皇帝の話が終わると、ケフカはゆっくりと顔を上げた。
シドはケフカの様子を凝視していた。
その時、ケフカの口元が裂けるように歪んだような気がした。
(この男、笑っている…。)
シドがその奇怪な表情に気付いた時、背筋にゾクりと悪寒が走った。
ケフカはゆっくりと話し始めた。
「陛下。私のような者にまで慈愛をいただいて、陛下のお心の深さ広さには、何と申して良いか…。」
ケフカは胸に手を当てて、さも従順な臣下の如き口調で述べる。
その様子に皇帝は満足そうな表情を浮かべた。
(玉座にいる陛下には、先程の笑みは見えなかったようだ。)
不可解な状況に、シドはうすら寒さを覚え、堪らずに口を開いた。
「陛下、お言葉ではございますが、」
「何だ。」
「かの病は著しく精神に異常をきたすもの、任務を行わせるには負担が大き過ぎると存じます。」
シドは、この男に重要な業務を行なわせるのは危険ではないか、という言葉を飲み込み、暗に考え直すように皇帝に伝えた。
「シドよ。」
皇帝は口を開いた。
「力を持たぬお主には理解出来ないだろうが、同じ力を持つワシには分かる。その苦しみがな。」
「陛下…。」
「…しかし、陛下、あの病は、難しい病でございます。」
シドは食い下がった。
ガストラ皇帝が一度決めた事を覆す事は殆ど無いが、シドはそれでも伝えずにはいられなかった。
「分かっている。精神の病、気が触れていく不治の病だ。」
ガストラは答えた。
「ならば…。」
「黙れ。儂に指図するでない。お主も偉くなったものだな。」
シドは更に進言しようとしたが、遂に皇帝は怒鳴り、シドをぎろりと睨んだ。
「申し訳ございません。」
シドは平伏した。
やはり駄目であったかと、シドは歯がゆい思いをする。
「我が帝国は歴史上類を見ない偉業を成し遂げる。それは凡人には不可能。狂人にこそ達成出来るというもの。人でありながら魔導帝国を築いた儂も狂人の類いであろう。なぁ、シドよ。」
皇帝はシドをじろりと見て言った。
「博士…、どうかお力をお貸しください。」
ケフカは微笑んだ。
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