ぎいと重い扉が開き、ケフカが帝の間に姿を現す。
シドはその様子を注視した。
青白い顔色をしているが、足取りはしっかりとしていた。
「お待たせして申し訳ございませんでした。陛下。」
ケフカは皇帝の前まで参じて、頭を下げた。
「構わぬ。シドから話を聞いている。このたびは大変だった。何と言って良いか分からぬ。」
「身体は大丈夫なのか?」
皇帝は現れたケフカを気遣った。
それは皇帝が滅多に見せない他者への気遣いであり、シドは意外に思った。
「はい。お心遣い痛み入ります。」
ケフカは答えた。
「儂はお主が、我が帝国の魔導の歴史の一端を担い、帝国軍に於いて大きな功績があったと思っている。
シド博士にも話していた。儂はお主に功績に応じた地位を用意してやりたいと考えている。何か申したい事はないか。」
「陛下…。」
皇帝の申し出に、ケフカは皇帝を見上げる。
「うむ。」
「陛下、私はもうじき気が触れて常人ではなくなります。哀れな気違いの願い、お聞きいただけないでしょうか。」
ケフカは言った。
「良い。申してみよ。」
憐れみを込めて皇帝は目を細める。
「わたくしは、これまで魔の道を歩んで参りました。それならば、命ある限りこの道を極め、陛下と帝国の御為に全てを捧げとうございます。」
「…。」
ケフカの言に皇帝はわずかに身を動かした。
(…!)
シドはケフカが魔導を極めたいと皇帝に進言した事に驚きを隠せず、その姿を凝視しながら、共に皇帝の返答を待った。
「…。」
皇帝は玉座からケフカを見つめていた。
「何卒…。」
ケフカは深々と頭を下げた。
「主の気持ち、分かった。」
数秒経って皇帝は口を開いた。
「お前は儂の為にガストラ帝国の為に、これまで良く働いてくれた。その願い、聞き入れよう。命尽きるまで、儂に奉仕するが良い。
その才があれば、魔導の研究においてこれからも我が帝国に貢献出来るだろう。」
皇帝は言った。
「陛下…。」
シドは皇帝の発言に衝撃を受け、思わず呟いていた。
シドにはケフカの願いも、皇帝がそれを聞き入れた事も、理解出来なかった。
皇帝はシドの様子には気にも留めず、続ける。
「ケフカよお前を皇帝直属の魔導士として召し抱えよう。儂の命で精力的に働いてもらおう。そして、シドと共に魔法や魔導兵器の開発にも携わるが良い。」
予想だにしていなかった状況に、シドは固唾を飲んでその場を見守った。