建物を出ると正面からシド博士が歩いてくるのが見えた。
「博士。」
「おお、セリス。戻っていたのか。」
シドは力なく微笑む。
「ええ。」
シドの言葉にセリスは頷いた。
遠征に立つ数か月前に言葉を交わしたのが最後だった。
「それより博士、疲れている?」
セリスはシドの表情の陰りに気が付いてそれとなく様子を窺った。
「いいや、大したことは無い。」
シドが否定したので、セリスはそれ以上追及はしなかった。
「博士、さっき陛下からケフカの隊の人を受け入れるよう命じられたわ。ケフカが陛下直属の魔導士に就任するから。」
「うむ。そうか。」
シドは頷いた。
「博士は、知っていたの?」
それほど驚いていない様子のシドに、セリスは聞いた。
「ああ。ケフカの着任の命の時には私もいたからね。魔導士の任務は私の魔導研究と切り離せないから呼ばれたんだろう。」
「そうだったのね。」
「まあその時までは私も何も知らなかったよ。陛下のお心には以前からあったのかもしれないがね。」
シドは言った。
(そう、実際に命令が下るまでは思ってもみなかった。)
シドは幾分表情を曇らせた。
シドは先程までケフカと研究所で膝を突き合わせていた。
前途の多難さを思い、それがシドの顔に陰を作っている。
「博士?」
セリスは訝しげに聞いた。
「うん?それでセリスは命令を聞いてどう思ったんだい?」
シドの様子にセリスはやはり違和感を覚えたが、はぐらかされた。
「私は、突然の事で、驚いたわ…。本当に突然だったから何も聞いていなくて。」
「そうか、大丈夫なのかい?」
シドは心配そうに聞いた。
皇帝やケフカは、セリスがさも後任に相応しいように話をしていたが、10代半ばのセリスには流石に荷が重いのではないかとシドは思っていた。
しかし、帝国軍の内情にはシドは詳しくないので甘受した。
「ええ。」
シドの問いにセリスは力強く頷いた。
「博士、ケフカを見なかった?部屋にはいないみたいで。」
「ああ、さっきまで研究所で一緒にいたんだがね。そういえば外に出ると言っていたな。街に行ったんじゃないかね。」
「そう。ありがとう。探してみるわ。」
(…。)
セリスの力強い返答に、シドは複雑な表情をする。
(セリスに何も起こらねば良いが。)
シドには不吉な影が忍び寄っているように思えてならなかった。
「セリス。」
「うん?」
「ケフカは最近、非常に忙しい。食事も満足に出来ていないくらいだ。要件が済んだら早く切り上げるんだよ。」
「分かったわ。ありがとう。」
そう言ってセリスは足早に去った。