「暑い。」
扉から出た途端、ケフカは暑さと強い日差しに嫌な顔をして、呟いた。
研究所には芝の敷地に樹木が少し生えた広場があった。
「その上着、脱いだら?」暑苦しい服着てるから暑いのよ、と思ったが言わなかった。
ケフカは億劫そうに、袖の長い重たい服を脱いで、芝の上に置く。
「涼しい。」意外そうな顔をして言った。
「でしょ。」
日差しは強く気温も高かったが、風があって不快ではない。
私は外の空気が気持ち良くて、背伸びをする。
ふと振り返ると、ケフカは地面に寝転がっていた。
「子供の時に、こんなことをしたような気がする。」
ケフカは空を見上げて言った。
「そうね。」
私も横に腰を掛けて、寝そべる。
芝と土の匂いがした。
青く澄んだ空と、流れる雲。明るい日差し。
「良い天気ね。」
「うん。」
ケフカは気持ち良さそうに、大きく深呼吸をし、それから目を閉じた。
そうだった。あの時はそうして2人でしばらく時間を過ごしたのだ。
私は現実に戻った。
目の前には何もない広い野原。
そういえばあの時の仕事はどうなったんだっけ。
そんなことも思いながら、再び天を仰ぐ。
あの時と同じ、空はとても青く澄んでいて、雲が流れていた。
私は、何年も空を見上げていなかったことに気が付いた。
私が忘れなければ良いんだ、そう思った。
私はこの人と長い時を過ごしてきた。この人は私の一部。
あの時間を否定することは出来ない。
思い出せばいつでも会えるのに、そうしなかったから寂しかった。
独りで投げ出されたと思っていたのは間違いだった。
私は顔を上げて、その場を後にした。
白い花びらが風で揺れた。