帝国軍にも休日がある。
先日大規模な遠征が終わり、明日からが兵士たちにとっては1年ぶりとなる3日間の連休。
各々が予定を立て、それを待ちわびていた。
作戦会議室ではマランダ遠征の引き継ぎが先程終了したところだった。
レオ将軍と2人の将軍、そしてケフカとセリス。
「本当に助かりました。急な指名だったので、内心焦っていたのです。」レオは言った。
「私はマランダにはそれほど詳しくないですし、休暇どころじゃないと思っていたので。」
レオはほっとしているようだった。
「この後、どうですか飯でも?」資料をしまいながら、レオが聞く。
「ああ、特に予定は無いしな。」ケフカは答えた。
「セリス将軍は?」
「行きます。」セリスは振り向いて言った。
「行こう。」
建物を出る。夜になると肌寒いが、ベクタのメイン通りは休暇の前日ともあっていつもより賑わっている。
とある1件の店に入った。
席でぱらぱらとメニューをめくる。
「何を飲みますか?ワインがありますよ。」レオは言った。
時節柄、新酒がメニューに出ている。
「じゃあ、それで。」ケフカは答えた。
「分かりました。これをテーブルに1本。グラスは…。」
レオがてきぱきと注文していく。
対角線上にいるセリスも色々と頼んでいるようだ。
皆、束の間ではあるが任務から解放されるとあって自然と笑みが零れている。
「休みはどこかへ?」隣席のレオにケフカは聞いた。
「ええ、実家に顔を見せようと思っています。ベクタの郊外なので近いのですが、家の者とは2年程あっていないですし、
特に母親が寂しがっているみたいで。」
レオはそこまで言って気が付いた。
セリスは孤児院出身だった。
「すまない、無神経だった。」
セリスは何気無く聞いていたが、レオは謝る。
「良いんです。実の親の記憶は殆どありませんし、シド博士がいますから。」
セリスが明るく答えたので場の雰囲気が和んだ。
セリスは幼い頃に両親を亡くし、ベクタの孤児院で育った。
物心つくまえにシド博士の元に引き取られ、それからは魔導研究所、帝国軍がセリスの家だった。
「明日は?」
ケフカが聞くとセリスは答えた。
「博士の植物園の手入れを手伝うつもりです。この間は途中で用が出来てしまって終われなかったから。手入れが終わったら買い物に行く予定よ。」
「お待たせしました。こちらがワインです。」
注文したワインや飲み物と幾つかの料理が運ばれてくる。
ケフカはワインの栓を開けて、レオにグラスを持つよう促す。
「注ごう。」
「すみません、ありがとうございます。」レオは言った。
「お疲れ。」
グラスを掲げて、ワインを口にする。
「あー美味いですね。」レオは言い
「ああ。」ケフカは答えた。
各々が食事に手をつけ、杯を進める。
食事も済んで、飲み物を片手に話が弾む。
レオが某将軍にワインを注ごうとすると、グラスの半分にも満たずに切れてしまった。
「あー無くなってしまった。もう1本下さい。」
セリスはワインを見て思い出したのか、ケフカに聞いた。
「そういえば、ワインの季節、誕生日が近くなかったですか?」
「そういえば今日だが。」
ケフカは何気無く答えたが、セリスには何か引っ掛かったらしい。
「え、どうして言ってくれなかったんですか?」
「別に言う程のことじゃない。」
「別にって。誕生日よ。」
セリスが何故か突っかかってくる。
「今日が誕生日なのですか?」
その話を聞いていたレオが、ずいとケフカの方に寄って口を挟む。
レオは既にかなり飲んでいるせいで、やけに明るく声がデカい。
「ああ。」ケフカは答えた。距離が近い。そう思いながら。
「おめでとうございます。どうぞ、注ぎましょう。」レオは言う。
「止めてくれ。喜ぶ歳でもない。」
ケフカがそう言うも、レオは断る隙も与えず強引にグラスに注いでいく。
悪気は無いのだろう、断る訳にもいかず、仕方なく注がれるままになる。
「誕生日が嬉しくないのですか?自分は毎年嬉しくて仕方がないですが。」レオはよく分からない事を言った。
「それは君だけだろ。」別段親しい訳でも無いのに、ケフカは思わず言ってしまう。
「プレゼントを用意して無いわ。」
セリスは何故かレオに文句を言っていた。
そうだな。と、うんうん頷くレオ。
何だこいつらは。イベント事がそれ程大事か。
理解出来ない。
「分かったわ。」
ぶつぶつとレオに相談、というか独り言を言っていたセリスが立ち上がった。
「何が。」ケフカは頬杖をついてセリスを見上げた。
何が分かったというのか。
「私がハッピーバースデーを歌ってあげる。」
使命感を帯びたセリス。
「は?」何故、そうなる。
「♪~ハーッp
セリスが歌い出して気付いた。
テンションがどうもおかしい。
「お前、酔ってるのか?」
「なにが?お酒飲んで無いもの。酔ってなんかないわ。」
セリスは答えたが、顔はほんのり赤く、目元がとろんとしている。
セリスがアルコールを進んで頼むことはなかったと思っていたが。
「全~然、酔ってなんからいわ。」
ろれつが回っていない。
どう見ても酔っている。
「誰か飲ませたか?」若干周りを睨んで問うが、皆首を振った。
「セリス将軍は飲めるのか?」誰かが口にする。
「なんか、酒癖が悪そうだな。」
…確かに。
そう思っていると、セリスがまた歌い出した。
「おい、止めろ。」制止するが駄目だ聞いちゃいない。
流石に恥ずかしくなり、隣席のレオに目で訴える。
(なんとかしてくれ)
(わかりました)
「ほら、セリス将軍。困ってらっしゃるから。」
レオはセリスの後ろから話し掛け、歌を止めることに成功。
ナイス援護。良い奴だ。
レオがセリスを止めている間に、セリスの目の前にあるグラスが目につく。
数は、1、2、3、4。
もしかして、そう思い、そのグラスを手に取って扇ぐ。やはりアルコールの匂いがした。
しょうがない。多分、間違えてアルコールの入ったカクテルを頼んだのだろう。
既に4杯飲み干している。
4杯も飲んだのに酒だと気付かなかったようだ。
というか仕事柄、飲んでいる物が何なのかくらいは気付いて欲しい。
将軍に推薦したのは間違いだったのか。
軽く凹む。
一方セリスは、話し易いのか何故かレオに文句を言っている。
「レオさん、聞いて下さい。この人は今日が誕生日だっていうのに全然嬉しくなさそうなんです。お祝いもしてるのにどういうことですか?」
「そんなことはないと思うぞ。きっと照れていらっしゃるんだ。」
レオは真面目に酔っ払いの絡みに答えている。
ホント良い奴だな。
セリスは(本当?)とでも言いたげな表情でこちらを伺ってきた。
セリスとレオの視線が集中し、よく分からないプレッシャーを感じる。
「ああ、そうだ。恥ずかしかっただけだ。気持ちは嬉しい。」
やっとのことで答える。
「良かった~」
セリスは満足そうに呟くと、机に伏して寝息を立て始めた。
その様子を見て、ケフカはレオと目を見合せ、幾分ほっとする。
レオがまた新しくワインを継ぎ足して、喉を潤す。
まあ悪くない誕生日だ。
明日は二日酔いかもしれないと思いながら、ケフカは甘い酔いに身を委ねた。