皇帝の間。
シドはガストラ皇帝に、ケフカの後遺症が発症していた事を伝えた。
「…やはりか。お主の言うとおりになったな。」
皇帝は呟き、シドは頷いた。
「例外は無かったということか。」
皇帝はふぅと嘆息した。
「お主は奴がいつまでも、軍を統率出来るとは思っていなかった。
だから、病が発症する前に奴を研究所へ引き入れたいと言っていたのだろう。」
皇帝は言った。
軍人としてのキャリアが長ければ長いほど、失った代償は組織にとっても本人にとっても大きくなる。
魔導研究員という立場であれば、ケフカ本人の資質も生かす事が出来、病を発症させても人知れず治療をすることが出来る。
シドはそう考えていた。
シドはこれまでケフカに魔導研究所で働くように持ちかけていたが、その度に断られていた。
今にして思えば、ケフカは自分の傍に寄り付きたくなかっ たのかもしれない。そう思う。
もっとも、病が発症してしまった今では、その計画も霧散したと言える。
そのうち働くことも出来なくなるだろう。
シドの脳裏ではケフカが現在の職を辞した後の治療プランが着々と練られていた。
ガストラ皇帝はそのシドの案に概ね同意していたが、
「魔導の注入から10年以上だ。それが今になって発症するとはな…。儂はお主の言う事が外れはしないかと思っていた。」
実際はシドの予測自体が外れる事を願っていたらしい。
「…。」
皇帝の言葉に、シドは複雑な表情をする。
「お主には結果が分かっていたのだな。」
皇帝は淡々と言った。
「さて。奴の今後だが…。」
皇帝は話し始める。
魔導注入から十数年を経てなお魔導戦士として活動しているケフカは、魔導研究の創世記から関わっていた者とっては特別な存在だった。
それは皇帝であるガストラにとっても例外ではない。
ケフカに今回、魔導の後遺症が発症してしまった事は、皇帝に少なからぬ衝撃をもたらしていた。
それはシドの研究結果が示す、初期の魔導注入被験者の後遺症発症率が9割9分を超えているという事実とは別の、
人間としての心情がもたらした衝撃だった。
「奴は帝国のために魔の力を手に入れ、そして壊れた。壊れる定めにあるにも関わらず、従順にも儂の手足となり、勤め上げたのだ。
奴が帝国の魔導の歴史の一端を担ったことに疑いは無い。儂は功績に応じた地位を用意してやりたいと思っている。」
皇帝は言った。
”功績に応じた地位”という文言にシドは幾分眉をひそめた。
(陛下にはあの男を退任させる気は無いのだろうか。)
そう違和感を覚える。
「失礼致します!」
シドが疑問を口にしようとした時、見張りの者が間の入り口で声を上げた。
「ケフカ殿が参られました。」
「うむ、通せ。」
皇帝は答えた。
「…では、私はこれで。」
シドはその場に自分がいる事は相応しくないと思い、辞そうとしたが、
「待て。お主にもいてもらいたい。」
皇帝は呼び止めた。
「…承知。」
シドは不穏な思いを抱えたまま答えた。