今日書類が出せなければどんなことになるか。
ケフカは気分を切り替えようと少し首を振る。
取りあえず、鞄から必要な物を取り出そう。
そう思い直して、ケフカは鞄を開けるために、しゃがみこんだ。
その時。
バサ
不意に視界が狭く暗くなる。
しゃがんだ反動で、髪の毛が顔の前に流れたのだ。
そうだ、今日は髪を結っていなかった。
ケフカは思い出した。
髪を結っていない理由は1つ。
使っていたリボンが、遠征での戦闘中に使い物にならなくなり、仕方なく捨ててきたからだ。
ケフカはいつもであれば、替えの1つは持っていく。
しかし、今回の遠征は出発前の時間があまりにも慌ただしかったため、持っていくのを忘れていた。
リボンが無いので、当然遠征先で髪を結う事は無かったが、伸びる前はそれほど気にならなかった。
もっとも、遠征の後半にはかなり伸びていたので鬱陶しいと感じていた。
元々、ケフカの髪は癖がなくサラサラとしているため、結っていなければ顔を下げた拍子に前に落ちてくる。
そんな事情で、顔を始終下げているデスクワークをする時は、リボンが必需品になっていた。
今はただでさえ集中力が無いのに、リボンが無ければ鬱陶しくて仕事にならない。
ケフカは予備があるはずと立ち上がって、棚を探しだした。
しかし、あると思っていた箇所には、見あたらない。
ケフカは少し考え込み、思い出す。
(…しまった。)
そうだった。
前回の遠征の時に替えが無くなっていて、その時に気付いていたのに、
忙しさにかまけて買わなかったのだ。
ケフカは後悔した。
リボンは手元に1つも無い。
髪の毛が邪魔なまま、作業を阻害しそうだ。
思えば最後に髪を切ったのが、いつだったかすら記憶にない。
遠征に行く前に軍内の理容室に足を運んだが、あいにく理容師が急病にかかったとかで、
しばらくの間閉鎖すると張り紙が張られていた。
ケフカが髪を切れる日は、その日しか無かったので、仕方なくベクタ市街に向かう。
しかし。
1件目臨時休業。
2件目予約でいっぱい。
3件目どう見ても出てきた客の髪型が失敗している。
4件目店内で待っている間に牛が侵入した。
等、絶望的に理容院運が無く、ケフカは仕方なく髪を切るのを諦めた。
帰りしな、夕日をバックにカラスに鳴かれたのを思い出す。
(あれは時間の無駄だった。)
ケフカは思い出したが、落ちてくる髪を気にしつつ、荷物から必要な物を取り出す。
物を取り出し終えて、再び時計を確認する。
4時40分前。
いつもなら5分もしないで終えられる作業が、今回に限って30分近く経っている。
リボンを探したのが間違いだった。
(まずい。)ケフカは焦りを感じていた。