私はガストラ帝国軍の衛生兵をしていた。
長年患っていた右足がいよいよ使い物にならなくなったので、
この度退役を決意した。
いざ辞めるとなると、なんとも時間が有り余るようになった。
手慰めに手記でも残そうと思い、ペンを取った次第だ。
あれは何年前だったか。
初っ端から記憶が曖昧だ。
兵達の間では語り継がれている酷い戦があった。
ガストラ帝国と某国との決戦。
それは永遠に続くのかと思われた泥仕合だった。
帝国軍は勝利を収めたが、それが時間にすればわずか二年間の出来事だった事に、今更ながら驚かされている。
勝利を収めた帝国にとって、戦果は非常に大きいものだった。
だが、犠牲もあまりに多かった。
私は戦争の終結時には、レオ将軍が率いる第三師団に所属していた。
第三師団に加入したのは戦争終結後を含むわずかひと月程であったが、私はこの人の事が好きになった。
レオ将軍はまだ年若かったが、噂の通り清廉な人柄とそれに由来する人望、
戦に於いては正々堂々としそれでいて勝利を収める手腕を持っていた。
所属する兵達の多くもこの人を慕っていただろう。
しかし此度の戦に於いて、犠牲者が全軍中で一番多かったのがここ第三師団であった。
衛生兵である私が第一師団からレオ将軍の第三師団に転属になった理由は、負傷者・犠牲者が非常に多いためであった。
第三師団に犠牲者が多かった理由の一つは、彼の若さに起因する経験不足であったと言われている。
また、レオ将軍は上層部の命令に忠実に従う気質を持っていた。
あまりにも正直な戦をしたのだろう。
今思えばそれも彼らしいが、当時師団は、沢山の仲間を失った我々は喪失感に苛まれていた。
あまりにも長い時間が過ぎ、多くの兵たちの亡骸をその場に打ち捨てざるをえなかったのだ。
私は加入して数日で、その過酷な状況に打ちのめされた。
まともに弔えなかった事、無残な姿を野ざらしにしてしまった事、亡骸の一部を除いて彼らをその場で処理せざるを得なかった事。
あの場にはそれらに対する後悔の念が、渦巻いていた。