「気付いていたか?奴の目に。」
皇帝は聞いた。
気のせいか、その声は幾分喜色を湛えているように思えた。
「目、ですか?」
シドはおうむ返しする。
シドはケフカの様子を思い出そうとしたが、先程の不可解な笑みの方が強く印象に残り、目までは上手く思い出せなかった。
「あの目。あの野望に満ちた目だ。しおらしくしていたが奴の目は死んではいなかった。」
ガストラ皇帝は言った。
「…。」
(陛下は何を言わんとしているのだ。)
シドはガストラ皇帝の顔を見つめた。
「あやつは黙って消えるつもりはないと見える。何が望みなのかは分からぬがな。」
(陛下はあの男の様子が表面上の物だけではないと、気付いていたのか。)
シドは皇帝の言葉に確信めいた思いを抱いた。
「ふふ、儂も昔はあのような目をしていた。あの目は良い。いつか偉業を成し遂げるだろう。」
「……。」
(…陛下はかつての自らの姿と、あの男を重ね合わせているのだろうか。)
シドはガストラ皇帝の言葉に複雑な表情をし、同時に不安を覚えた。
「奴はまだ閉じ込める必要はないと思っている。」
「陛下。」
シドは顔をしかめた。
嫌な予感がする。
「必要があれば戦にも出すつもりだ。」
(…これは陛下の悪い癖だ。)
シドは思った。
「これも君主の務めだ。奴に引き下がる気がないのであれば儂が奴の野望を幾らかでも叶えてやろうではないか。」
そう言ってガストラ皇帝は笑った。
「……。」
「奴が耐えられたらの話だがな。」
ガストラ皇帝は付け加えた。
(陛下はあの男を試そうとお考えなのだ。)
シドは思った。
ガストラ皇帝はケフカの野心を見抜き、敢えて利用しようとしている。
そのことにシドは恐れを抱いた。
「それに、お主は奴がどんな経過を辿るか、興味深いのではないか?」
ガストラ皇帝は言った。
「…。」
シドにとってケフカは古くからの知人であるが、同時に魔導研究の対象として、興味深い存在だった。
しかしその考えは常人には理解されないだろうこともシドは分かっていた。
(陛下には何もかも見透かされているようだ。)
シドは感じ、ガストラ皇帝の顔を見た。
「ははは。それがお主だ。」
シドの図星を突いたことに皇帝は喜んだ。
「人に魔導の力を授けるなども狂気に侵されてなければ出来る事ではない。シドよ、お主も我らと同じ狂人なのだ。」
皇帝はそう言い、上機嫌に笑った。