗な女が多かった。絹のような肌が忘れられない。」
瞬間、青年の眼前は真っ赤になって、気付けば手にサンダーという魔法を纏い殴りかかっていた。
しかし渾身の力を込めた攻撃は、軽々と除けられてしまい、手首を掴まれてしまう。
そのまま壁に押えつけられ、身動きが取れない。
「魔法?そんなもの、こうしてしまえば怖くも何とも無いわ。」
「離せ。」
「白衣じゃなければ動けんか?」
下劣な将軍はにやついた。