炭坑都市ナルシェ。
以前訪れた時とは違い、ざわめいている。
ここにいるのは、ナルシェの兵だけでは無いようだ。
北の崖に行くまでにある入り組んだ谷には、バナンを含め8人がいた。
その中には金髪の女を見とめた。
私の勘はまた当たってしまった。
あれはセリスに違いない。
「バカなことを。」私は呟いていた。
よりにもよって、テロリストの仲間になるとは。
まだ仕置きが必要なのかもしれない。
軍しか知らないお前が、外に出たって良いことは何も無いのに。
それにしても、魔封剣の使えるセリスを引き込むとは食えない奴らだ。
他に、幻獣の娘に、あれはドマの兵。知らぬ間に戦力が集まりだしている。
早い内に潰した方が良い。
谷を挟んで連中と対峙する。どうやら渡す気は無いらしい。
「ほー……裏切り者のセリス将軍もおいでですか……丁度良い。まとめて始末してあげましょう。」私は谷の向こう側に向けて挑発した。
セリスは、私をまっすぐ睨んでいた。
あの子供は叱られたりすると、いつもあんな顔をする。
相変わらずだな。
私はたぶん、少し笑っていた。
セリスの表情が幾分硬くなったのを見て、そう思った。
私は連中が我々の兵をクリアし近づいてくるのを、動かずに待った。
敵としてのセリスと剣を交えることになろうとは。
何年ぶりだろうか。
昔は剣が重くて腕も挙げられなかった。よく転んではビービー泣いていた。
それが今は。
思い出に浸っていると、不意に突き出された剣が僕の顔を掠め、痛みが走る。
セリスの剣だ。
少し、血が流れてしまった。
あのチビが頼もしくなったものだと思う。
もはや剣の扱いは私より上手いだろう。
私は、これで良かったのかもしれないと思った。
セリスは誰の庇護も無く歩くことを、ようやく覚えたようだ。
今は赤ん坊のように新しい世界を探検するのに、夢中になっている。
再び、彼女が剣を振り上げ、私はそれを受ける。
「目が覚めたら、戻っておいで。」近づいた時に、私はセリスに耳打ちをした。
セリスは目を見開いて私を見た。
私は他には何も言わず、切り返した。
私は確信していた。
そうするのが、セリス自身にとって一番幸せな選択だと気付くはず。
だから、また許してしまった。