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ケフカについて書きます。二次創作あり(文章) 小話「数年前121~123」更新しました。(2015年8月9日)
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ぎいと重い扉が開き、ケフカが帝の間に姿を現す。
シドはその様子を注視した。
青白い顔色をしているが、足取りはしっかりとしていた。
「お待たせして申し訳ございませんでした。陛下。」
ケフカは皇帝の前まで参じて、頭を下げた。
「構わぬ。シドから話を聞いている。このたびは大変だった。何と言って良いか分からぬ。」
「身体は大丈夫なのか?」
皇帝は現れたケフカを気遣った。
それは皇帝が滅多に見せない他者への気遣いであり、シドは意外に思った。
「はい。お心遣い痛み入ります。」
ケフカは答えた。
「儂はお主が、我が帝国の魔導の歴史の一端を担い、帝国軍に於いて大きな功績があったと思っている。
シド博士にも話していた。儂はお主に功績に応じた地位を用意してやりたいと考えている。何か申したい事はないか。」
「陛下…。」
皇帝の申し出に、ケフカは皇帝を見上げる。
「うむ。」
「陛下、私はもうじき気が触れて常人ではなくなります。哀れな気違いの願い、お聞きいただけないでしょうか。」
ケフカは言った。
「良い。申してみよ。」
 憐れみを込めて皇帝は目を細める。
「わたくしは、これまで魔の道を歩んで参りました。それならば、命ある限りこの道を極め、陛下と帝国の御為に全てを捧げとうございます。」
「…。」
ケフカの言に皇帝はわずかに身を動かした。
(…!)
シドはケフカが魔導を極めたいと皇帝に進言した事に驚きを隠せず、その姿を凝視しながら、共に皇帝の返答を待った。
「…。」
皇帝は玉座からケフカを見つめていた。
「何卒…。」
ケフカは深々と頭を下げた。

「主の気持ち、分かった。」
数秒経って皇帝は口を開いた。
「お前は儂の為にガストラ帝国の為に、これまで良く働いてくれた。その願い、聞き入れよう。命尽きるまで、儂に奉仕するが良い。
その才があれば、魔導の研究においてこれからも我が帝国に貢献出来るだろう。」
皇帝は言った。
「陛下…。」
シドは皇帝の発言に衝撃を受け、思わず呟いていた。
シドにはケフカの願いも、皇帝がそれを聞き入れた事も、理解出来なかった。
皇帝はシドの様子には気にも留めず、続ける。
「ケフカよお前を皇帝直属の魔導士として召し抱えよう。儂の命で精力的に働いてもらおう。そして、シドと共に魔法や魔導兵器の開発にも携わるが良い。」


予想だにしていなかった状況に、シドは固唾を飲んでその場を見守った。

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皇帝の話が終わると、ケフカはゆっくりと顔を上げた。
シドはケフカの様子を凝視していた。
その時、ケフカの口元が裂けるように歪んだような気がした。
(この男、笑っている…。)
シドがその奇怪な表情に気付いた時、背筋にゾクりと悪寒が走った。
ケフカはゆっくりと話し始めた。
「陛下。私のような者にまで慈愛をいただいて、陛下のお心の深さ広さには、何と申して良いか…。」
ケフカは胸に手を当てて、さも従順な臣下の如き口調で述べる。
その様子に皇帝は満足そうな表情を浮かべた。

(玉座にいる陛下には、先程の笑みは見えなかったようだ。)
不可解な状況に、シドはうすら寒さを覚え、堪らずに口を開いた。
「陛下、お言葉ではございますが、」
「何だ。」
「かの病は著しく精神に異常をきたすもの、任務を行わせるには負担が大き過ぎると存じます。」
シドは、この男に重要な業務を行なわせるのは危険ではないか、という言葉を飲み込み、暗に考え直すように皇帝に伝えた。
「シドよ。」
皇帝は口を開いた。
「力を持たぬお主には理解出来ないだろうが、同じ力を持つワシには分かる。その苦しみがな。」
「陛下…。」
「…しかし、陛下、あの病は、難しい病でございます。」
シドは食い下がった。
ガストラ皇帝が一度決めた事を覆す事は殆ど無いが、シドはそれでも伝えずにはいられなかった。
「分かっている。精神の病、気が触れていく不治の病だ。」
ガストラは答えた。
「ならば…。」
「黙れ。儂に指図するでない。お主も偉くなったものだな。」
シドは更に進言しようとしたが、遂に皇帝は怒鳴り、シドをぎろりと睨んだ。
「申し訳ございません。」
シドは平伏した。
やはり駄目であったかと、シドは歯がゆい思いをする。
「我が帝国は歴史上類を見ない偉業を成し遂げる。それは凡人には不可能。狂人にこそ達成出来るというもの。人でありながら魔導帝国を築いた儂も狂人の類いであろう。なぁ、シドよ。」
皇帝はシドをじろりと見て言った。
「博士…、どうかお力をお貸しください。」
ケフカは微笑んだ。


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微笑んだケフカと目が合い、その今まで見た事の無い表情にシドは後ずさりするのを堪えた。
背筋がぞくりとざわつき、シドは思わず目を逸らした。

ケフカと皇帝のやり取りは、傍目に見れば、忠臣が病を押して君主に尽くしたいと願い出た美談の様にも思えるだろう。
しかし、シドにはこの男にそこまでの忠義心があるとは思えなかった。
そのちぐはぐな状況にシドの悪寒は止むことを知らないでいる。

「シド博士よ。」
「…は。」
シドは不意にガストラ皇帝に名を呼ばれ、慌てて応じた。
「儂からも頼もうではないか。」
皇帝は言った。
玉座からの言葉に、シドは有無を言わせぬものを感じる。
「…は。」
先程皇帝の怒号を受けていたシドは、その逆鱗に触れる事が恐ろしく仕方なく了承した。
皇帝はシドの答えに少しだけ頷いて、今度はケフカに顔を向けて言った。
「では、詳しい事はまた後日話そう。今日は休むが良い。」
ケフカに対する皇帝の物言いは柔らかいとシドは思った。
「…は。失礼致します。」
ケフカはそう言って頭を下げ、皇帝の間を去った。

「ふふ。」
部屋が2人になり、ガストラ皇帝は不意に笑った。
シドは幾分怪訝な表情をして、皇帝を見た。
「シドよ。儂に何か申したい事があったのではないか?」
皇帝は含みを持った言い方をする。
「……。」
シドは沈黙した。
シド自身は、ケフカが皇帝に言っていた事は本心ではないと思っている。
今ガストラ皇帝が何を言わんとしているのか、シドには量りかねているが、
少なくともケフカがその” 忠誠”の為に魔導研究者である自分に協力を求める事等、考えられないことだと感じていた。
しかし、シドには今この場でその事を申し伝えるのは憚られ、皇帝の次の言葉を待った。

「気付いていたか?奴の目に。」
皇帝は聞いた。
気のせいか、その声は幾分喜色を湛えているように思えた。
「目、ですか?」
シドはおうむ返しする。
シドはケフカの様子を思い出そうとしたが、先程の不可解な笑みの方が強く印象に残り、目までは上手く思い出せなかった。
「あの目。あの野望に満ちた目だ。しおらしくしていたが奴の目は死んではいなかった。」
ガストラ皇帝は言った。
「…。」
(陛下は何を言わんとしているのだ。)
シドはガストラ皇帝の顔を見つめた。
「あやつは黙って消えるつもりはないと見える。何が望みなのかは分からぬがな。」
(陛下はあの男の様子が表面上の物だけではないと、気付いていたのか。)
シドは皇帝の言葉に確信めいた思いを抱いた。
「ふふ、儂も昔はあのような目をしていた。あの目は良い。いつか偉業を成し遂げるだろう。」
「……。」
(…陛下はかつての自らの姿と、あの男を重ね合わせているのだろうか。)
シドはガストラ皇帝の言葉に複雑な表情をし、同時に不安を覚えた。
「奴はまだ閉じ込める必要はないと思っている。」
「陛下。」
シドは顔をしかめた。
嫌な予感がする。
「必要があれば戦にも出すつもりだ。」
(…これは陛下の悪い癖だ。)
シドは思った。
「これも君主の務めだ。奴に引き下がる気がないのであれば儂が奴の野望を幾らかでも叶えてやろうではないか。」
そう言ってガストラ皇帝は笑った。
「……。」
「奴が耐えられたらの話だがな。」
ガストラ皇帝は付け加えた。
(陛下はあの男を試そうとお考えなのだ。)
シドは思った。
ガストラ皇帝はケフカの野心を見抜き、敢えて利用しようとしている。
そのことにシドは恐れを抱いた。


「それに、お主は奴がどんな経過を辿るか、興味深いのではないか?」
ガストラ皇帝は言った。
「…。」
シドにとってケフカは古くからの知人であるが、同時に魔導研究の対象として、興味深い存在だった。
しかしその考えは常人には理解されないだろうこともシドは分かっていた。
(陛下には何もかも見透かされているようだ。)
シドは感じ、ガストラ皇帝の顔を見た。
「ははは。それがお主だ。」
シドの図星を突いたことに皇帝は喜んだ。
「人に魔導の力を授けるなども狂気に侵されてなければ出来る事ではない。シドよ、お主も我らと同じ狂人なのだ。」
皇帝はそう言い、上機嫌に笑った。

数か月に及ぶ駐留を終え、セリスはベクタに戻った。
セリスは他の将軍らと共に、ガストラ皇帝の元へと帰還の報告に向かう。

型通りの報告を終えた後、皇帝の側近が言った。
「シェール将軍は残れ。」
セリスは(何を言われるのだろうか。)と思う。
が、思い当たる節は無い。
セリスを待ち受けていたのは思ってもいない命令だった。

「セリス・シェール、お前だけを残したのは他でもない。お前の隊に魔導戦士を増員する。」
ガストラ皇帝はそう切り出し、話始めた。
「!?」
概要を聞き、話が進むにつれてセリスの驚きは増えていった
兵の増員自体がセリスにとって寝耳に水の話であるが、まず増員されるという魔導戦士の数が予想より多いと感じた。
それは将軍であるセリスが把握している候補の新兵の数を軽く超えていた。
(それ程の人数がどこから捻出されるのだろうか。)
セリスは疑問に思った。
少なくとも軍の再編成が行われ、隊の1つや2つが減らなければ、捻出出来ない数ではないか。

セリスが考えていると皇帝が口を開いた。
「心配はいらぬ。お前も良く知っている、ケフカ・パラッツォの隊の者だ。」
「えっ。」
セリスは驚いた。
「ケフカ・パラッツォは皇帝直属の魔導士に就任することになった。ケフカの隊は解散する。
その兵がお前の隊に加わる。」
「…。」
「ふふ。ケフカからお前が適任であると申し出があった。お前はその後釜というわけだ。」
「…。」
「異論はあるまい。」
「は。」
「良く務めよ。では下がって良い。」
「はっ。」

(ケフカが陛下直属の魔導士に・・・?)
セリスはまだ驚いている。
そしてその隊を自分が治める事にも。
皇帝の命を受け、セリスは身の引き締まる思いがしたのと同時に、ケフカが取っていた態度にある種合点がいく。
(近づくなと言っていたのは、立場が変わるから。)
セリスはそう思った。
胸がちくりと痛んだが、受けた命令の大きさに気後れもしている。
ケフカの隊は非常に大きな部隊であり、帝国の魔導戦士部隊の要である。
(動かなければ。)
セリスは不安を押し殺した。

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皇帝の間を出て、セリスは不安を打ち消すように城内を大股で歩いていた。

(ケフカの部隊を私が…。)
先程のガストラ皇帝の命令を思い出していた。
ケフカの部隊が解散し、その兵がセリスの部隊に加わる。
帝国軍に身を投じていた者であれば、その役割の大きさを知らぬ者はいないだろう。
身体が少し震えた。
突然の命令に戸惑いを覚えているのは事実で、今は重圧以外の何物でもないと感じていた。
歩きながら、ぐるぐると思考が廻った。
今回の件はケフカが推薦したと陛下は仰っていた。
大きな任務を与えたという事は、ケフカは自分を認めてくれたといって良いのだろうか。
セリスは思った。
先程までは、ケフカが近づくなと言っていたのは、ケフカの立場が変わるからで、それは私を足手まといだと考えているから。
そう思っていた。
しかし、今回の事で
(ケフカは私を信用してくれているのだろうか。)
とも思う。
(応えられるかな…。)
任務の重さにセリスの表情は曇った。
(ケフカは皇帝陛下直属の魔導士だ。もう側にはいない。)
今まではケフカに頼ることが出来たから、立ち向かえたことは多い。
援軍という意味だけではなく、精神的な面でも頼っていた。
改めてそう自覚する。
(会って話したい。)
会えばきっとこの不安定な気持ちは収まるのではないか。
そう思った。
会いたいという私情だけではなく、そもそも前任であるケフカに確認しなければならないことは多いから、やはり会わない訳にはいかない。
そうセリスは自分に言い聞かせた。
私情と任務に対する責任感とがぐるぐると交錯していた。
つい先程まで任務に対する重圧で押し潰されそうになっていたが、少し気持ちに光が差したような気がした。
ケフカに拒絶されてからの数か月、セリスは不安定な精神状態に陥っていた。
セリスにとってケフカは師であり、目標とする人物であり、年の離れた兄のような存在で、
拒絶されてからは、自分が拠り所としていたものがガラガラと崩れ去ってしまったような気がしていた。
だから(ケフカは私を信用してくれているかもしれない。)
そう思うと、浮き立つような気さえしてくる。
気付かぬうちに足取りは軽くなっていた。
歩いている内に徐々に、ざわついていた気持ちが静まってくる。
セリスは皇帝の間から直接ケフカの部屋の方へと向かった。

今の時間帯にケフカが自室にいるとは思えなかったが、セリスは他を探す前に建物の奥にあるケフカの部屋に寄ろうと思った。

扉の前に立って、すぅと深呼吸をする。
扉を叩こうとして、鍵が真新しくなっているのに気が付いた。
(壊れたのかな。)
鍵は以前シドが扉を破ろうとして壊したものだったが、セリスは何も知らなかったのでたいして気には留めなかった。
トントンと扉を叩く。
反応は無かった。
(やっぱりいない。)
セリスは少し中の様子を探るがケフカがいる気配は無かった。
不在であることは予想通りだったが、セリスは少し落胆した。
セリスは部屋の前を去り、建物の出入口へと歩を向けた。
確信はあまりなかったが、何となくこの建物にはいない様な気がした。

途中、同僚の将軍に会い、セリスはケフカの居場所を聞いた。
ケフカの名を出すと、某将軍はあからさまに顔をしかめた。
某将軍は大任を受けたセリスに、まずはおめでとうと声をかけてから、話を始めた。
前々からおかしいとは思っていたが、陛下の直属の魔導士になってから拍車がかかったようだ。
あの男は軍の任務を軽んじて自らの立身出世の事ばかりを考えているようだ。
シド博士と陛下に付きっきりで、我々の方は見向きもしない。
事実、あの男は魔導士になってから一度も元の部下達に顔を見せていない。
考えられぬ。
奴は陛下の評価を受ける事に執心しているのだ。
このままではいずれ軍に悪い影響を与えることになるのではないか。
某将軍は余程腹に据えかねていたのか、ひとしきり愚痴を吐くと、少し申し訳なさそうな顔をした。
これから任を負うセリスを不安にさせたのではないかと今更になって気が付いたのだ。
「役に立てなくてすまないな、セリス将軍。大変だと思うが頑張ってくれ。」
そう言うと、某将軍は去った。
セリスはありがとうとざいますと応えて見送る。

どういう訳かケフカの評判が良くないようだとセリスは感じた。
以前からケフカは陛下を初めとする政府の高官から特務を受けることがあり、時に隊を離れる事があった。
しかし、それだからと言ってケフカが軍の任務を軽んじているとはセリスは思えなかった。
特務を終えれば、部隊の者に目をかけ、離れていた事を感じさせないようにしていたし、部下からの求心力も強かった様に思う。
(確かに最近は不在である事が多かったけど。でもどうして。)
セリスはケフカに非があるとは露程も思っていなかった。

建物を出ると正面からシド博士が歩いてくるのが見えた。
「博士。」
「おお、セリス。戻っていたのか。」
シドは力なく微笑む。
「ええ。」
シドの言葉にセリスは頷いた。
遠征に立つ数か月前に言葉を交わしたのが最後だった。
「それより博士、疲れている?」
セリスはシドの表情の陰りに気が付いてそれとなく様子を窺った。
「いいや、大したことは無い。」
シドが否定したので、セリスはそれ以上追及はしなかった。
「博士、さっき陛下からケフカの隊の人を受け入れるよう命じられたわ。ケフカが陛下直属の魔導士に就任するから。」
「うむ。そうか。」
シドは頷いた。
「博士は、知っていたの?」
それほど驚いていない様子のシドに、セリスは聞いた。
「ああ。ケフカの着任の命の時には私もいたからね。魔導士の任務は私の魔導研究と切り離せないから呼ばれたんだろう。」
「そうだったのね。」
「まあその時までは私も何も知らなかったよ。陛下のお心には以前からあったのかもしれないがね。」
シドは言った。
(そう、実際に命令が下るまでは思ってもみなかった。)
シドは幾分表情を曇らせた。
シドは先程までケフカと研究所で膝を突き合わせていた。
前途の多難さを思い、それがシドの顔に陰を作っている。
「博士?」
セリスは訝しげに聞いた。
「うん?それでセリスは命令を聞いてどう思ったんだい?」
シドの様子にセリスはやはり違和感を覚えたが、はぐらかされた。
「私は、突然の事で、驚いたわ…。本当に突然だったから何も聞いていなくて。」
「そうか、大丈夫なのかい?」
シドは心配そうに聞いた。
皇帝やケフカは、セリスがさも後任に相応しいように話をしていたが、10代半ばのセリスには流石に荷が重いのではないかとシドは思っていた。
しかし、帝国軍の内情にはシドは詳しくないので甘受した。
「ええ。」
シドの問いにセリスは力強く頷いた。
「博士、ケフカを見なかった?部屋にはいないみたいで。」
「ああ、さっきまで研究所で一緒にいたんだがね。そういえば外に出ると言っていたな。街に行ったんじゃないかね。」
「そう。ありがとう。探してみるわ。」
(…。)
セリスの力強い返答に、シドは複雑な表情をする。
(セリスに何も起こらねば良いが。)
シドには不吉な影が忍び寄っているように思えてならなかった。
「セリス。」
「うん?」
「ケフカは最近、非常に忙しい。食事も満足に出来ていないくらいだ。要件が済んだら早く切り上げるんだよ。」
「分かったわ。ありがとう。」
そう言ってセリスは足早に去った。


 

セリスが去ってからシドは、ふうとため息をついた。

ケフカはシドと研究業務を行なう名目で、研究所に入ることになった。
それは表の理由で、もう一つの理由は治療をする上で都合が良いという点だった。
セリスに言ったように、シドは先程まで研究所でケフカと仕事をしていた。
(ふう。)シドはまたため息をついた。
苦痛に上下する背中を思い出したのだ。

ケフカが魔導の後遺症を抑える薬の服用を始めたのが、約ひと月前。
その薬は元々、幻獣の体液から魔導の抽出液を分離する際に用いる薬品であった。
当然人体に用いられるものではなかったが、それをシドが医療用に加工した。
医療用ではあるがそれは未だに劇薬であり、服用した人間には強い副作用が起こる。
魔導の病の症状を抑える代償だった。
投薬により幻覚幻聴の類は抑える事が出来た。
しかし、すぐに副作用の一つである吐き気が起こり食事をまともに取る事が出来なくなった。
そして10日後には話し合いの途中に気を失った。
本来、薬は安静な状態で投与されるべき物だが、皇帝直属の魔導士となることを選んだこの男は病室で治療に専念する事を固辞し、案の定倒れた。

しかし、それもシドには予想出来ていたことだった。
治療に専念しなければ倒れるのも時間の問題だと説明をしても、あの男はこちらの提案を受けいれることなかったのだ。
だからシドはケフカが倒れた時、その姿に嫌悪に似た感情を抱いた。
何故、そうまでして魔導に執着するのか。
よほど陛下の信頼を得たいのか。
シドには理解が出来なかった。

今の生活は長く続けられるはずがない。
魔導の病を発症させた者達がどのような末路を迎えてきたかをシドは誰よりも知っている。
(抗いたいのだろう。しかし…。)
シドにはケフカが破滅への道を歩んでいるようにしか思えなかった。 

ケフカは数週間ぶりに街へ出た。

日が眩しく、ケフカは手の平をかざして光を遮った。
ようやくまともに歩けるようになったのは数日前だった。
たったのひと月で体重はかなり落ち、筋肉は削げ落ちたように思える。
身体が鉛のように重い。
空気は淀み、街の活気が疎ましく感じた。
外へ出れば気分も変わるかと思ったのだが、そうはならないのだと気が付く。
ケフカは人ごみを避けるように路地の方へと向かった。
数分歩いただけで息が少し切れた。
自分が酷く貧弱なものになってしまったように感じる。
この力の入らない手で、以前のように剣を振えるだろうか。
以前は使う事が出来た回復魔法も徐々に力を失い、今では一切使えなくなってしまった。
唯一の救いは、回復魔法以外については魔力の衰えが無く、寧ろ強まっている点だが、それすらも無くなったら最早自分の存在価値は無いに等しい。

病になってから全てが一変した。
もう以前の自分には戻れないのだろうか。
何もかも、色褪せてしまった。
ケフカは雑踏の中、自分だけが取り残されているように感じて、その場に立ち尽くした。

「ケフカ?」
立ち尽くしていると背後から聞き慣れた声がして、ケフカは恐る恐る振り返った。
「久しぶり。」
声の主セリスは少し緊張した様子で言った。
「ああ。」
ケフカは答えた。
「シド博士が街にいるんじゃないかって言っていたから。」
「そうか。」
ここは大通りからかなり外れた路地の一角。
ケフカは良く探したなと思った。
「…。」声を掛けておきながらセリスはケフカの顔を見つめて、要件を切り出そうとしない。
「……用は。」
その様子をもどかしく感じ、ケフカは聞いた。
「……陛下から命令を受けたわ。隊の事を聞きたいと思って来たの。」
セリスは言った。
「時間、良い?」
「ああ。」
ケフカは答えた。

ケフカはセリスのその鈴の鳴るような声に、安らぎを覚えている事に気が付く。
開いた穴が塞がって、満たされていく様な気がした。
「城で話そう。」
ケフカは言った。
「はい。」
セリスは弾んだ声で答えた。

広くは無い路地だが、2人は並んで歩いた。

ケフカは何故、セリスに自分の隊を引き継がせたのか。
実は、というより当然のことながら、経験の不足したセリスよりも任務に相応しいと思われる人物は他にもいた。
以前のケフカならば、その最も相応しい人物にその座を明け渡しただろう。
しかし、そうはしなかった。

ケフカはセリスを手放したくなかった。

だから自分の隊を引き継がせた。
ケフカはそれを自分のエゴを優先した行為だとも思わず、セリスを傍に置けることに満足感さえ覚えていた。

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刺すようだった日差しが薄雲に隠れて少し和らぐ。
街の雑踏が途切れ、周囲には一瞬の静寂がもたらされた。

久しぶりの再会に、セリスはまだ緊張していた。
歩きながらケフカの横顔を見つめてしまう。

街にケフカを探しに出て、当たり前だが始めはどこにいるのか見当も付かなかった。
しかし、歩いている内にいつの間にか気配を感じるようになった。
それは不可思議な感覚だったが、これまでもケフカに対しては幾度かそういうことがあったからセリスはそれに導かれるままに進んだ。
そしてたどり着いた先にケフカがいた。

ようやく見つけたケフカは何をするでもなく、ぼんやりと立ち尽くしていた。
(どうしたんだろう。)
その姿にセリスは不思議に思った。
ようやく探し人を見つけ出せたのにセリスは声を掛ける事に躊躇した。
(また拒絶されたらどうしよう。)
セリスは恐れたが、意を決した。
「ケフカ?」
出した声が幾分震え、表情もぎこちなかったかもしれない。
声を掛けるとケフカはゆっくりとこちらに振り向いた。
青緑色の瞳と目が合った。
「久しぶり。」
セリスは言った。
「ああ。」とケフカは短く答える。
「……。」
数か月ぶりにケフカの声を聞いて、セリスは発するべき言葉を忘れた。
「……用は。」
ケフカがそう尋ねたので、セリスは言うべきことを思い出す。

あまり広くは無い道を2人で並んで歩いた。
数か月ぶりの再会にセリスの気持ちは浮き立っていた。
しかし、いつも見ていたはずのケフカの横顔に違和感を覚える。
(凄く痩せたみたい。)
痩せたというよりは、やつれたといった方が当てはまるような、病的な何かをセリスは感じる。
シド博士はケフカは忙しく食事をする暇もないと言っていた。
皇帝陛下直属の魔導士の業務は、それ程までに過酷なのだろうか。
セリスは心配になった。
帝国を離れていた数か月の間に、様々な事が変わったようだと
セリスは思った。 

「どうした。」
「えっ。」
急にケフカがこちらを見て声を掛けてきたので、セリスの心臓は跳ね上がった。
かなりの時間、横顔を見ていたことに気が付く。
怪訝に思われても仕方がなかった。
「……何でも。」
苦し紛れにセリスは答えた。
体型の変化を指摘するのは幾らなんでも失礼だと思い、セリスは口を閉ざした。
ケフカはふうんと呟き、さほど興味も無さそうに、再び前を向いた。

数歩歩いて、ふとケフカが口を開く。
「そういえば、背が伸びたんじゃないか?」
セリスは思ってもいなかった事を言われて驚いた。
「そうですか?」
そう言って少し考える。
言われてみれば、以前は見上げていたケフカに対しての目線が、今は見上げずとも良くなっているような。
「そういえば……。」
セリスはそう呟いて、そちらを見るとケフカは嫌な顔をした。
「…………失礼な奴だな。」
「あっ、そんなつもりじゃ。」
セリスはギクりとする。
ケフカは眉を顰めた。
「じゃあどういうつもりだって言うんだ。」
ケフカは低い声を発して、いよいよ険しい顔をした。
ケフカの苦々しい表情を見て、セリスは自分が口を滑らせた事に気が付いた。
無意識に自分とケフカの背の高さを見比べていた。
ケフカの身長は軍の中でも高くは無い方だ。
このまま、背を追い越してしまうかもしれない。
(もしかして気にしていたのかな。)
セリスは思った。
ちょっとしたことで機嫌を損ねてしまったかもしれない。
セリスは焦りを覚える。
「あの、えっと……。」
何かを言わなければと思うが、言葉が見つからない。

ケフカはその様子がおかしく感じたのか
「別に良いさ。」と言って他に目線を向けて笑った。
(良かった。)
セリスはケフカが笑ったことにほっとする。
それと同時にセリスはその笑顔に懐かしさを感じた。

いつもよりも少し時間をかけて2人は歩き、城に着いた。
門を通って、部屋へと向かう。

途中、3人の将軍たちが前方から向かってくるのが見えた。
彼らはこちらに気が付くと、小声でひそひそと話だした。
普段とは違う彼らの様子にセリスは戸惑いを覚える。
そして、すれ違いざまにはこちらを睨んでいった。
否、睨まれていたのはケフカだ。
あからさまに向けられた敵意にセリスは困惑した。
少し前までは同僚だったはずなのに。
ケフカもまるで彼らが目に入っていないかのように振る舞っている。
ケフカは意に介していないようだったが、セリスがベクタを離れていた数ヶ月の間に、ケフカは随分嫌われてしまったようだと感じた。
セリスには目に見えた変化(痩せてしまった事は別にして)が無かっただけに、それがいっそう困惑を深くさせた。

ケフカは執務を行なう部屋にセリスを通した。
「座って。」
ケフカはセリスに言い、机の引き出しから資料を取り出す。
「ごめんなさい、急に押しかけてしまって。」
セリスは言った。
シドにはケフカは忙しいから用が済んだら早く切り上げるように言われていたことを思い出していた。
「構わない。聞きたい事があったんだろう?俺にもお前を選んだ責任がある。」
ケフカは言った。
セリスはケフカの言葉を聞いて、拒絶された出来事が流れ去っていく様な気がした。
「さあ、何が聞きたい?」
そう言ってケフカは向かい側に腰を掛ける。
それはいつもと変わらない光景で、セリスはまた以前のような関係に直ぐ戻れると思った。

「あの、その前に。」
セリスは言った。
ケフカはほんの少し首を傾げる。
「何故、私を推薦したの?」
セリスは気になっていた事を聞いた。
自分がまだあまりにも若く、そして経験が不足しているという自覚がある。
他にも候補がいたはずなのに、何故自分なのかという思いがあった。
ケフカはゆっくりと口を開いた。
「お前に隊を束ねる力があると思ったから選んだ。」
ケフカはセリスの目を見た。
「陛下も認めたんだ。お前の才能を。」
そうケフカは言った。

ケフカの言葉を受けて、セリスはケフカを見つめ返す。
不安げな目をしているとケフカは思った。
ケフカはそれを酷く愛おしいと思った。
隊の長はセリスになるが、実際はそれをケフカが後ろから支える形になるだろう。
皇帝がこの件を了承したのは、それを見越しての事だとケフカは思っている。

コンコン。
不意にノックの音。
「郵便です。」
ケフカは立ち上がった。

セリスは座ったまま物思いに耽っているようだった。
ケフカは横を通りがてらにセリスの頭をするりと撫でた。
(お前は何も心配しなくていい。)
そう思いながら。


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何通かの手紙を受け取って、ケフカはさらりとその内容を確認した。

その中に薄いベージュ色の封筒を見つけて、ケフカは心の中で舌打ちをした。
宛名に自分の名が書かれているが、字は殴り書きの様に汚く、その綴りすらも間違っている。
封筒の裏には[マランダ中央孤児院]とだけ印字されており、送り手の情報は書かれていなかった。
ここ最近、同様の封筒が何通も届いていて、ケフカにとってこの件は片付けなければならない事になっていた。

ケフカはやや苛立った表情をしていたが、背を向けていたのでセリスには気付かれなかった。
ケフカは手紙類を机に置いて、再びセリスの前に腰を掛ける。

セリスはケフカを見上げた。
「待たせたな。さあ、何が聞きたいんだ?」
ケフカはそう言って手を組む。
先程までの苛立っていた表情は穏やかなものになっていた。
「ええ…」
セリスは確認したい事を話始めた。
ケフカはそれに対して丁寧に返答していく。
時にはセリスの思い及ばぬ点についても話していった。

セリスはケフカの言葉を一言一句漏らさぬよう、耳を傾けていた。
言葉の1つ1つが染み入るようにセリスの中に入っていった。
ケフカから大きな任務を任せられたという喜びは、それに応えたいという気持ちに変わり、その為には自らが成長しなくてはという焦りに近いものに変わっている。
セリスはケフカの目を真っ直ぐに見て、真剣な表情で話を聞いている。

痛い程真剣な眼差しに、ケフカはセリスの思いを感じ取っていた。
セリスが発する言葉の端々からも、彼女が以前よりも成長していることが分かった。
幾度の困難を乗り越える度にセリスは少しずつ強くなっていった。
絵本を読んで欲しいとせがんでいた小さなセリスは帝国軍の一員となり、遠征中に迷子になった危なっかしいセリスは魔封剣を修め、帝国軍に必要不可欠な将軍の一人となった。マランダで苦戦して泣いていたセリスはその決戦で指揮を執り将軍として勝利をおさめた。
そして今は自分の後継者として、真剣に任務に取りかかろうとしている。
ケフカはそんなセリスの姿のひとつひとつを忘れたくないと思う。

ケフカを知る者であれば、彼のその慈しむような物言いと表情に驚きを覚えるだろう。
ケフカはセリスとの時間を大事にしたいと思った。
時間はあっという間に過ぎ去った。
日が少し傾きつつあるが、話した時間は30分もあっただろうか。

「あと聞きたい事は?」
ケフカは言った。
「ううん。大丈夫。あとは実際にしてみてからね。」
セリスはそう答えた。
が、その瞳は頼りなげに揺れて、声が幾分弱々しい。
(強がっているようだ。)
そうケフカは思う。
セリスには弱気の時に声が小さくなる癖がある。
(そこは治ってないな。)
ケフカは思った。
セリスは大丈夫と言ったが、前任の話を少し聞いただけで、その責を担える程、その仕事は甘くはない。
重責を負う事に対して、不安を抱くのは誰しもにある事だが、セリスには実力が不足しているという引け目があるのだろう。
だから不安を抱きながらも、弱音は吐けないでいる。
ケフカはそう感じたが、セリスはその心中を察する事もなく椅子から立ち上がって、続けた。
「時間を取ってくれてありがとう。ケフカみたいになれるまでは時間が掛かると思うけど、やってみるわ。」
「ああ。」
セリスは気丈な様子を演じて微笑み、出口の方にくるりと体を向けた。
セリスが激務であろうケフカを気遣って気丈に振る舞っていた事までは、ケフカは気が付かなかった。

「本当に、大丈夫なのか?」
セリスがドアへと歩を進めている途中に、ケフカはその背中に問い掛ける。
「うん。」
セリスは顔だけをこちらに向けてそう言った。
「…本当に、大丈夫なのか?」
先程よりもゆっくりとした口調でケフカは再び問い掛ける。
「…うん。」
セリスは背中を向けたまま小さな声で言った。
「本当に?」
ケフカは再び聞いた。
「…。」
三度目の問いにはセリスは答えなかった。

その背中はやや丸まり、肩はか細く見えた。

さっきまでの気丈な言葉とは裏腹に、その後ろ姿は頼りなげで、弱々しい。
(強情な。)
健気な様子にケフカの感情は突き動かされた。
出口への歩みを止めたセリスに、ケフカは立ち上がって一歩、また一歩と近付いた。
ケフカはセリスの後ろに立ち、その肩にそっと手を回した。
少し傾きつつある日が窓から射し込んで、1つの影を作る。
ケフカがセリスを抱き締める格好になる。
不意の事に、セリスは一瞬息を飲んだ。
心臓が早鐘の様に打ち、息苦しくさえ感じる。

「辛ければ俺を頼れば良い。」
セリスが戸惑っているとケフカはセリスの肩に顔を埋めて、耳元に囁いた。
そして少し強く抱き締める。
かすかに温かい吐息と囁く声がセリスの耳に優しく届いた。
セリスは今自分がどうすれば良いのか分からなかったが、ケフカの身体の温もりとその香りに安らぎを覚えた。

本当にわずかな時間、二人の影は重なっていた。

トントン。
静寂を破るけたたましいノックの音に、セリスとケフカは離れた。
「じゃ、また。」
ケフカが言うと
「うん。」
セリスは一言だけ答えた。
セリスはケフカの顔を見る事が出来なかった。

セリスは逃げるように部屋を後にする。
望まれぬ訪問者がドアの前にいて、セリスはぶつかりそうになる。
セリスは小さく「失礼。」と言うのが精一杯だった。
訪問者は面を食らったような顔をしていたがセリスは気が付かなかった。

セリスは下を向いたまま、ズンズンと廊下を歩く。
顔が熱い。
膝が少し笑うような感じがする。
今までに経験したことのないような感情に、セリスは戸惑っていた。

セリスは耳まで赤くしながら、任務へと戻った。

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